A peaceful nation 平和な国
「あの二人がどうかしたの?」
リリーがジェームズに尋ねた。
「あの二人、あれから四年――いや、五年かな――も経つんだよ!そろそろ動きがあってもいいだろう?」
キラキラとした目をシリウスに向けたジェームズは、悪戯仕掛け人の顔をしていた。
「あれからっていつからだ?」
しかしシリウスには通じなかったようで、彼は困惑した表情でジェームズを見つめ返した。
「付き合い始めた日のことさ」
ああ、とシリウスは納得顔になると先程のジェームズの質問に答えた。
「確かにそろそろ何かありそうだな」
「あなたたち、あの二人に何を期待しているのよ」リリーが呆れ声で口を挟んだ。
「もちろん――」ジェームズはニヤリと笑った。
「ハリーのプロポーズさ」
ルーピンはちょっと苦笑し、スネイプは興味なさそうにそっぽを向いた。
「ハリーにならを任せられるだろ?」
ジェームズが呆れたままのリリーに言った。
「それ、逆ではないのね――にハリーを任せるのではなくて」
リリーがちょっと不思議そうに、ジェームズに確かめた。
「もちろんさ。なあ、シリウス?」
本来ならの結婚相手に口を出せるのは実の父親であるシリウスだけなのだが、この家ではそんなことも通用しないらしい。シリウスは自分の台詞をジェームズに盗られ、少し不機嫌そうだ。
「どこの馬の骨か知らない奴にを渡すよりは、な」
それでも、とシリウスは己の心の中で呟いた――本当なら、ずっと自分の傍にいてほしかった。
「シリウス、また結婚式で泣くのかい?」
シリウスのどこか寂しそうな表情に、ルーピンがクスクスと笑いながら突っ込んだ。
「なっ――」
シリウスは慌てた様子で何かを言い返そうとしていたが、結局、何も言えなかった。
「大丈夫だよ。またみんな家族になるだけさ」
ルーピンが今度はにっこり笑ってシリウスに言った。
「わたしの結婚で君とわたしは家族になった。次にハリーとの結婚で君とジェームズが家族になるだけだろう?」
これでみんな家族だ、とルーピンは楽しそうに笑っていた。
「しかし、まだ結婚すると決まった訳ではなかろう」
スネイプがどこか浮かれた様子のジェームズを傍目に、シリウスにきっぱりと言った。
「まあ、それもそうね。ハリーがにプロポーズをしないかもしれないし、もしくはがハリーのプロポーズを断るかもしれないもの」
リリーはそう言って、テディの食事を片付けて、彼が散らかしたテーブルの上や、離乳食がべったりついた口の周りを綺麗に拭き始めた。
「リリー、わたしが――」
「リーマス、私にやらせて?こうしてると、ハリーを思い出すのよ」
ルーピンをさえぎって、リリーはにっこりと笑いながら作業を続けた。
「僕、――わっ――」
リリーがテディの顔を拭いていると、テディが何かを言いかけたが、生憎、それでリリーも作業の手を休めるものでもなく、テディの声は父親に届かなかった。
「さ、終わったわ」
リリーはテディを開放すると、今度は自分の夕食の片付け始めた。するとその気配を察したのか、パチンと音がしてクリーチャーが現れた。
「クリーチャーめの仕事でございます」
クリーチャーはそう言って、半ばリリーから奪うようにして、食器を台所に運んでいった。仕事の無くなったリリーは再び椅子に座った。
「ありがとう、リリー。それじゃあテディ、寝る準備をしようか」
ルーピンも食べ終わった食器をクリーチャーに任せ、椅子から立ち上がってテディを抱き上げた。
「僕、寝ない。が帰るまで待つもん」
ルーピンは、自分の腕の中で暴れる息子に苦笑を隠せなかった。案の定、といったところだろうか。
「さてと――」
すると突然、隣でジェームズも立ち上がり、シリウスに向かって言った。
「僕らもそろそろ帰ることにするよ。リリー、行こう」
シリウスは頷くと自分も立ち上がり、彼らを見送りに、玄関ホールまで行った。
「バイバイ、ジェームズ。バイバイ、リリー」
テディが小さな手を二人に振ると、ジェームズもリリーも優しく微笑んでテディに手を振り返した。
「気をつけてね」
ルーピンはそう言って笑ったが、スネイプは表情を動かす様子もなく、また、何かを言う様子もなかった。しかし、それでもリリーはスネイプににっこりすると、また来るわ、と言った。
そして、ジェームズもリリーもシリウスの後を追って厨房から出ていった。
「二人っきりだね、セブルス」
しばしの沈黙の後、ルーピンにスネイプが素っ気なく言った。
「我輩にはお前と二人っきりになる趣味はない。だいたい三人だろうが」
スネイプはテディを指差した。
「まあ三人なんだけどね」
ルーピンが苦笑した。
「でも、この状態で、わたしがだったら、君も二人っきりだって思うんじゃない?」
バカバカしい、とスネイプは立ち上がると自分の部屋に行ってしまった。
「ちょっといじりすぎたかな?」
ルーピンが腕の中のテディにそう問い掛けると、テディは意味がわからなかったようで首を傾げていた。

そのころ、ハリーとはマグルのレストランに大満足で駅に向かって歩いていた――はずだった。少なくともはずっとそう思い込んでいた。目の前に川が見えるまでは。
「ねえ、ハリー」
が、隣で自分に歩調を合わせて歩くハリーを呼んだ。
「帰り道、違うと思うんだけど・・・・・」
「うん」
しかしハリーは生返事で、他のことを考えているようだった。
「この道であってるの?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
何を聞いても返事は同じで、はちょっと心配になってきた。
「私、勝手に帰っちゃうよ?」
「うん――・・・・・えぇっ?」
別の反応が返ってくるまで時間はかかったが、確かにハリーに自分の声が届いたらしい。ハリーは慌てた様子でに問いかけた。
「ごめん、何か気に障ったなら謝るよ」
「違うわ」
クスリとは笑って答えた。
「ちょっと心配になっただけ。あなたが私の話を聞いていないみたいだったから」
どうしたの、とが心配そうに、そして不思議そうに彼を見上げると、ハリーはちょっと苦笑いして、なんでもないとだけ言った。そして、しばらくの沈黙の後、ハリーが作ったような笑顔をしてを見下ろした。

その笑顔が、ときどきジェームズが辛いのを我慢して自分に安心させるように見せる笑顔に似ていて、はむしろ不安になった。
「やっぱり、今日はもう帰ろうか」
ハリーの言う「やっぱり」や「もう」という意味合いが分からなかったものの、はハリーの作り笑いの方が気になった。
「『姿くらまし』で帰ろう。それでいいかい?」
「えぇ」
ハリーはの不安な様子には気づかないようで、杖を取り出すと、の手をしっかり握り、その場で一回転した。バシッという音がマグルの通りに響き渡った。
足が地面につくと、はゆっくりと目を開けた。案の定、そこはグリモールド・プレイス十二番地だった。
「今日はごめん」
がじっと我が家を見上げていると、突然ハリーがそう言った。
「謝ることなんてないじゃない。私、十分楽しかったわ」
ハリーが夕食後からの不審な行動について謝っているのはも分かったが、それには何も触れなかった。
「私の方こそ、疲れているのに『会いたい』なんてわがまま言ってごめんなさい」
は不意打ちでハリーの頬にキスすると、本当にすまなそうに謝った。彼の表情は昼間に見たときより、疲れているように見えたからだ。
「僕のことなら気にしないで。君の所為じゃないんだ」
ハリーはちょっと困ったようにそう言うとを抱き寄せた。
「好きだよ」
「私もよ」
いつものようにそう言って、自然とお互いの顔が近づき、はゆっくりと目を閉じた。
「――おい」
しかし、生憎、今日はお預けのようだった。声がした方を振り向くまでもなく、邪魔したその声が誰のものかはすぐにわかった。
「ここは家の前だぞ」
シリウスが呆れた声で続けた。
「いやぁ、お邪魔して悪いね、ハリー」
ジェームズも一緒らしく、彼の楽しんでいる声も聞こえた。
も彼らを見ようとしたのだが、未だ、ハリーの両腕が自分の背中に回されていて、首しか動かせないのだ。しかし、ハリーの、明らかに不愉快そうな顔を見れば、十分に彼らがどんな顔をしているのか予想がついた。
「私たちは先に帰るわ」
また新たな声がしたかと思うと、バシッという音が聞こえ、「姿くらまし」したのだと分かった。
「母さんだよ。父さんを連れて帰ったんだ」
の不思議そうな顔が目に入ったのか、ハリーはそうに囁いた。
、早くしろ」
シリウスの不機嫌そうな声が聞こえ、は仕方なくハリーにさよならと告げた。
「また今度」
二人はもう一度抱き合うと、すぐに離れた。は後ろ髪を引かれる思いで、シリウスと共に家の中に入った。入る直前、またバシッという音が聞こえたので、ハリーも「姿くらまし」して帰ったのだろう。
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続々々AFTER小説。笑
<update:2008.11.18>