◆◆◆A peaceful nation 平和な国
「信じらんない!」
「悪かったって言ってるだろうが!」
玄関のドアが閉まった途端、とシリウスの言い争いが始まった。
「悪かった?悪かったですって?」
母親に似ているに詰め寄られると、どうも自分は彼女を思い出してしまって強く言えないようだ、とシリウスは頭の片隅で思った。
「私、もう大人なのよ!私が誰とキスしようが勝手じゃない!」
がキッと彼をにらめば、とても不愉快そうに謝って、でも反省の色は見られない。
「だから、悪かったって――」
「一体、どうしたんだい?」
そのとき、玄関ホールにルーピンが姿を現した。
「最悪よ!」
が大声を出せば、シリウスがより大きな声で言い返す。
「だいたい家の前でそんなことをするから悪いんだろ?」
「どこで何をしようが私の勝手よ」
今度は二人が睨み合いを始めたので、ルーピンはやれやれと深いため息をついた。出来れば、自分はこの争いに巻きこまれたくはないが、この家に住んでいる限りは、そんなことも出来ないだろう。
「シリウス、、少し落ち着いて」
ルーピンがいつもより大きめの声でそう言うと、二人は少し大人しくなった。ルーピンを怒らせると怖いことが体に染み込んでいるからだろう。
「私、もう寝る」
足音荒く上の階に上がって行ったの後ろ姿を、シリウスは少しどこか悲しそうな顔で見つめていた。
「――それで、何があったんだい?」
玄関ホールから客間に移動したシリウスとルーピンは、それぞれ思い思い楽な恰好をし、しばらくの沈黙の後、ルーピンが口火を開いた。
「何もしてねぇよ」
「じゃあ、なんでは怒っているんだい?」
ルーピンはシリウスの態度に少し呆れながらそう言った。
「に聞けよ」
そうするか、とルーピンが立ち上がり、客間を出て行こうとすると、シリウスが彼に一言、呟いた。
「悪かったとは思ってるんだ」
ルーピンは少し苦笑すると、客間を出ていった。
「もそれはわかっていると思うよ」
誰に言うわけでもなくそう言うと、ルーピンはの後を追って、彼女の寝室に向かった。
「、入っていいかい?」
ドアをノックすると、部屋の中からくぐくもった声で、どうぞと言われた。ルーピンは遠慮なくの部屋に入ると邪魔されないように魔法をかけた。
「何?」
ベッドから素っ気ない声が聞こえた。が枕に顔を埋めて俯せになっている。
「シリウスとの言い争いのことでね」
ルーピンはそっとのベッドに近付くと、ベッドに腰掛けた。
「うるさくしてごめんなさい」が小さな声で言った。
「何があったか聞いてもいいかい?」
ルーピンは優しくの髪を撫でるとそう聞いた。すると、しばらくしてが話し出した。
「私、ひどいことしたわ」
ルーピンは黙っての髪を撫で続けた。本来ならこのようなことは母親の役目だろうが、にはもう母親はいない。
「ハリーは疲れてたのに、私、出掛けたりして――それで自分に腹が立ってパパに八つ当たりして・・・・・」
の声が震えていた。
「大丈夫だよ」
ルーピンはを抱き起こすと、彼女と視線を合わせた。
「君が心から謝るならシリウスだって許してくれるさ」
「でも酷いこと言ったわ」
ルーピンはクスッと笑って、の頬を撫でた。
「君もシリウスもカッとなってたんだ。仕方ないことさ。シリウスも分かってるよ、ね?」
は小さく頷くと、怖ず怖ずと笑顔を見せた。
「でも、ハリーと何があったんだい?もっとゆっくりしてくると思ってたが」
ルーピンはベッドに座り直し、今度は心配そうにに尋ねた。
は今日のことを話そうか一瞬迷ったが、ルーピンなら良いアドバイスをくれそうだと、いつの間にか全て話していた。
「やるなあ、ハリーも」
ルーピンはの話が終わると、一言そう言って、ニッコリした。
「が彼のことを気に病む必要はないんだよ」
ルーピンが本当に嬉しそうな顔をしながらに言った。
「でも――」
が何か言いかけると、ルーピンがそれをさえぎって優しく笑いかけた。
「わたしを信じて、。大丈夫だから」
しばらくルーピンの笑顔を見つめた後、はわかった、と笑顔になった。
翌朝、は厨房で反省顔の父親と顔を合わせた。すると、どちらからともなく頭を下げた。
「ごめん」
そのとたん、何だか楽しく、嬉しくなって、お互いに笑顔になった。昨日の口論が嘘のようだった。
シリウスと仲直りしたことで、少し気が楽になっただったが、職場に戻ると自然に昨日のハリーの不可解な行動を思い出してしまう。あれからハリーからの便りはなにもなかった。自ら彼を尋ねて行ってもよかったのだが、そうする勇気がにはなかった。
お互いぎこちないまま数日が過ぎ、はリリーからの頼みでロンドンにショッピングに出掛けた。もちろん、仕事を早退するわけにはいかず、すでに辺りは暗く、ロンドンのビルの明かりが輝いていた。
「リリーがマグルの服を選ぶなんて」
はリリーからの手紙に、もう一度目を通しながら呟いた。
「それに、自分で買いに行けばいいのに」
はふと、リリーが無職であることを思い出し、呟いた。しかし、そこを深く追求しないところが、またらしかった。
「さっさと終わらせますか」
イルミネーションが輝く大通りを歩くと、ふと信号待ちの人々の中に覚えのある人影があるのに気がついた。しかし、としてはその人に会うのが怖くて、相手に気付かれないよう、素通りしようとした。が、無駄だった。
「」
相手はが気付く前に、すでに彼女に気付いていたらしかった。
「こんばんは、ハリー」
はそう言いながらもハリーの何かを決意したような顔付きを観察した。この間のデートのときの疲れは取れているようだった。
「話があるんだ」
ハリーが真剣な面持ちで言った。
「でも、私、リリーから買い物を――」
「僕が君を呼ぶために、手紙を送ったとしたら怒るかい?」
怒るよりも前に、はそこまでして自分を呼び出すハリーの話の方が気になった。
「あなたらしくはないなって思うだけ」
の返事を聞くと、ハリーは迷うことなく、の手を引いて歩き始めた。しばらくは二人とも無言だった。
再び、二人の間に言葉が交わされたのは、あの前回のデートで行ったアンティークショップの前だった。店は既に閉まっていたが、ライトアップだけは点きっぱなしで、大通りの明るさとは違う、ほのかな暖かい明りが美しかった。
「本当はこの間のデートで話すつもりだったんだ」
はハリーが何を言おうとしているのか、まださっぱりつかめなかった。
「だけど、まだ勇気がなくて言い出せなかったんだ」
そう言って、ハリーはガサゴソとポケットから小さな箱を取り出した。それと同時に、の胸が期待しながら高鳴った。
「僕と結婚してほしい」
飾らない、そんなスマートな言葉が、の心には一番良かった。
「喜んで」
嬉しさでは涙が溢れた。ずっとこの幸せを手に入れたかった自分に気がついた。ヴォルデモート卿との戦いで死を覚悟しながら生き抜き、傷跡の回復のために働いていた。自分のことを気にかける余裕もなかった。ひたすら誰かの為、と思って過ごしてきた日々。そんな中、くじけそうになったとき、傍にいて励ましてくれた彼。
小さい頃はただ一緒にいるのが習慣で、それが当たり前になり、いつの間にか、彼の存在がこんなにも大きくなっていた。
「泣かないで」
ハリーが優しく、そしての答えに嬉しそうに笑顔で、彼女の涙を拭った。
「ずっと君に言いたかった――愛してる」
そっとの手をとり、ハリーは薬指に小さなダイヤモンドのついた指輪をはめた。
「私も愛してるわ」
は涙の顔で笑うと彼に抱き着いた。
「ありがとう。こんな私を愛してくれて」
ハリーの耳元でそうささやくと、ハリーの腕が少しきつめに巻かれた。
「そんな君だから好きなんだ」
「本当に嬉しいわ」
はハリーの頬にキスするとクスッと笑った。リーマスの言葉を思い出したのだ。確かに自分が心配することではなかった。むしろ、喜ぶべきことだった。
「これからもう少し出かけない?夕食、まだだろう?」
ハリーはの涙が止まったのを確認するとそう言った。
「ええ、いいわ」
夜遅く帰ればシリウスたちが心配するのがわかったが、多分、リーマスが感づいてシリウスたちに説明するだろうと思った。それに、ハリーが誘うということは、ジェームズとリリーはブラック家に出かけているのだろう。
「でも、この間みたいな高そうなところじゃないところがいいわ。気軽に楽しめそうなところ」
ハリーは声をあげて笑った。
「わかってるよ。僕も気軽な方がいいさ。それに、お金ももうないしね」
互いに顔を合わせて笑うと、どちらからともなく手を繋ぎ、ほのかな明かりを背にして歩いていった。
結局オチはありきたり〜。尻切れトンボらしき気が(蹴
<update:2008.12.14>