A peaceful nation 平和な国
「こっちだ、
ハリーはの手を握りながら人波を歩いた。はハリーからはぐれないようにしっかりと手を握った。
しばらく歩いて着いた先はお洒落な雑貨屋だった。
「こんな店、よく見付けたわね」
が感心してそう言った。
「ハーマイオニーに教えてもらったんだ」
ハリーもと同様に店を見ながら、そう答えた。
「見せたいものってこのこと?」
「――いや」
そう否定するハリーの声のトーンには迷いがあった。
「これもその中の一つさ。君が気に入ると思って――気に入った?」
はそれを聞くとハリーににっこり笑いかけた。
「もちろん。まだ外装だけだけど。中に入りましょう」
カランと音のするドアを押し開き、はハリーと共に足を踏み入れた。ダイアゴン横丁やホグズミートで見るどの店よりこざっぱりして、キラキラしていた。
「アンティークな感じだ」ハリーがふと言った。
「でも、それがこの店に似合ってる」
は近くにあった宝石箱を手に取った。
「見て。これ、音が鳴るわ」
蓋を開けるとかわいらしい音が聞こえてきて、はうっとりした。
「欲しいなら買おうか?」
ハリーがの肩越しに宝石箱を見た。
「ううん、良い。ママの宝石箱があるもの」
は宝石箱をもとあった場所に戻した。
そうやって店内をゆっくり回るうちに時間は過ぎて、空がうっすらと赤く染まった頃、ハリーがに声をかけた。
「そろそろ行こう。また電車に乗らないといけないんだ」
は素直にハリーに従うと、店を出て駅の方へ向かった。夕日を浴びて赤くなったアンティークな店はどこか神秘的に見えた。
流石に二度目ともなれば、もキョロキョロするのを止めて、大人しくしていた。仕事帰りのサラリーマンたちがたくさんいて、キョロキョロする隙間がなかったからかもしれない。しかし、どちらにしろ、ハリーには好都合だった。が周りを見るより自分を見てくれているのだから。
電車内にアナウンスが流れ、ハリーは少し疲れを見せていたに声をかけた。
「次で降りるよ。大丈夫?疲れた?」
を気遣うようにそう尋ねれば、心優しい彼女は無理に明るい笑顔になって大丈夫と答えた。もちろん、そんなことハリーにはお見通しだった。
「家に帰る?」
「絶対、やだ」
いくら疲れていても、それは嫌らしい。は本心からはっきりとそう言った。家に帰るより二人っきりでいたいのか、とハリーは少し嬉しくなった。
しかし、そうは言ったものの、不慣れなマグルの世界では疲れたらしく、だんだん口数も減ってきた。そんなを気遣うようにハリーはゆっくりと街道を歩いた。陽はすでに沈み、街灯の明かりが月と共に二人を照らしていた。
「もうすぐだよ」
ハリーがに声をかけた。
「ほらあそこ」
が顔を上げ、ハリーの指差す方を見ると、ちょうどそこからカップルらしい二人が出てくるところだった。
「あのレストラン、美味しいらしいんだ。だから君と行こうと思って」
にっこりと笑いながら自分を見下ろしてくるハリーに、は顔を赤らめた。
「予約してあるんだ――ハーマイオニーにやり方を聞いてさ」
の変化に気付かなかったらしく、ハリーはそのままをエスコートした。
二人がレストランの前に立つと、いらっしゃいませ、とボーイに歓迎された。ボーイは二人を窓際のテーブルに案内するとそれぞれのコートを預かり、一礼して下がった。
「何だか高級な感じね」
が素直な感想をもらした。
「まあね。その分、料理も美味しいけど、値段も高い」
ハリーが正直にそう答えると、は上品にクスリと笑った。そして少し真面目な顔になると、は声のトーンを落として尋ねた。
「お金は大丈夫?」
すると、ハリーはニヤリと笑って答えた。
「父さんの金庫からいくらか取ってきたからね――冗談だって」
が咎めるような視線を向けたので、ハリーは慌ててそう言った。
「父さんから貰わなくても、お金ならあるさ」
確かに、とは心の中で納得した。彼のような位にでもなれば、そのくらいのお金はありそうだ。
「なら、この店で一番高いワインでも頼もうかしら」
がふざけて言うと、ハリーはちょっと苦笑した様子で返事をした。
、君、すぐに酔うから外出先ではお酒を飲まないだろう?それに――」
酔った君を介抱しながら家に帰ったら、とハリーはつぶやき、身震いした。
「シリウスと父さんに僕を半殺しにさせる気か?」
「あら、その前にセブルスが毒薬でも忍び込ませるんじゃないかしら」は何気なくそう付け足した。
ハリーは冗談に取れなかったようで、真剣になってに言い聞かせた。
「とにかくお酒は頼まないで」
あまりにもハリーが真面目な顔をして、必死な様子だったので、は笑いが止まらなくなった。そして、しばらくして笑いが落ち着いた時、ハリーを安心させるように笑顔になって答えた。
「大丈夫よ。頼まないわ」
ハリーはそれを聞いて本当にホッとした様子だ。
「そう、よかった――それじゃあ、何を食べようか」
二人はメニューを広げた。

そんなハリーとの豪華な夕食の一方で、ブラック家ではリリーの家庭的な夕食が広がっていた。
「リリー、とっても美味しいよ、ご飯」
ルーピンがテディの夕食を手伝いながら、リリーに微笑んだ。
「お褒めに預かり、光栄だわ」リリーはルーピンに微笑み返した。
闇の帝王がいなくなり、が学校を卒業すると同時に、ポッター家の三人は彼ら自身の家に移り住んだのだ。そのかわり、ブラック家には――人が少なくなった我が家が寂しいと、が駄々をこねたので――ルーピン家とスネイプが移り住んできた。妻が死んでしまったルーピン一人で子育ては大変だろうから、とシリウスもルーピンがブラック家に住むことについては随分、好意的だった。しかし、スネイプに関しては、未だに納得がいっていないようだったが、スネイプがハリー、にしてくれた恩と、愛娘の必死の説得により、シリウスも頷いたのだ。
もちろん、スネイプの方も最初はブラック家に入ることを渋っていたのだが、彼の家は闇の帝王により破壊され、さらにの上手い誘導に乗せられて今に至るのだ。むしろ、ブラック家に入れば比較的リリーに会いやすくなると思ったからかもしれない。
「テディもしばらく見ない間に大きくなったのね」
リリーがスプーンを鷲掴みにしながら、一生懸命ご飯を食べるテディを見ながら言った。
「うん。でも、相変わらずのことは大好きなんだ。がいなくなると駄々をこねる始末だよ」
ルーピンは昼の出来事を思い出したのか、ため息まじりにそう答えた。
「シリウスから聞いたわ。彼女が出かけるとき、大変だったそうね」
シリウスは自分の名前が会話に出されても、何の反応も返さず、黙々と夕食を食べ続け、そしてスネイプを憎らしげににらんでいた。
しかし、リリーは気にする様子もなく、ルーピンと会話を続けた。きっと、そうもしなければ、この家に重たい沈黙がのしかかるだろう。もしかしたら、それゆえは自分がポッター家からハリーを借りるときは必ず、ブラック家にポッター夫妻を招くのかもしれない――リリーがルーピンとこの家の沈黙を取り去ってくれるように願いながら。
「シリウス」
突然、ジェームズは、憎らしげにスネイプを見ていたシリウスを呼んだ。その声は意外にも厨房に響いたようで、リリーとルーピンの会話もピタリと止まり、ジェームズに視線が集まった。すると、ジェームズはいつものおどけた様子でリリーに言った。
「リリー、そんなに僕に注目してくれるなんて、とても――」
しかし、ジェームズが言い終わらないうちにリリーはルーピンに向き直り、再び話し始めてしまった。ジェームズの口元に少し楽しげな笑みが浮かんだ。
「で、なんだ?」
シリウスがそんなジェームズの様子を見ながら、呆れた様子で問いかけた。
「まさか、リリーを自分に振り向かせたかっただけだなんて言わねえよな?」
「その通りさ」
ジェームズが即座にそう答えると、シリウスの足がジェームズの向こう脛にヒットした。そしてジェームズがその痛さに顔をしかめ、シリウスは勢い余ってテーブルを蹴り上げていた。
「なにしてんのよ!」
生憎、ブラック家のテーブルはシリウスが蹴り上げた程度ではびくともしなかったが、振動とその音はリリーの耳にもしっかりと届いており、リリーの鋭い声が二人に飛んだ。
「テディが真似したらどうするの」
「大丈夫だよ、リリー。テディはの真似に忙しいんだから」
ジェームズとシリウスに苦笑しながら、ルーピンはリリーに請合った。
「それでも駄目よ、ねえ、セブルス?」
リリーがスネイプに同意を求めると、スネイプはにやりと笑ながら頷くと、シリウスに言った。
「お前はいくらか自分の娘を見習った方が良いようだな」
「なんだと?」
シリウスが睨みをきかせ、杖に手を伸ばしかけると、ジェームズが二人の会話に口を挟んだ。
「ま、スネイプの言うとおりだから否定はできないんだけど――」
シリウスがジェームズを睨むと、ジェームズが笑いながらシリウスをなだめ、テーブルに座った全員を見渡しながら言った。
「僕が言いたいのはそんなことじゃなくて、ハリーのことさ」
「ハリーがどうかしたのか?」
すると、即座にシリウスがジェームズに問いかけた。
「いや、正確に言うとハリーとのことかな」
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続々AFTER小説。笑
<update:2008.11.18>