◆◆◆A peaceful nation 平和な国
マグルの世界は相変わらず奇妙なものだらけで、は興味津々だった。
「、あんまりキョロキョロしないで。怪しまれるよ」
ハリーが小声でに言った。すると、はやっと周りを見るのを止めて、ハリーに尋ねた。
「ねえハリー」
ハリーはに呼び止められて、地下鉄の切符を買いに行こうとしいたが立ち止まって振り向いた。
「なんでマグルの乗り物なんかに乗るの?箒や煙突では行けないの?」
行けないことはないけど、とハリーははにかみながら答えた。
「箒や煙突だと、君と二人っきりなのにあまり話せないだろ?」
は自分の頬が赤くなるのを感じた。
「、置いていっちゃうよ」
ハリーはの手を掴み、がはぐれないように引き寄せた。
「ここからだと少し時間がかかるかな」
ハリーは切符売場の看板とにらめっこしながら呟いた。にはハリーが看板の何を見てそう判断しているのかわからなかった。
「さあ。これをあそこに通すんだ」
ハリーは紙をに差し出した。
「みんながこの紙を入れているのがわかるだろう?もちろん、あの改札と呼ばれるところを通り過ぎるとき、この紙をもう一回受けとらなくてはならないよ」
はこれがどういう仕組みなのか全く理解出来なかったが、ハリーの言う通りに紙を受け取り改札を無事に通過した。
「じゃあ、。その紙は無くさないようにね。もう一度使うんだ」
の後ろから改札を通ってきたハリーが言った。
「こっちだ、。あとは当分座っているだけで良いから楽だよ」
まるで子供のようにハリーに手を引かれ、は促されるまま、「電車」と呼ばれる長い箱のようなものに乗り込んだ。そして、手近にあった長イスにハリーと並んで腰掛けた。
「どれくらいこれに乗ってるの?」
は誘惑に負けて、再びキョロキョロしながらハリーに尋ねた。
「一時間くらいかな。、キョロキョロしないで」
はハリーに両手で顔を挟まれて顔が動かせなくなった。
「ハリー、この体勢、疲れるんだけど」
「じゃあキョロキョロしない?」
ハリーがにっこり笑ってそう問い掛けた。
「ん――約束は出来ないかな」
ハリーはため息まじりにを開放すると、の気が自分から逸れないうちに話を振った。
「午前中は何してたの?」
「テディの相手よ」
は先程のことを思い出して、クスッと笑った。
「何かあったの?」
の思い出し笑いを見て、ハリーが聞いた。
「テディにね、絵本を読んであげていたの。でね、出かけようとしたらもう一冊って駄々をこねはじめちゃって」
それで、とハリーは先を促した。
「それで、リーマスもテディをなだめてくれたんだけど、まだ私を母親と錯覚しているテディを引き離すのは辛いみたいで、あまり強く言えなかったのよ――」
そしてはジェームズの冷やかしからシリウスの勝ち誇ったような態度まで、全てを話して聞かせた。
「なんだかそのうちテディに君を盗られそうだ」
聞き終わるとハリーが苦笑しながら、そう零した。
「大丈夫よ。テディだっていずれ本当の恋を見つけるわ」
そうは言うものの、はテディが誰か一人の女性の傍にいる姿が想像出来なかった。
「・・・・・でも、そうなったら少し淋しい」
がボソッと言うとハリーが優しい笑顔を浮かべての肩に手を回した。
「それまでにはまだ長い時間があるんだ、淋しがるにはまだ早いよ」
「ええ、そうね」
はハリーに笑ってみせた。
「そういえばもうそろそろどこに向かっているのか教えてくれても良いんじゃない?」
はちょっと怖い顔をしてハリーを見たが、彼はただ笑って内緒と言った。
「大丈夫、そんなに妙なところじゃないよ」
どこへ連れて行かれるのか不安そうなに、ハリーは優しく言い聞かせた。
「――なら良いけど」
はそう言ってハリーの肩にもたれ掛かった。
「最近、ハーマイオニーと会った?」
ハリーはの髪から漂う優しい香りを感じながら彼女に尋ねた。
「うん。さっきキングズリーに会う前に会ったわ。元気そうだった――ロンと上手くいってるみたい」
がそう付け加えると、ハリーはさもおかしそうに笑った。
「あの二人ならもう心配いらないだろ?」
「お互いにぞっこんですものね」
ハリーの笑いにつられるようにして、もクスクスと笑った。自分たちも周りからそう思われているなんて夢にも思っていないらしい。
「そういえば、キングズリーがロングボトム夫妻に渡すものがあるって言ってたけど・・・・・なんなの?」
はふと先程の会話を思い出して言った。
「ああ、あれね。ちょっとした資料さ――傷害事件のね」
「傷害事件?」
の心配そうな声の響きに気付いたのか、ハリーはの髪に触れながら答えた。
「最近、マグル生まれの魔法使いや魔女たちが標的にされている傷害事件があるだろう?あれの犯人の目星がついたらしいから、闇祓い本部に回ってきたんだ」
安心して、とハリーに囁かれ、は不安な気持ちが薄らいだものの、傷害事件が危険なことには変わりない。せっかく世の中に明るい兆しが見え始めたのに、それを実感する間もなく、戦いに苦しめられた人々は働いているように思えた。
「気をつけてね」
はハリーの膝に自分の手を乗せた。
「大丈夫だよ。君を一人にはしない――それより、こんな暗い話はもう止めよう。せっかく久しぶりに二人だけなんだから」
ハリーは気を取り直して明るくそう言った。
「そうね。家だとジェームズとテディに邪魔されるわ――」
クスクスとが笑いをもらす一方で、ハリーはそのときのことを思い出したのか、渋い顔をして全くだね、と呟いた。
「――リーマスとセブルスだけかしらね、二人っきりにさせてくれるのは」
しかし、ハリーはの言葉に頷くことが出来なかった。ルーピンもスネイプもの前では物分かりの良い大人を演じていたが、一度がいなくなればすぐさま化けの皮を剥がし、ハリーに詰め寄って恐喝していた。
「どうしたの?」
は黙ったままのハリーが気になって、彼の顔を覗き込んだ。
「――いや」
ふと我に返ると目の前にはの顔があり、ハリーは平静を装ってそう返事をするのが精一杯だった。そして、が再び、自分の肩に頭を乗せ、ハリーは心地よい重みを感じながら言った。
「気にしないで。ただ思い返していただけだから」
何を、とははあえて聞かないことにした。大方のことは予想できた。
「僕、そのうち、あの人たちに半殺しにされそう」
ハリーが余りにも感情のこもった声で言ったので、は思わず笑ってしまった。
「そんなことないわ。パパもジェームズもリーマスも、セブルスだって私の嫌がることはしないわよ」
がそう請け合うと、ハリーが――今までの疲れた様子は何処へやら――ニヤッと笑って、の横髪を耳に掛けながら言った。
「君があの四人に愛されている自覚があったなんてお見それしたよ」
は小ばかにされたのがわかったようで、体を起こすとムッとした様子でハリーに言い返した。
「それ、どういう意味よ」
「そのままの意味さ――つまり鈍感」
クックッとハリーが笑う横で、はすっかりふて腐れてしまった。ハリーも流石にちょっと悪いと感じたのか、の手を握り、顔を覗き込んだ。
「ごめん」
すると、はフッと笑うと笑いながら言った。
「もう。そんなことされたら、許さないわけにはいかないじゃない」
それから十分程して二人は電車を降りた。
続AFTER小説。笑
<update:2008.11.18>