A peaceful nation 平和な国
暖炉の前で、一人の女性が膝に小さな子供を乗せて、くつろいでいた。
「――そして、お姫様は王子様と一緒に末永く幸せに暮らしました」
は読み聞かせていたマグルの本を閉じると、自分の膝の上でまだ物足りなさそうにこちらを見上げるテディ・ルーピンと目があった。
、まだ聞きたい」
テディは小さな手での服をギュッと掴んでぐずついた。
「でもテディ。私、これから出かけないと・・・・・用事があるの」
少なくとも、確かににとっては重要な用事だった。久しぶりにハリーと二人っきりで出かけるのだ。闇祓いになり今や部長のハリーは忙しく、同じく魔法大臣のお付きのように秘書として多忙に働くとはなかなか会う時間がない。とは言うものの、の方はキングズリーに頼めば大半の場合、休みをくれた。
だから今日もハリーが午後から二人っきりで出かけよう、と誘ってくれたときも、はすぐさまキングズリーに休みを貰った。
、僕のこと嫌い?」
小さな腕を首に巻き付け、上目使いでこちらを見るあたり、既にテディは女を落とす技を身につけていると言える。
「あぁ、テディ。もちろんあなたも好きよ。だけど私――」
「テディ、そこまでにしなさい」
そのとき、背後のソファーから声がして、ルーピンが顔を出した。しかしテディは父親の顔を見てもまだ駄々をこねた。
「僕、ともっと一緒にいたい!」
テディはますますにきつく抱き着いた。
「モテる女ってのも大変だね、
ルーピンの隣からクスクス笑いが聞こえてきた。
「笑ってないでどうにかしてよ、ジェームズ。だいたいあなたがテディの面倒を見るんじゃなかったかしら?」
が怖い顔をしてもジェームズの笑いを誘うだけで効き目はなく、むしろ逆効果に思えた。
「テディはに一番懐いているからね。ハリーかテディ、どちらを取るか見物だ」
ジェームズはニヤッと笑い、じっととテディを観察した。
「それに、僕が思うに、がハリーと結婚する日にはテディが大泣きするな」
一人、つらつらと感想を述べるジェームズを尻目に、ルーピンが立ち上がって、からテディをはがそうとした。
「リーマス、待っ――私のぐびが、絞まる・・・・・」
ルーピンにはがされそうになればなるほど、テディはの首にますます強く抱き着いた。
「ああ、ごめん、。大丈夫かい?」
ルーピンはテディから手を離し、申し訳なさそうにを見た。
「うん、どうにか・・・・・」
はそう答えながら、ちらっとテディを見た。そしてふと、かつて自分もテディと同じだったことを思い出した。大好きな父親が仕事に行ってしまうのが嫌で、よく足に抱き着いては彼を歩けないようにした。そんなとき、いつも彼はなんと言っていたものか。しかし、一向に思い出せない。
、まだぐずぐずと家にいるのか?待たせる女は嫌われるぞ」
そのとき、シリウスが姿を現した。がまだ膝の上でテディを抱っこしているのを見て、呆れた声を出した。
「違うわ!私、出かけようとしてるわ、だけど――」
、行っちゃイヤ」
テディはまたにきつく抱き着いた。
「テディがを離さないんだ」
ルーピンが困った声で言った。彼もテディが実の母のように慕っているから引き離すのは気が引けるのだろう。
「ああ、そんなことか」
そんなことって、とはシリウスをにらんだ。テディをどうにか出来るのならしてみせてほしい。
そんなの視線に気付いたのか、シリウスはニヤッと、に笑ってみせた。
「テディ、いいかい?が出かけなくちゃいけないと言っていたら、素直にいってらっしゃいと言わなければならない」
「僕、そんなことしない」
テディはシリウスを見上げた。
「でもな、テディ。考えてご覧?四六時中、と一緒にいたら、お前にとってがどれくらい大きな存在なのかわからないんだよ。一時離れてみて、初めてその人の存在を感じることが出来る――寂しいと思うのもそのためなんだよ」
シリウスの難しい理屈にテディは首を傾げていたが、やがてから手を離し、ルーピンの方へ抱き着くと、を振り返って言った。
「すぐ帰ってきてね」
はそんなテディの行動に驚いたが、すぐに笑顔を浮かべ、テディの額にキスをした。
「ええ。行ってくるわ」
はシリウスと目が合うと、直ぐさま視線を反らした。勝ち誇ったようなシリウスを見て、は少し悔しくなった。
「流石シリウス。どこかで聞いたことのある台詞だったけどね――僕はその言葉は嫌というほど昔に聞いたよ」
ジェームズがソファーにねっころがりながらシリウスに言った。
「まぁな。でもはあんなに素直じゃなかったが」
シリウスはジェームズを見下ろして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「良いじゃないか、それだけ愛されてるってことだ。ハリーなんか、僕が出かけるときはいつも笑顔だったぞ」
ジェームズが恨めしげに言った。
「でも、それはジェームズが出かけると、いつも帰りにケーキとか買ってきてくれてたからよ」
はジェームズに言い訳のように答えた。
「それならいいけどね」
ジェームズはコロッと態度を変えるとを見上げた。
「時間は平気なのかい?」
「うん。もう行くわ。一回、キングズリーのところに顔を出していかないと」
はちょっと振り返ってテディがルーピンの膝の上で楽しげに笑っているのを確認すると、シリウスとジェームズの頬にそれぞれキスをした。
「いってくるわ」
そんなの声が聞こえたのか、ルーピンが声をかけた。
「帰りはいつになるんだい?」
「そんなに遅くはならないわ。私も明日、仕事だし――夕食はハリーと食べてくるから心配しないで」
はルーピンの頬にも軽くキスをすると、もう一度シリウスを見た。
「気をつけろよ」
シリウスは笑顔でを見送った。

魔法省はみんな昼食が終わって、仕事に戻ってきた人々で混雑していた。そんな中、がエレベーターに乗ろうとすると、後ろから声をかけられた。
「あら、じゃない。今日は非番じゃなかった?」
ハーマイオニーが手に箱を持ってに歩いてきた。
「ええ。でも、ちょっとキングズリーのところに顔を出そうと思って――パースのことも心配だし。彼、バンパイアとの友好条約に熱中しすぎちゃってるのよね、今」
がため息まじりにそう言うと、ハーマイオニーが同じく心配そうな顔をして相槌をうった後、ニヤッと笑ってを突いた。
「で、この後はデートってわけね」
「・・・・・なんでわかったの?」
は否定しようか迷った後、負けを認めた。
「あら、ハリーが休みの日って、たいていはあなたと一緒じゃない。長年付き合ってるんだからわかるわ」
それもそうか、とが一人頷くと、ハーマイオニーが興味津々と言った様子で身を乗り出した。
「で、今日はどこに?」
「決まってないわ。ハリーと合流してから決めることになってるの」
ハーマイオニーは少しつまらなそうな顔をすると、はっとして少し慌てた様子で、突然別れを告げた。
「それじゃあ、。また今度ね。私の部にも時々、顔を出してよね」
パタパタと走りながら行ってしまったハーマイオニーに少し疑問は残ったが、すぐに原因がわかった。
、今日は休みだろう?」
キングズリーがゆっくりと歩いてきた。
「あ、はい。でも、何か変わったこととかないかな、と」
回りの人々はキングズリーとの姿をちらっと見ては足早にその場を通り過ぎた。
「まったく、君という子は。いくつになっても好奇心旺盛だな」
「子供の心を忘れたら成長出来ませんよ」はそう言い返した。
「――なんて、ハリーを迎えに来るついでですよ」
キングズリーは豪快に笑うとの背中を叩きながら言った。
「相変わらず仲が良いな――そういえば、今日は午後からハリーも休みだったな。デートか?」
はちょっと肩をすくめ、そんなものです、と言った。
「楽しんでおいで」
キングズリーはに笑いかけた。
「わたしは闇祓い本部に顔を出さなければ。ロングボトム夫妻に渡すものがあるのでね」
「一緒に行くわ――私もハリーのところに行かなきゃ」
キングズリーはまるで娘を見るように愛おしげにを眺めて、にっこりした。
二人はエレベーターを待つ魔法使いや魔女に加わった。しばらくすると、ジャラジャラと派手な音を立てながら、エレベーターが目の前に下りてきた。
エレベーターに乗り込み、人波に流され、は壁に押し付けられた。三階あたりでやっと一息つくことができた。
「二階。魔法法執行部でございます」
女性の声が聞こえて、エレベーターの扉が開いた。
はキングズリーと一緒に下りて、廊下を歩いた。陽の光が穏やかに差し込んでいる。
「今日は良い日和だな」キングズリーが呟いた。
角を曲がり、樫材のどっしりした両開きの扉を過ぎると、雑然とした広い場所に出た。笑い声が聞こえ、紅のローブにポニーテールをしたウィリアムソンが手前の小部屋から出てきた。
「やあ、。大臣もご一緒で!」
「ロングボトム夫妻に会いに来たのだが」
キングズリーがにこやかに言った。
「で、はハリーに会いに来たわけだな?」
ウィリアムソンがニヤッと笑ってを見た。そして、が止める間もなくちょっと小部屋に顔をひっこめると、そこからハリーを大声で呼んだ。
「ハリー、がお呼びだ!」
中からクスクス笑いや冷やかし声が聞こえて、顔をほのかに赤くしたハリーが出てきた。
!頼むから普通に呼んでくれない?」
「私の所為じゃないわ。ウィリアムソンが勝手に――」
がウィリアムソンに視線を送るとウィリアムソンは素知らぬ顔をしてキングズリーと話をしていた。
「とにかく、ここから出よう。ロンドンに行こう――見せたいものがあるんだ」
ハリーがそう言って、小部屋に視線を向けると、そこから何人かの魔法使いや魔女が顔をだし、ニヤニヤとこちらを見ていた。
「うん。わかったわ」
は頷くと、ハリーの手を握ってその場で回転した。周囲に暗闇が迫り、足が地面に触れるのを感じた。
「やっぱり、君は器用だね」ハリーが言った。
二人は魔法省の外来用入口に姿を現した。
「そんなことないわ。慣れてるだけよ。それにあなただって防衛術に長けているじゃない」
がにこっと笑うと、ハリーも笑い返し、二人は久しぶりに二人っきりになったことを実感した。
「それで、見せたいものって?」
「まだ。もう少ししてからね」
ハリーは勿体振って言った。そして、の手を握るとゆっくりと歩き出した。
「ハリー、どこへ行くの?」
「良いところ。ついてきて」
はハリーに引っ張られるまま、彼の後に続いた。
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やってしまった、ハリポタAFTER
<update:2008.11.18>