Thirty-six Memorise
に与えられた休養期間は一週間もあったが、意外に呆気ないもので、もうホグワーツに戻らなければならなかった。
「気をつけろよ、
シリウスは駅のホームでを抱きしめた。
新学期とは違い、他に乗客はおらず、騎士団のメンバーの何人かが護衛に来ていただけだった。ホグワーツからもルーピンとスネイプが派遣されていた。
「大丈夫です」
は安心させるように微笑んでみせた。母親が青白い顔をして、こちらを見ていたからだ。
「無理は絶対しないでね」
リリーにそう約束させられて、は汽車に乗り込んだ。ガラガラの汽車の中、はルーピンとスネイプと一緒に、一つのコンパートメントに入って、窓を開けた。そこから顔を出すと、両親やジェームズ、リリー、騎士団の人たちの顔がよく見えた。
汽笛が鳴り響き、汽車が進み出した。
「行ってきます」
はだんだん小さくなる人たちに、そう叫んだ。
「いってらっしゃい」
そんな彼らの声が、風に乗ってのところまで届いた。

「お腹へったね、
外の景色が田舎っぽくなったころ、ルーピンがにこにこ笑いながら、げんなりしたにそう問い掛けた。発車してからというもの、一週間分の全ての科目の講義をルーピンとスネイプからされていたのだ。
「そろそろお昼にしようか」
の目に輝きが戻り、ルーピンはそんな素直なの反応に微笑みをもらした。
は何が食べたい?」
「先生の好きな食べ物が食べたいです」
がそう答えると、スネイプが突然口を挟んだ。
「こいつの好む食べ物は食べ物ではない!」
「やだなあ、セブルス。君もシリウスと一緒で甘い物、嫌いなの?」
ルーピンがスネイプに笑いながら聞いた。
「あいつと一緒にするな!」
一人で怒り出してしまったスネイプを尻目に、ルーピンはにサンドイッチが入った包みを手渡した。
、君なら、そんなことを言うかなって思ったよ。わたしが好きな食べ物は、君が好きな食べ物だよ」
ルーピンは優しくの頭を撫で、包みを開けるように言った。
「セブルス、君のもあるよ」ルーピンがスネイプに向き直った。
「いらん」
「――の手作りだけど?」
スネイプは無言でルーピンの手からサンドイッチの包みを奪った。
「ママの、手作り?」
「そうだよ」
スネイプの仕草にクスクス笑っていたルーピンだったが、の小さな呟きは聞き逃さなかった。
が君のために作ってくれたんだ」
はゆっくりとサンドイッチを口まで持っていき、一口食べると、満面の笑みをこぼした。
「美味しい」
「それはよかった」
ルーピンもつられるように、満面の笑みをうかべた。
「そういえば、
サンドイッチを食べながら、ルーピンが話し続けた。
「クリスマスパーティのことはまだ知らなかったよね?」
「クリスマスパーティ?」が聞き返した。
「ただのダンスパーティだ」
スネイプがぶっきらぼうに答えた。
「まあ、普通の人にとってはそうかもしれないけど、にとっては災難の日かもね」
ルーピンが何故クスクス笑うのかわからないは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべてルーピンを見つめ返した。
、自分の外見と性格は自覚出来てるかい?」
ルーピンが厭味っぽくそう言うと、はますますわからなくなった。
「これは重症だね」
「貴様の方が重症だ!」
うーん、と悩むルーピンにスネイプは容赦ない突っ込みをした。
「酷いなぁ、セブルス。わたしはただ、に自覚させてあげようとしているだけじゃないか」
「何を自覚するんですか?」
はわけがわからず、とうとうルーピンにそう聞いた。
「自分がどれだけ人気があるかってこと――多分、ホグワーツについたら、たくさんの人からパーティに一緒にいかないか、って誘われるよ」
「私、でも、踊れないかもしれない・・・・・」
が不安げにそう言うと、ルーピンがニッコリ笑ってそれを否定した。
「そんなことはないよ、。きっと、君の体は覚えてるよ」
しかし、それでもは心配そうで、ルーピンはが不安を話してくれるのを待った。
「先生、私、知らない人とは踊る勇気がありません。でも、だからと言って、ハリーとも踊れません。踊ったら、またママに心配をかけることになってしまいます」
ルーピンはその意味がすぐにはわからなかったが、多分、一週間前の木の扉の中の出来事だろうとは予想がついた。きっと、ハリーに近づくなと言われたのだろう。そんなことは以前のにもしょっちゅうあった。
「じゃあ。君と仲の良い、もう一人の男の子がいるんだけど、その子と踊らないかい?」
ルーピンの笑みに、拒否権はないように思えて、はただ頷くことしかできなかった。
「ディゴリーか」
「その通り」
スネイプの呟きにルーピンが答えた。
「彼なら女子生徒たちも手は出せないし、彼もとなら踊ってくれると思うしね」
ルーピンはそう言って、窓の景色を眺め、一人ニッコリした。きっと彼ならも安心して一緒にいられるだろう。それに彼は教師のアシスタントとしてこの学校にいる。ほとんどの生徒はセドリックがここにいるなんて知らないだろう。きっとの兄だとか、勝手に勘違いしてくれるはずだ。
「おまえは昔から悪知恵しか働かない奴だ」
スネイプが馬鹿にしたようにそう言っても、ルーピンは相手にしなかった。のためになら、なんだってする。
ルーピンはそう思いながら、目の端でが欠伸するのを見た。
「眠いのかい?」
まさかルーピンに見られていたとは思わず、はびっくりした顔をルーピンに向けた。
「あ、いえ、すみません」
赤くなったり、青くなったりするを見て、ルーピンはクスクス笑った。
「別に良いんだよ、。朝早くから起こされたんだしね」
優しくそう言うルーピンに甘えて少し寝ようかと思ったが、早く一週間分の遅れを取り戻したいという気持ちもあって、は頭を横に激しく振り、眠気を追い払った。
「大丈夫です、眠くはないです」
「そう、じゃあ、続きをしようか」
ホグワーツに着くのはもう少し日が陰った頃だろう、とスネイプは雲一つない空を見た。

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