Thirty-five Memorise
「リーマス、シリウスと仲直りしたらどうだい?」
がホグワーツに戻る日の前日、ジェームズがリーマスを訪ねてホグワーツに来た。
まっすぐルーピンの部屋をノックしたジェームズは、始めのうち、歓迎こそされなかったが、ルーピンはお茶を用意してくれた。
「仲直りもなにも、わたしたちはけんかなんてしてないよ」
内心の動揺を隠しながら、ルーピンは答えた。
「へえ」
ジェームズはあからさまに信じていない声をあげた。
「けんかしてないのに、お互いにお互いの情報を隠したりするんだ」
明らかにジェームズの方が有利だった。それに、ルーピンは昔から口でジェームズに勝てた試しがない。ここらへんで降参した方が利口だと、ルーピンは負けを認めた。
「――確かに気まずいさ。だけど、わたしの所為じゃない」
「誰も君の所為だとは言ってないさ、リーマス。ただ、僕はに気を遣わせてホグワーツに送り出すのは気が引けただけさ」
リーマスはちょっとだけすまなそうな顔をした。
は父親と名付け親の間で板挟みになって、悩んでるよ。君もがどれだけ優しい子か知っているだろう?」
ジェームズの言葉に、リーマスは小さく頷き、ため息をついた。
「わたしにどうしろと?」
「簡潔に言えば、シリウスと仲直りしろってことかな」ジェームズがにっこり笑った。
「普段なら、わたしたちのことには口だししない君が・・・・・珍しいね。余裕、ないのかい?」
リーマスは少し言い過ぎたかと思ったが、ジェームズはただ笑っていた。
に関して、余裕があるやつはいないと思うよ。スニベリーも含めてね」
ジェームズはそう言って紅茶を一口飲んだ。
「それで、仲直りはしてくれるのかい?」
リーマスはしばらく考えた後、仕方なさそうに頷いた。
「ムーニーなら、そう言ってくれると思ってたさ」
彼が自分をそう呼ぶとき、リーマスは彼からの信頼の厚さをいつも感じた。
「シリウスも君との仲直りを承諾してくれたんだ」
「君は、本当に行動が早いね」リーマスが呆れたように言った。
「善は急げ、さ」
ジェームズは楽しそうにそう言って、リーマスを再び真剣に見つめた。
「それと、をいじめた輩はどうなったんだい?」
「何かと思ったら、その話かい?――彼女たちは十分反省して――」
「そうじゃない、リーマス」
ジェームズは少し焦ったような、怒ったような態度で、ルーピンの言葉をさえぎった。
「ダンブルドアから聞いたんだ。彼女が、が、もしかしたら女子生徒たちに悪夢を見させた可能性がある、と」
ルーピンはジェームズの言葉を聞きながら、あの日の女子生徒たちの様子を思い浮かべていた。
「そのことなら、わたしも見ていた。確かにあのときダンブルドアは、そんなことを言っていた。だが、証拠はない。いまさらを責めたりなど――」
「リーマス、落ち着いてくれ。僕はただはっきりさせたいだけなんだ。がやったか、やってないかなんて問題じゃない。彼女の魔力の強さを知りたいんだ」
ジェームズは興奮してきたルーピンの言葉をさえぎり、自分も興奮した様子でルーピンにそう言った。
「今、女子生徒は正気に戻っているのかい?」
ジェームズは静かに問い掛けた。
「すべての女子生徒が正気にはもどった」
ルーピンの言い方に、ジェームズは眉をひそめた。
「それは、どういう意味だい?」
「一人だけ、元通りになっていない子がいる――君はダンブルドアから、どこまで話を聞いているんだい?」
ジェームズは肩をすくめ、ルーピンに答えた。
「全て、とも、一部、ともとれるかな。女子生徒たちがマクゴナガルの名を使い、を騙したのは知っている」
なら話は早い、とルーピンは呟いた。
「そのマクゴナガルに化けた生徒の姿が完全には戻らなかった」
真剣な話だったが、ジェームズは少しだけ笑っていた。
「傑作だね。十代の女の子が、外見はもうお年寄りかい?」
「ジェームズ、笑うところではないよ」
ルーピンもそう言う割には、厳しさが欠けていた。
「ホグワーツの教師が一丸となって治療してるけど、直らないんだ」
「もしかして、だけにしか直せない、とか」
ジェームズがふと真面目な顔をして、そう呟いた。
「ダンブルドアも、そう思っているみたいだった」
「ホント、が良い子に育ってくれていてよかったよ」
ジェームズは微笑みをもらし、ルーピンの背後にある家族写真を見つめた。
「君たちみたいに、誰構わず、杖を向ける子じゃないしね」
ルーピンはジェームズの視線に気付き、立ち上がって、写真を持ってきた。
中の写真では、かつて、記憶のあったが両親と、ポッター家、それとルーピンに囲まれて、笑顔で手を振っていた。いつでも楽しそうに笑って、周りを明るくさせていた彼女。満月前には、必ずと言って良いほど、出来るだけ傍にいてくれた彼女。もう一度、あの笑顔を見るためなら、何を失っても構わない。
「ムーニー」
ふと、優しい声が聞こえ、ルーピンは顔を上げた。
「涙は厳禁だよ」
ジェームズはルーピンの潤んだ目をじっと見つめ、そして微笑んでみせた。今、彼が何を考えていたのかなんて、容易にわかる。
「――プロングス」
ルーピンは小さな声で、彼の名を呼んだ。
「君は、怖くないのかい?」
「何を怖がるんだい?」
ジェームズに逆に聞かれ、ルーピンは少し怯んだ。
の記憶が戻らないことかい?僕らのことを、もう思い出してくれないことかい?もう、笑ってくれないことかい?」
ジェームズの指摘はすべて正しくて、ルーピンは否定が出来なかった。
「僕は、の記憶が戻らないことに関しては、何も恐れてはいない。今までの記憶がないなら、今からまた新しい、楽しい思い出を一緒につくればいい。焦ることなんかない。だったまたいつかあの笑顔を見せてくれるさ――」
ジェームズはそこで一息して、今度はいくらか心配そうな顔で言った。
「それよりも、僕が恐れているのは、がヴォルデモート卿の手に渡ることだ」

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