「う――・・・・・ん?」
が目を覚ますと、見覚えのある部屋だった。重い上半身を起こし、そこが自分の部屋だとわかった。
「なんで?」
はぼーっとする頭で考えた。しかし、記憶は女子生徒に囲まれたところまでしかない。
そのとき、部屋のドアが開き、心配そうなが入ってきた。は目を覚まし、上半身を起こしているに気付くと、慌てて駆け寄ってきた。
「まだベッドに横になってなきゃダメよ」
はに肩を押され、ベッドに逆戻りした。
「何かほしいものはある?」
まるで母親のように――確かに母親なのだが――の頬を優しく撫で、安心させるように笑った。
「ないです」は小さな声で言った。
「そう。それじゃあ、どこか痛いところとか、ある?」
「ないです」がまた言った。
はそれしか言わないを少し寂しく思ったが、顔には出さないように気をつけた。がどれだけ傷つけられて帰ってきたか、わからないからだ。
「学校は・・・・・楽しかった?」
が恐る恐るに聞いた。しかし、は何故がこんなことを聞くのか、わからなかった。
「ママは私が帰ってきた理由を知っているのではないのですか?」
は無表情に聞き返した。
は一瞬、戸惑いを見せたが、また笑顔をつくるとに言った。
「えぇ、知っているわ。だけど、あなたがどれだけ酷いことをされたかは知らない。それに、その事実がどれだけあなたを傷つけたかも知らないの」
は「死んでしまいたいほど傷つけられた」と、に伝えたかったが、自分の中の何かが、その言葉を言うことをストップしていた。
「簡単に解決できる問題じゃないのはわかってるわ」
はの頬にそっと触れた。
「前の私も、嫌がらせをされていたんですか?」が出し抜けに聞いた。
「ええ、随分と。リーマスやハリーを好いていた女の子たちからね。でも、は気にしてなかった。リーマスやハリーを全面的に信頼していたのよ」
が誇らしげに続けた。
「彼女は何と言われようとリーマスやハリーから離れようとしなかった。は彼らが自分を好いてくれているのを知っていたし、彼女自身、彼らが好きだった。自分に嘘をつきたくないって言って、私たちが心配するのにも関わらず、嫌がらせする女の子たちに立ち向かってた」
はそんながかっこいい、と心から思った。
「私も、立ち向かう、と言ったらどうしますか?」
ただたんに、昔のに少しでも近づきたかったから、そんな理由だったけれど、はいつの間にかそうに言っていた。
すると、はに微笑んでみせた。
「半分はただの馬鹿だと思うわ。だけど、そんなあなたを誇らしくも思うでしょう。もちろん、あなたが正々堂々した場合の話だけど」
そして、は「リーマスとハリーが好きなのね?」と確かめた。
「はい」
ははっきりと頷いてみせた。は満足げに笑った。
「でもね、そう言ってくれた気持ちだけで今は十分。前とは状況が違ってるの。あなたに危険な真似をさせるわけには絶対にいかない」
はあまりにもが真剣な顔だったので、黙って頷くしかなかった。
そのとき、ドアがノックされ、シリウスの声が聞こえた。
「、夕食だ」
はに向き直ると、頭を優しく撫でて、「待ってて」と言った。彼女はどうやら、が心細いのをお見通しのようだ。
「待ってます」が答えた。
すると、なかなか出てこないをもどかしく思ったのか、シリウスが勢いよく部屋のドアを開いた。
「、何してる――、気がついたか!」
シリウスは嬉しそうにに駆け寄ってくると、優しく頭を撫でた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
は、やはり、何故みんなが自分を気遣うのか、今一度わからなかった。
「熱は下がったか?」
シリウスの顔が近づいたかと思うと、おでこがくっついていた。
「大分、下がったみたいだな。でも、まだ寝てろよ。振り返したら困るからな。夕食に少し食べた方がいいな――待ってろ、なんか持ってきてやる」
シリウスは一人で表情をコロコロ変えながら、部屋を歩き回り、そして慌てて下に降りて行った。その様子を見ながら、はクスクスと笑っていた。はわけがわからず、彼女を見た。
「シリウスはあなたが大好きなのよ。みんな、あなたが大好きだから心配するの――どうしてみんな、あなたのことを気遣うのか、不思議に思ったんでしょ?」
はなんでもお見通しだった。
「でも、私――」
はあの時、女子生徒に言われた言葉を思い出していた。
「本当に私を好いてくれる人は、いません」
は優しさを込めた、その温かい笑顔でに言った。
「誰の言葉を信じるかは、あなたの自由よ」
はふと、懐かしい温もりを感じた。まるで、空を飛んだときに感じたあの懐かしさのようだった。
「・・・・・どうかした?」
の表情が固まったのを見て、が問い掛けた。
「あのときと、同じな気がした・・・・・」
「あのときって?」が不安げに聞いた。
「空を飛んだときです」
そして、が何も言わないうちにシリウスがお盆に夕食を少し載せて、ジェームズと一緒に現れた。
「よかった!気がついたんだね、」
ジェームズはにかけよると、満面の笑みをに見せた。
「おい、ジェームズ、どけよ。に栄養つけさせないと」
シリウスはとジェームズの間に割り込むと、の上半身を優しく起こした。
「少しでいいから、何か食べなさい」
シリウスはの背中にクッションを挟み、が楽に上半身を起こしていられるようにした。そして、の膝にお盆を載せた。カボチャジュースとシチュー、何かのゼリーが載っていた。
しかし、はお盆の上を見ても、それらを食べる気にはなれなかった。
「ゼリーだけでも食べてみたら?」
に優しく促されて、はゼリーを一口だけ食べて夕食を終わりにした。
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