Thirty-two Memorise
ルーピンは木の扉を開け、息を呑んだ。まさか、こんなことになっていようとは思わなかった。
先程ハリーに、がマクゴナガル先生に呼び出されたという話を聞き、ルーピンはそれがにとって何を意味するのかすぐに見抜いた。マクゴナガル先生がを呼び出すはずはない。嫌がらせが最終段階にきたことがわかり、ルーピンは血の気が引いた。
ハリーに急いで「忍びの地図」を持ってこさせ、がどこに連れていかされたのか確認すると、ハリーとロンとハーマイオニーにマクゴナガル先生にこの事実を伝えるように頼んだ。そして、自分はを連れ戻しに行ったのだ。
そのときまでは、まさかこんなことになっているとは思わなかった。
部屋の真ん中にはが見るも無残な姿で横たわり、その周りにはいじめていたであろう女子生徒たちが、泣いていたり、呻いていたり、あるいは気が狂ったようにヘラヘラと笑っている。
「一体、どうしたんだ?」
ルーピンは近くにいた女子生徒の目を覗き込んだ。どうやら自分が見えていないようだ。
「遂にが暴走したようじゃな」
振り向くと、ダンブルドアだった。ダンブルドアはゆっくり歩み寄り、女子生徒の一人に触れるた。その女子生徒はわけのわからぬ言葉を泣きながら呟いていたが、ダンブルドアに触れられると、静かになり、床に崩れ落ちた。
「マクゴナガル先生、以外の生徒を他の寮監の先生方と手分けして、医務室に運んでくだされ。この子たちは全員、悪夢を見ているだけじゃ。魔法薬を飲めば、すぐに落ち着くじゃろう」
ダンブルドアはいましがた部屋に現れたマクゴナガル先生にそう言い付け、今度はに歩み寄った。
マクゴナガル先生は杖から守護霊を出し、他の寮監の先生を呼び集めた。
「――傷を治す方が先じゃの」
ダンブルドアは失神しているをルーピンに任せ、自分はシリウスに、あと一時間ほどでをそちらに移動させる、と伝言した。

ルーピンは女子生徒を三人ほど担架に載せ、医務室に運ぶスネイプと一緒に移動した。スネイプが運ぶ女子生徒の中にはマクゴナガル先生の格好をした子がいた。おそらくポリジュース薬を飲んだのだろう。授業で会っているから、髪の毛を手に入れるのは簡単だ。
「貴様がついていながら」スネイプが嘲った。
ルーピンには反論の余地がなかった。スネイプの言うとおりだ。犯人を捜し出したはいいが、現場を押さえたいため、ずっと待っていた。その結果、が先に傷ついた。なんて様だろう。
「だからお前たちは嫌いだ」
医務室につくと、マダム・ポンフリーが忙しそうに働いていたが、のボロボロな姿を見ると、誰のことよりも彼女を優先した。
折れた右腕を治し、頬の傷癒し、呪文で傷つけられたであろう足を診て、の薄く開いた口に魔法薬を流し込んだ。そして、ルーピンとスネイプ、をカーテンで区切り、の濡れた服を新しい服に取り替えた。
しかし、すでには風邪をひいてしまっていたらしい。マダム・ポンフリーはの頭に氷をのせた。魔法薬をまた飲ませてしまうと、先程、飲ませた足の為の魔法薬が正常に働かないからだった。
「風邪がこじれないと良いですが」
マダム・ポンフリーは短くなったの髪を元の流さまで戻しながら言った。
「患者は衰弱しきっています。命に危険はないでしょうが、随分、苦しむことになりそうですね」
そのとき、マクゴナガル先生とフリットウィック先生とスプラウト先生が、最後の女子生徒を担架に載せて医務室にやってきた。
「リーマス、ダンブルドア先生からの伝言です」
マダム・ポンフリーに女子生徒を任せ、マクゴナガル先生はルーピンに耳打ちした。
を連れてあの家に向かってほしいそうです。ダンブルドアがポートキーを用意しています。ポートキーの到着地点にはシリウスたちが待っています」
「わかった、ミネルバ」
ルーピンが答えた。
「ところで、この女子生徒たちの処罰はどうなるんだい?」
ルーピンは出来るだけ怒っていないような声で言ったが、マクゴナガル先生はお見通しだった。
「一人につき、五十点は確実に減点です。それと、ダンブルドアと相談して謹慎処分にするかもしれません」
ルーピンは果たして、今後、この女子生徒たちと普通に接せられるかわからなかったが、マクゴナガル先生に頷いてみせた。
「リーマス、早く行った方が良いでしょう」
ルーピンはマクゴナガル先生たちに見送られながら、を優しく抱き上げ、ダンブルドアが待つ、校長室に向かった。
「それでは、リーマス。を頼みましたぞ」
ダンブルドアはを抱きかかえたルーピンを迎え、神妙な面持ちでそう言った。
「わかりました」
ルーピンははっきり頷くとポートキーに手を触れた。ポートキーはルーピンとをシリウスたちが待つ場所まで運んだ。
ドサッと音がして、ルーピンは地面に倒れ込んでいるのがわかった。
「リーマス、大丈夫か?一体、何があった?」
シリウスの声がして、ルーピンは抱き起こされた。
「まず、を家に連れて帰らないと。風邪をひいているんだ。だけど、魔法薬を飲ませるわけにはいかない。治療のために飲んだ魔法薬が正常に働かなくなるから」
そう言って、をまた抱き上げようとしたが、その心配はなかった。すでにジェームズがにこやかにを抱いていた。
「リーマス、これは僕の特権さ」
ジェームズのいつもの笑顔に、ルーピンは張り詰めた精神が緩むのを感じた。
「わたしは、彼女を助けられなかった」
ルーピンは、いつの間にかシリウスとジェームズにそう言っていた。
「気にするな」
シリウスがそっけなく答えた。
「おまえの所為じゃない」
「しかし――」
ルーピンがまだ何か言いかけようとすると、ちょうどそのとき、ジェームズの腕の中でが呻き声をあげた。
を早く寝かせないと」
三人とも深刻な顔をして、家に急いだ。誰の責任か揉める前に、の身体を優先するのが、保護者の責任だった。

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