ジェームズの言い付け通り、ハリーもロンもハーマイオニーもを一人にはさせなかった。ときどき、ハリーの頭をマルフォイの言葉が過ぎったが、その考えをハリーは無理矢理追い払った。だったら嫌なことは嫌だと、自分たちに言ってくれる――そう信じた。
一方、に対する嫌がらせはなくらなかった――教科書は相変わらず無くなったし、悪口が書かれた手紙は毎日のように届いた。その度に、はルーピンの部屋に行って手紙を開けていた。しかし、確かにいつも四人でいることで嫌がらせをされてもすぐに対処出来るようになった。階段から突き落とされそうになったら、すぐさま三人のうち誰かがに手を差し延べ、廊下で呪文が飛んできたら、誰かが反対呪文を唱えた。
はそれを見ながら、もう三人には嫌がらせをされているのがバレているのだな、と思った。しかし、何故自分と一緒にいたがるのかはわからなかった。
ある日、四人で湖のそばでくつろいでいると、突然グリフィンドール生の男子がに話し掛けてきた。
「マクゴナガル先生が君を呼んでる」
は疑いもせず、「わかった」と言って、城に戻ろうとした。
「待って、。僕らも行くよ」
ハリーも立ち上がり、それにつられてロンとハーマイオニーも立ち上がった。
「ううん、大丈夫よ」
しかし、はそう言った。
「でも――」
ハリーはジェームズに言われた言葉を思い出した。片時もから離れてはいけない。
「そんな心配しないで、ハリー。たかが城に戻るだけじゃない」
「でもね、」ハーマイオニーがに言った。
「、早く行かないと。マクゴナガル先生、怒ってたって言ってたから」
男の子はそう言って城に戻って行った。
「マクゴナガル先生を待たせるわけにはいかないわ。私、もう行くね」
は走って城の中に入った。ハリーたちが後を追い掛けてくる気配はない。きっとまだ湖のそばにいるのだろう。
すると、そのとき、声をかけられた。
「ブラック、ちょっといいかしら」
見知らぬ女子生徒だった。ネクタイの色からして同じグリフィンドール生だろうが、はその子を見たことがなかった。
「なんですか?」
「マクゴナガル先生はこっちで待ってるの」
女子生徒はにっこり笑って、ついてきて、と言った。はついていくべきか迷ったが、そんなことで嘘をついても仕方ないだろう、と考え、ついていくことにした。
廊下を何回か曲がり、結構な距離を歩いたが、誰にも会わなかった。
「ここよ」
その女子生徒は木の扉を指差し、にっこり笑った。
「あ、ありがとうございます」
はお礼を言った。そのときまで、何かがおかしい、とは思わなかった。
はその女子生徒に促されるまま、扉を開け、中に入った。中は薄暗く、は目が慣れるまでじっとしていた。
「ブラックですか?」
マクゴナガル先生の声がした。が目を細めると、確かに奥の机の向こう側にはマクゴナガル先生が座っている。
「はい。・ブラックです」
が名を名乗ったとたん、青白い光線がを直撃した。は一瞬、呆気にとられて何も考えられなかったが、自分が床に倒れているのに気がつくと、鋭い痛みを感じ始めた。杖を取ろうと右腕を伸ばそうとすると、本当に痛い。骨が折れて、右腕は変な方向に曲がっていた。
「あなたがいけないのよ、ブラック」
冷たい声が響いた。目を開けるといくつもの足が見える。一人ではないらしい。
「ルーピン先生とどんな関係にあるかなんて関係ないわ」クスクスと笑い声が聞こえ、足を思い切り踏まれた。
「ルーピン先生はあなたのものじゃないの。消えてくれる?」
「記憶が無くなったとか、あなたの演技じゃないの?」
確かにその声はマクゴナガル先生だったが、口調が全く違う。
「本当にうざったいのよね、そういうの。ハリーにもベタベタしないでちょうだい」
バサッと音がして、頬に何かがかかった。髪の毛だ。
「邪魔だから切ってあげたわ。感謝してね」
と視線の高さを合わせ、笑った女の子はハッフルパフの女の子だった。
「ついでに体も綺麗にしてあげるわ」
別の女の子の声がして、水をかけられた。服が肌に引っ付き、気持ち悪い。それに寒かった。
「体は綺麗になっても、心の中は真っ黒。汚れてるわね」
クスクスと数人の笑い声がした。
はもうすでに声を上げる気力も、動く気力も残っていなかった。しかし、泣くまい、と強く思った。泣いてたまるか。
「なに、不満そうな顔してるの?自分は悪くないとでも思ってるの?」
腹部に激痛が走り、は吐き気がした。
「あんた、本当にハリーがあなたを好いてると思ってんの?」
折れた右腕を踏まれ、は悲鳴を上げそうになった。しかし、必死に堪え、下唇を噛んだ。そのうちに、口の中に血の味が広がり、唇が切れたのがわかった。
「何か言ってみなさいよ」
短くなった髪の毛をわしづかみにされ、引っ張られた。しかし、は何も言わなかった。
「わかったわ、こいつ、ルーピン先生に『惚れ薬』でも飲ませてるんじゃないの?」
赤い閃光がに当たった。左足が痛み、痺れた。は左足がどうなったのか気になったが、動く元気はもうない。
「そりゃそうよね、こんな女が好かれるわけがないもの」
キラリと光るナイフが見えた。冷たい、と思った矢先、ツーッとの頬を血が流れた。
「これでずいぶんマシな顔になったんじゃない?」
そうね、と口々に女子生徒が賛成する声が聞こえる。
「死んじゃえ」
靴のまま、頭を踏まれ、は気が遠くなった。このまま死んでしまえたら、どんなに楽だろうか。苦しみからも悲しみからも解放され、何も感じなくなれば、どれだけ良いだろうか。そんなことを思う反面、女子生徒への憎しみ、怒りが渦を巻いて自分を支配していた。
そして、意識がなくなる直前、周りが光に包まれ、悲鳴が聞こえた。それが女子生徒のものだと、はすぐにわかったが、何故、悲鳴をあげたのかはわからなかった。
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