「ルーピンのところへ行こう」
医務室を出ると、ハリーが二人にそう言った。
「絶対、何かおかしい。出来損ないの呪文がどうしてあんなところでに当たるんだ?」
ハリーが腹立たしげに吐き捨てた。傍にいて、を守れなかった自分が悔しいのだろう。
「あの、ハリー」
早足でルーピンの部屋に向かうハリーに、ハーマイオニーはの秘密を言うべきか迷っていた。しかし、確かに怪我をしたのだから、とハーマイオニーは自分を正当化して意を決した。
「、嫌がらせされてるの」
「
なんだって?」
ハリーがハーマイオニーでさえ噛み付きそうな気配で振り向いた。
「黙っててごめんなさい。でも、と怪我をするまで言わないって約束してたの。だから――」
「もし出来損ないの魔法じゃなかったら、はもっと大怪我だったかもしれないんだぞ!」
ハリーは自分でも何故こんなに怒るのかわからなかったが、いつの間にか怒鳴っていた。
「ハーマイオニーに当たるなよ、ハリー。はまたいつもの『みんなに心配かけなくない病』だろ?気付かなかった僕らが悪い。ハーマイオニーは気付いてたんだ、の変化に」
ロンがハリーの肩をたたき、なだめると、いくらかハリーも落ち着いてきた。
「それなら――ごめん、ハーマイオニー――早くルーピンのところに・・・・・」
ハリーがいくらかバツの悪そうな顔をしながらまた歩き出した。ロンもハーマイオニーも出来るだけ急ぎながらその後を追った。
「先生、先生!」
ハリーが荒々しくドアを叩くと、ルーピンが何事かと、心配そうな顔をしてドアを開けた。
「が怪我
させられたんだ――犯人は誰だかわからないけど、絶対にに嫌がらせしている生徒だ!それに、マダム・ポンフリーもの右足に当たったのは出来損ないの呪文だって」
ハリーは一気にそこまで言うとルーピンの反応を待った。ルーピンはしばらく考えるような仕草をすると、三人に静かに聞いた。
「今、は?」
「医務室で寝ています。夕食までには治ると、マダム・ポンフリーが言っていました」ハーマイオニーが答えた。
「そう、それならいいが。三人ともおいで。お茶にしよう」
ルーピンはまたいつものような柔和な微笑みを浮かべ、三人を部屋に招き入れた。
「――それで、ハリー。どうしてが嫌がらせをされているってわかったんだい?」
ルーピンは紅茶を三人に配り終えると、椅子に座り、ハリーを見た。
「ハーマイオニーが教えてくれた」
ハリーがそう答えると、ルーピンの視線がハーマイオニーに動いた。
「話してくれるかい?」
ルーピンの優しい眼差しにハーマイオニーは少しずつ話し出した。
「――やはり、あの手紙にはそういうことが書いてあったんだね」ルーピンが目を細めた。
「先生はどうするんですか?」
ロンが突然、声を発した。
「どうする、とは?」ルーピンがやんわりと聞き返した。
「を守るんじゃないんですか?」
ロンの質問には答えず、ルーピンは立ち上がると暖炉に何かを投げ入れて「シリウス、ジェームズ」と言った。そして、暖炉の火が鮮やかになり、中からはシリウスとジェームズが灰を少し被って出てきた。
「どうした?」
シリウスは自分についた灰を落としながら、ルーピンと三人のグリフィンドール生徒を見た。
「絡みだね」
ジェームズはどこか悲しげな笑みを一瞬浮かべ、自分の椅子を出し、ハリーとルーピンの間に座った。シリウスも真似して、ルーピンとハーマイオニーの間に座った。
「が嫌がらせをされているらしい」ルーピンが静かに言った。
「・・・・・
逝かせてもいいかな?」
ジェームズの恐ろしく整った笑顔に黒い影がかぶった。
「殺人は揉み消せないって、ジェームズ」
ルーピンが深いため息をついてジェームズを見た。ハリーたちはその様子をただ唖然と見る他なかった。
「で、はどこだ」
シリウスが心配そうな声で聞いた。
「医務室にいる。さっき出来損ないの呪文に当たって軽い傷を負ったらしい」
ルーピンがそう言うと、シリウスの目が鋭いまなざしに変わった。
「シリウス、君も生徒に手を出したら駄目だよ。根本的な解決にはなにもならない」
「それならどうして呼んだ?」
ルーピンにシリウスが切り返した。
「君には、知る権利がある。多分、最終的にを守れるのは父親の君だ」
そのルーピンの言葉にピクッとハリーが反応した。しかし、彼は何も言わず、黙って三人の大人たちを眺めた。
「ハリー、は辛そうかい?」
ジェームズがハリーに聞いた。
「そうでもない。無理しているようにも見えなかった」
ハリーが答えると、ジェームズが考え深げに口を開いた。
「三人合わせて、数秒でもを一人きりにさせる時はあるかい?」
三人は顔を見合わせて、首を横に振った。ジェームズはそれを見て、満足げに笑うと、三人に言った。
「ルーピンが犯人を見つけるまで、絶対にを一人きりにさせるな。それと、四人でも安心は出来ないから、出来るだけ人が多いところ、大人がいるところを歩きなさい」
「父さん、でももう三人とも成人だ。くらい三人で――」
「守れる、って言いたい気持ちは痛いほどよくわかる」シリウスがなだめた。
「しかし、三人だけの力には限りがある。君たちはまだ経験不足だ。君たちができることをするんだ」
シリウスの言葉にハリーは不満そうだったが、ハーマイオニーににらまれて、仕方なく頷いた。
「そう、それなら安心してを任せるよ。くれぐれもに無茶はさせるな」ジェームズが言った。
「あの、ルーピン先生、一つ聞いても良いですか?」ハーマイオニーがルーピンを見た。
「なにかな?」
「ルーピン先生がをいじめている生徒を見つけるんですよね?本当に――失礼になりますが――見つかりますか?」
ルーピンはハーマイオニーにいたずらっぽい笑みを向け、いつもとは違う、はつらつとして言った。
「わたしはかつての『悪戯仕掛け人』だよ、ハーマイオニー」
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