Twenty-nine Memorise
あの手紙が来てからというもの、に対するいじめは酷くなる一方だった。教科書が無くなるのは日常茶飯事で、グリフィンドール寮のの寝室には、毎晩のようにの悪口が書かれた羊皮紙があったり、時には壁に彫られていた。しかし、は出来るだけハリーたちには知られないようにしていた。ただでさえ、迷惑をかけているというのに、クイディッチの試合間近だというのに、こんな話で彼らの手を煩わせたくはなかった。けれど、秘密にしておくのにも限界があった。ハーマイオニーがのベッドにネズミの内臓が山積みになっているのを見つけたのだ。
「ちょっと、!」
ハーマイオニーはを寝室に呼ぶと、誰も入って来れないように魔法をかけた。
「どういうことよ!あなた、ずっと私たちに黙ってたの?いじめられてること」
ハーマイオニーの怒った顔は迫力があったが、は口を開かなかった。まさか、夏休み中、あんなに世話になったルーピンが原因なんだと言えるはずもなかった。
「ねえ、、何か言って。私、確かに怒ってるわ、黙ってたこと。だけど、あなたの特性として、他人に黙っている傾向があるのはもうわかってるの。それが他人に迷惑をかけたくないっていう妙なプライドの所為っていうこともね」
一歩ずつ確実に迫ってくるハーマイオニーに、は根負けした。そして、二人でのベッドの上を綺麗にすると腰掛けた。はあの手紙を貰った日から始まったいじめをすべてハーマイオニーに打ち明けた。
「――でも、ハーマイオニー。ハリーたちには言わないで。リーマスにも」
は懇願した。
「それは約束出来ないわ」ハーマイオニーが厳しく言った。
「もし、あなたに対するいじめが酷くなったら、あなたが無傷で済まないかもしれない。大事になる前に止めなきゃ」
「でも、ハーマイオニー」は引き下がらなかった。
「ハリーたちが立ち向かうべきなのは、『ヴォルデモート』とか言う悪い人なんでしょ?私に構ってる暇があったら――」
「そう言うと思ったわ」
ハーマイオニーはをさえぎって言った。どこかその表情は柔らかだ。
「あなたは今も昔も変わらない。いいわ、黙ってる。でもその代わり、怪我をしたらその時点で私はハリーたちに言うわ」
いいわね、とハーマイオニーはに確かめた。もその案が一番妥当だろうと、頷いた。部屋にはもうすでにネズミの内臓の臭いはしなかった。

ハーマイオニーと約束してから一週間が過ぎた。その一週間の間、いじめが途絶えることはなかったが、ハーマイオニーもの教科書を探したり、悪口の書かれた羊皮紙は直ぐさま燃やしたりしたので、一人のときより辛くなかった。ハーマイオニーがいることで、とても心強かった。
その週末はクイディッチの試合だった。グリフィンドールの初戦はもちろん白星だ。ジニーやディーン、それにアレンが次々にシュートを決め、始まってから十分程度でハリーが早くもスニッチを手にしたのだ。スリザリン相手の試合で、はマルフォイの悔しそうな顔を見た。
「おめでとう、ハリー、ロン」
は更衣室から出てきたハリーとロンに笑顔を向けた。ハーマイオニーも嬉しそうに「おめでとう」と言った。
「まあ、あんなもんだよな。がいたらもっと点差を広げてたかも」ロンが楽しそうに言った。
「あら、じゃあディーンは辞めたのね?」ハーマイオニーが聞いた。
「うん、が戻るまでっていう約束だったし」
ハリーはがチームに戻ってくることで、次の試合の勝率が確実に上がったと思い、一人静かに笑った。
そのとき、は右足がガクッと折れて、無様に廊下に倒れた。右足に痛みはなかった。ただ、力が入らないだけだ。
、大丈夫?」
ハリーもロンもハーマイオニーもびっくりしての周りにしゃがみ込んだ。は「大丈夫」と言って立ち上がろうとしたが、右足に力が入らなくて起き上がれない。
「起き上がれないの?」
ハリーが心配そうな顔をして、に尋ねた。
「うん・・・・・」
自身も不安を隠せなかった。どうにか左足だけで立ち上がろうとしたが、安定しないので、すぐに倒れてしまう。
「無理に起き上がろうとしない方がいいんじゃないかしら」ハーマイオニーが意見した。
「うん、僕もそう思う。マダム・ポンフリーのところに連れていった方がいいよ」
ロンの意見にハリーは頷いて、に視線を戻した。
「君に触ってもいいかい?」
は恥ずかしかったが、小さく頷いて、ハリーに身を任せた。ハリーはを優しく抱き上げると、ロンとハーマイオニーと一緒に医務室に向かった。その途中、レイブンクローやハッフルパフの女子寮生と鉢合わせした。は自分に突き刺さる視線が痛くて、何度もハリーに「下ろして」と言おうとしたが、その勇気もなかった。
医務室ではマダム・ポンフリーがの右足の具合をよく見ようとスカートを少しめくり、靴下を脱がせた。マダム・ポンフリーもハーマイオニーもハリーとロンを追い出すことを忘れていたため、ハリーとロンは真っ赤になりながらもの綺麗な素足を拝んだ。
「多分、一時的なショックでしょう。出来損ないの呪文が当たったのだと思いますよ」
マダム・ポンフリーはの足を触りながら、に言った。
「痛みはありますか?」
「いえ」
はそれを聞いて安心した。右足はすぐに直りそうだ。
「夕食まではここでお休みなさい。それまでには回復しているでしょう」
マダム・ポンフリーはハリーにをベッドに運ぶように言い付け、そして、がベッドに横になったのを見届けると、ハリーとロンとハーマイオニーをさっさと追い出した。
は三人を見送ると、少し寂しくなった。いつも三人のうち誰かしら傍にいたので、それに慣れてしまっていたのだ。しかし、疲れていたのか、は自分でも気付かないうちに眠っていた。

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