Twenty-eight Memorise
「そうしたら、飛んでみましょうか」
箒の乗り方をマスターしたに、フーチ先生はそう言った。しかし、にしてみれば、かなり不安だった。素直に「はい」とは返事できない。
「大丈夫だよ」
ハリーやロン、ハーマイオニーに励まされ、やっと空中に浮かんだときは何故か懐かしさが込み上げてきた。幼い頃に初めて飛んだあの嬉しさ、そんな感じだ。は箒でクルリと一回転するともといた場所に着地した。
、やっぱり君はすごいよ」
ロンが感心しながら言った。
「なんかね、小さいときに飛んだことあるなって思ったの」
が楽しそうにそう言うと、ハリーもロンもハーマイオニーも、フーチ先生でさえも驚きを隠せないでいた。
「思い出した――?」
ハリーがからファイアボルトを受け取りながらそう聞いた。
「多分、違うと思うわ」
は肩をすくめた。
「だって、『思い出す』っていう作業はもっとはっきりした感じでしょう?私のは、なんとなくっていうか、デジャビュみたいな感じだもの」
「デジャビュ、ね」
ハーマイオニーが納得したような、していないような顔でを見た。
「とにかく、が飛べるようになったんだ、次の試合からはもチェイサーさ」ハリーが嬉しそうに言った。
「さあ、もう夕食の時間ですからお行きなさい」
フーチ先生も嬉しそうな顔をして、四人を追い立てた。は空を飛べるようになって、ちょっと自慢げだ。
四人はフーチ先生と箒置き場の近くで別れ、箒を置きながらハリーが一本の箒をに差し出した。
「これが君の箒だ。今日は僕のを使ったけど、ちゃんと君専用の箒もあるから。いつでも使っていいんだよ」
はハリーが差し出してくれた箒を手にとると、顔に広がるにやけを止められなくなった。自分専用の箒が、嬉しくて堪らなかった。
「さあ、夕食を食べに行きましょ」
ハーマイオニーは嬉しそうなを見て、自分も嬉しくなった。どうやら、の嬉しそうな顔は伝染するようだ。
夕食を食べながら友達と話していると、ルーピン先生がにこにこしながらに近付いてきた。

グリフィンドールのテーブルに座っていた女子生徒たちの多くが、に鋭い視線を向けた。
「飛べるようになったんだってね」
ルーピンはとハリーの間の後ろにしゃがみ込んで、二人と同じ視線の高さになった。
「あ、はい」は相変わらず嬉しそうだ。
「ルーピン先生、が飛んだときに、小さいころ、飛んだことがあるなって感じたみたいなんだ」
ハリーが横から話に割り込んだ。
「思い出したのかい?」
ルーピンの表情が素早く代わり、鋭い語調でに尋ねた。
「違うの。はっきりとしたものじゃなくて――なんて言えばいいのかわからないけど――デジャビュみたいな、そんな感じなの」
は内心、ルーピンにそのことを話してしまったハリーを恨んだが、顔には出さなかった。
ルーピンはしばらくじっとを観察した後、ただ「そうか」と短く答えた。
「リーマス、怒ってる?」
はシリウスから言われた言葉を覚えていたが、底無しの不安に襲われて、思わずルーピンのファーストネームを呼んだ。
「――いや」ルーピンは優しい笑顔をに向けた。
「そんなことはない。少し考えていただけだ。気にすることはない」
ルーピンはそう言っての頭を撫でると、四人に「また今度」と言って大広間を出て行った。
「ルーピンは明らかに何かを感じている。絶対そうだ」
ハリーはルーピンがいなくなるとそう言い切った。
「でもハリー。ルーピンが言わないなら、私たちが割り込むべきではないわ」ハーマイオニーが言い返した。
「それにしても、ルーピンが公の場での頭を撫でるとは思わなかったぜ」ロンは一人、気楽にニヤリと笑った。
「いつもなら、シリウスの家でしかとはスキンシップしないんだろ?」
ロンがハリーにそう聞くと、ハリーが答えようとする前にハーマイオニーが割り込んできた。
「あれはがルーピンのファーストネームで呼んだからよ。ルーピンだって馬鹿じゃないわ。が助けを求めているのに、その手を蔑ろになんてしないわよ!」
「そのわりには僕らに何も教えてくれないけどね」
ハリーが嫌味たっぷりにそう言った。ハーマイオニーはまた言い返そうと口を開きかけたが、一羽のふくろうがの前に舞い降りたので、口を閉ざした。
「ルーピンのところに行かないと」
ハリーがさっきとは打って変わって、緊迫した声で三人に言った。
、開けちゃだめよ」
「私、開けないわ」
は心配性のハーマイオニーに一言噛み付いて、ふくろうごと抱き上げて、ハリー、ロン、ハーマイオニーと一緒にルーピンの事務所へ向かった。
「ルーピン先生」
ルーピンは事務所へ着く前に見つかった。彼はがふくろうを持っているのを見て、表情が一瞬、暗くなった。
にふくろうが届いたんです!」ハリーが言った。
「君たちは外で待っていなさい。、おいで」
ルーピンは素早く、かつ的確に指示を出し、を事務所の中に引き込んだ。
「ゆっくり手紙をふくろうから取って、封を開けなさい。わたしは君に危害が及ばないように見ている。もし、君宛ての個人的手紙だったら、そのままハリーたちと一緒にグリフィンドール塔へ帰りなさい」
はルーピンに促されるまま、恐る恐る手紙に手を伸ばした。そして、そのままふくろうの脚から結ばれた手紙を解くと、ルーピンの見ている前で開いた。

おまえは最悪な人間だ。ルーピン先生とおまえは釣り合わない。

手紙にはそれしか書かれていなかった。呆然と手紙を見ていると、ルーピンが不審そうにに近付いた。しかし、はその手紙をルーピンに見せるべきではないと判断し、笑顔を作った。
「私の友達からです」
ルーピンは少し疑わしげに見ていたが、を信じることにしたのか、部屋のドアを開けて、ハリーたちを招き入れた。
「あぁ、!手紙は大丈夫だった?」
ドアが開いたとたん、ハーマイオニーがに抱き着いてそう聞いた。はハーマイオニーにも言ってはいけない、と判断して「友達からよ」と答えた。
「本当に?」ハリーが鋭く聞いた。
は彼の、まるで責めているような視線から目をそらし、小さく「うん」と答えた。

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