次の授業は変身術だった。マクゴナガル先生もルーピンと同じように今までの復習から始めた。というわけで、授業が終わったころには全員クタクタだった。
「ルーピンもマクゴナガルも厳しすぎるよ」
ロンが昼食のため、大広間に向かいながら言った。
「あら、でも二人とも正しいわ。私たち、今、とっても大切な時期にきてるのよ」
「あーそうですか」
ハーマイオニーにロンが嫌味ったらしく答えた。
「でも、私、きっとついていけないわ」
は絶望的に言った。
「大丈夫よ!」ハーマイオニーがにっこり笑った。
「さっき、ルーピンの魔法を防いだのはあなたとハリーだけよ、わかってる?それに、マクゴナガル先生のときだってアライグマを完全に変身させたじゃない」
「たまたまよ。夏休みにずっとスネイプとリーマスの補習を受けていたから――それで出来なかったらリーマスが怒るわ」
がハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーはそれでも納得いかないらしく、まだに言い返そうとした。しかし、そのときの名前を誰かが呼んで、四人の注意はそっちに逸れた。
「、よかった。僕、聞きたいことがあったんだ!」
小柄な男の子はぴょこぴょこしながらに言った。相手は自分を知っているようだが、はまったく彼を知らなかった。戸惑いが顔に出たのだろう、ハリーがその場を取り繕うように男の子に言った。
「ごめん、コリン。後でも良いかな。僕たち、急いで昼食を食べないといけないんだ」
ハリーは無理矢理その男の子から逃げるようにグリフィンドールのテーブルに腰掛けた。男の子は諦めたのか、同じ学年らしき男の子とグリフィンドールのテーブルに座った。
「彼はコリン・クリービー。僕らの一つ下。少し好奇心旺盛な男の子だね」
ハリーはの隣に座りながら言った。
「それにしても、いったい何を聞きたかったのかしら?」
ハーマイオニーが考えこんだ。
「記憶がなくなったって本当かどうか、じゃないかしら」がつぶやいた。
「まさか。それは全校生徒、全員が知ってるよ。まあ、君がネビルの間違った呪文に当たったから記憶がなくなったっていうのは知られてないかもしれないけどさ」ロンが言った。
「ネビルって?」
が話の腰を折った。
「ネビル・ロングボトム。僕らと同じ学年のグリフィンドール生だよ」
ハリーはにサラダを取り分けながら答えた。
「でも、。ネビルを責めないでね?彼もわざとじゃないんだし・・・・・」
「どうして責めるの?」
は慌ててネビルを庇い始めたハーマイオニーに言った。
「私、これでも記憶がないのを楽しんでるのよ。みんな、親切にしてくれるし」
はニッコリ笑ってみせた。
「――おかげで私たちは冷や汗ものよ」
ハーマイオニーがやれやれとため息をついた。そして、互いに顔を見て吹き出した。
そのとき、バサバサと翼を大きく広げながら一羽のふくろうがこちらに向かってやってきた。脚に手紙がくくりつけてある。ふくろうはの目の前に舞い降りた。
「誰から?」ハーマイオニーが聞いた。
「わからない。パパたちからかな」がふくろうから手紙を取りながら言った。
「開けて」ハーマイオニーが急かした。
は「はいはい」と笑いながら手紙を開けた。そのとたん、手紙からドロッとした黒いものが流れ、テーブルの上に流れ落ちた。おまけに、その黒い物体からは悪臭が立ち込めている。
「なに、これ」
は不安そうにハリーを見た。
「、手紙から手を離すんだ」
はハリーに言われるまま、そっと手紙をテーブルの上に置いた。手紙からはまだ黒い悪臭を放った物体が流れ落ちている。その黒い物体は自在に動き、何かを形作っているように見える。
「臭いよ、これ」
ロンが鼻を摘んだ。
「ねえ、誰か先生を呼んだ方が――」
「!」
ハーマイオニーの言葉をさえぎってハリーはの手を引っ張って、立ち上がらせた。そうでもしなければ、今までが座っていた椅子の代わりに、の足に焦げ跡がついていたことだろう。黒い物体がテーブルから椅子に滴り落ちて焦げ跡を造っている。白い煙が上がり、やっと騒ぎに気付いたのか、周りにいた生徒たちが騒ぎだした。
今や、テーブルの上の黒い物体はの見たこともないような奇妙な形を作っていた。
「ねえ、これってまさか――」
ハーマイオニーが息を呑むと同時に厳しい声が聞こえた。
「何事ですか」
騒ぎを聞き付けて、厳格なマクゴナガル先生がやってきたのだ。しかし、先生もテーブルの上の黒い物体の形を見ると、心配そうにを見た。
「ブラック、怪我は?」
「ありませんけど・・・・・」
たかが変なマークのせいでマクゴナガル先生が自分を心配そうに見たのは納得がいかない。マクゴナガル先生だけではない。ハリーもロンもハーマイオニーも、野次馬として集まってきた生徒も、心配そうに、半ば恐れるようにを見ていた。
そのとき、静かな声が響いた。
「マクゴナガル先生、生徒を頼めるかね。スネイプ先生、テーブルと手紙の処理を、ルーピン先生、急いで彼らを呼んでくだされ」
ダンブルドアだった。彼は的確に先生たちに指示を出すと、四人に向き直った。
「状況を説明してくれるかね?」
ハーマイオニーが四人を代表して、詳しくダンブルドアに話して聞かせた。ダンブルドアは話が終わると、ただ一言、ハリーとについてくるように言った。
大広間を出るとき、興味津々の生徒たちの視線を感じた。
「先生、まさかホグワーツにあいつが――」
「いや、その可能性は少ないじゃろう」
ダンブルドアはきっぱりとそう言った。
「、怪我は?」
「大丈夫です」
マクゴナガル先生といい、何故、自分だけ心配されなければいけないのか、には納得いかなかった。
「、君には話さなければいけないことがある」
ダンブルドアは歩く足を早めながら言った。
「『闇の印』というものじゃ」
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