初日の授業は闇の魔術に対する防衛術だった。
ルーピンはちらほらと揃い始めた生徒たちを見ながら、夏休みのとの個人授業を思い出していた。あのときの彼女と比べたら、目を見張るような成長を遂げた。きっと、楽にこのクラスについていけるだろう。
「、ここに座りましょ」
はハーマイオニーに引っ張られながら二列目に座った。の両隣にはハーマイオニーとハリーが座った。前にはラベンダーとパーバティが座っていた。
「さて、じゃあ出席を取ろうか」
ベルが鳴り終わると、ルーピンは立ち上がって生徒たちを笑顔で見渡した。その笑顔に何人もの女子学生が魅了されたとも知らずに。
「――」
「はい」
の名前を呼ぶとルーピンは少しを見つめた。
はルーピンに見つめられてドキドキしたが、ルーピンはそれから何事もなかったかのように出席をとり続けた。
「さあ、みんなはもう七年生だ。今年でもう学校生活も終わりだね。そして大切なN.E.W.Tsも待っている。どの授業も去年よりはるかに授業内容は難しくなるはずだ。頑張ってついていくんだよ」
元気な返事が――大半が女子学生の声だが――返ってきた。一方、は不安を隠せなかった。いくら夏休みに死に物狂いで勉強していたとしても、七年生の授業についていけるかはわからない。
ルーピンはの顔色の変化を読み取って、全員に言った。
「それじゃあ今日は夏休みにどれだけ勉強したか、去年やったことが頭から抜けていないかどうかテストしよう――そうだね、出来た人、一人に対して五点、寮に加算しよう」
ざわざわと教室中が騒がしくなった。だいたい夏休みは遊ぶものであって、勉強する時間ではない、というのが学生の中での暗黙の了解だ。
「さあ、一番最初にやりたい人はいるかな?」
生徒たちは誰一人としてルーピンと目を合わせようとしなかった。
「うーん、それならわたしの方で決めちゃうよ?」ルーピンがやんわりと言った。
「ルーピン先生、課題を教えていただけますか?」
そのとき、ハーマイオニーが手を上げてルーピンの気をそらした。
「あぁ、そうだね。課題はわたしが掛ける術から逃れられたら合格だ。ただし、逃れるときは魔法を使うこと。それ以外は認めないよ」
また教室がざわざわと騒がしくなった。教師の魔法から逃れられるはずがない。
「さあ始めようか――そうだな、始めはネビル、君からやろう」
ルーピンはにこやかにネビルを前に呼んだ。ネビルはガチガチに緊張していて、前に立って残りの生徒たちと顔を合わせたときには真っ青だった。
「落ち着いてやれば大丈夫だ、ネビル」
ルーピンはポンとネビルの肩をたたき、お互いに杖を構えた。
数秒後、やはりネビルは緊張のためか、見事にルーピンの魔法に掛かって、タップダンスを踊っていた。ルーピンがパチンッと指を鳴らすとネビルの足は動きを止めた。
「ネビル、呪文ははっきり丁寧に言わないと効果は出ないよ」
ルーピンは優しくそう言って、ネビルを席に戻した。
次々と生徒の名前が呼ばれて、ルーピンと対面した。中には成功しかけた生徒もいたが、やはりルーピンのかけた呪文を防ぐことは出来なかった。
残り、とうとうハリーとだけになってしまった。
「じゃあハリー、レディー・ファーストでいいかな?」
ルーピンがハリーにそう聞くと、ハリーは無表情のまま、頷いた。
「それじゃ、、前においで。君の番だ」
ルーピンとが向かい合うと教室中が静かになった。記憶がなくなったとはいえ、生徒たちはのすごさを侮ったりしなかった。
「三秒数えてからだよ」
ルーピンもの力を十分に承知していた。ダンブルドアから魔法をコントロールできる、と信頼されてもどんな場合もの魔力が暴走しないとは限らない。
シーンとした教室中が見守る中、数秒後に決着はついた。の放った「盾の呪文」がルーピンの魔法を防いだのだ。
「やっぱり、ってすごいね」
教室のどこかでそんな声が聞こえた。
「よくやった、。それじゃあグリフィンドールに五点あげよう」
ルーピンが朗らかにそう言うと、教室のグリフィンドール生が一斉に拍手した。
「じゃあ最後はハリーだね」
はハリーと入れ違いに座ったが、やはり昨日と同じく、ハリーは目を合わせてくれなかった。
ハリーは「闇の魔術に対する防衛術」の成績が良いだけあって、ルーピンの魔法から防いだ。
「うん、満点だよ、ハリー。グリフィンドールにもう五点あげよう」
ちょうどそのとき、終了のベルが鳴った。
「それじゃあ、今日の授業はここまで」
ガタガタと椅子から立ち上がる音が響き、ロン、、ハーマイオニーはハリーが戻ってくるのを待った。しかし、ハリーはちょっと振り向いて三人に「先に行ってて」と言っただけだった。
三人は顔を見合わせて興味深い目をハリーに向けたが、誰一人として、ハリーに「なんで?」とは聞かなかった。
三人が、生徒全員が出ていったのを見届けると、ルーピンは教室のドアを閉めて「邪魔よけ呪文」をかけた。
「それで、ハリー。話っていうのはのことかな」
ルーピンは軽く腕を組んで、壁に寄り掛かりながらハリーに言った。
「はい。昨日、マルフォイが――」
「君たちがマルフォイ君と一緒に話していたのはわたしも知っている。中身を聞こう」
ルーピンはハリーの話をさえぎって先をうながした。
「マルフォイが言うには、記憶がなくなったが必ずしも僕たちと一緒にいたいとは限らない、と」
ルーピンの表情はそれでも変わらなかった。
「ハリー、ならもし記憶があった以前のだったら、君たちといたくない場合、ちゃんとそれを伝えた、わかったというのかい?」
ハリーはルーピンの言葉に数秒、躊躇したものの、はっきりと「はい」と答えた。
「ならハリー、それは偏見だ。記憶がなくてもあっても、はだ。根本は何も変わっていない」
ルーピンが諭すように言った。
「君はそれを気にしてを避けているのかい?」
ハリーは申し訳なさそうに、小さく頷いた。
「――の顔を見たかい?」ルーピンがため息をついた。
「可哀相に。君が何か怒っているのかと思って悲しそうな顔をしているよ」
「すみませ――」
「謝るならに」
ルーピンはきっぱりそう言った。
「そうですね。ありがとうございます、ルーピン先生」
ハリーはさっきよりは晴れやかな顔をしてルーピンを見た。
「急ぎなさい。次の授業が始まる」
ルーピンに急かされながら、ハリーは急いで自分の荷物をまとめると、教室から出ていった。
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