汽車はホグズミート駅で停車し、みんなが下車するのでひと騒動だった。そして、四人は周りの人波に流されながら馬車に乗り込んだ。馬車はかすかにカビとワラの匂いがした。
「、大丈夫?疲れてない?」
さっきから窓の外ばかり見ているが気になって、ハリーは声をかけた。
「うん、大丈夫。ちょっと眠いだけ」
はそう言って微笑むと、また窓の外に目を向けた。
そのうちに馬車のスピードが緩まり、そして止まった。四人は馬車から下りて、生徒の群がる石段を、四人は群れに混じって上がり、正面玄関の巨大な樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入った。そこは松明で明々と照らされて、上階に通ずる壮大な大理石の階段があった。
右の方に大広間への扉が開いていた。は群れの流れについて中に入った。大広間の天井は魔法で星が瞬く夜空に変えられていた。
「ねえ、スネイプを見て。なんだかすっごく悩んでいる顔に見えない?」
大広間の席につくと、ハーマイオニーが職員のテーブルの方を見てハリーを突いた。
「僕には相変わらずの形相に見えるけど」ハリーが答えた。
「それはそうと、ルーピン先生も大変だよな」
ロンがニヤリとしてルーピンの方を見た。ルーピンは光のためか、青白く見える。
「なんで大変なの?」
は不思議にロンに問い掛けた。
「だって、またスネイプと同じ職場だぜ?スネイプが『闇の魔術に対する防衛術』の先生になりたいのは誰でも知ってることだろ」
はロンの言葉が初耳だったが、「あ、そっか」と言って話を合わせた。最近、やっと記憶がなくなる以前の自分に戻りかけて、みんなとの距離も感じなくなったのに、こんな些細なことで再び距離を感じたくなかった。
新入生の組分け儀式も終わり、テーブルの上もデザートまで出尽くされるとダンブルドアが解散を告げた。
四人は連れ立ってグリフィンドール塔に向かおうとすると、大広間の外、先生方の目が届かないところでマルフォイに呼び止められた。相変わらずの腰ぎんちゃくの二人との知らない女の子が一緒だった。
「何の用だ、マルフォイ」ハリーが鋭く聞いた。
「おまえに用はない、ポッター。僕が用なのはブラックだ」
「とあなたはなんにも関係ないはずよ」
ハーマイオニーはの手をギュッと握ってマルフォイをにらみつけた。
「おまえにこそ関係ない。穢れた血め」
「口を慎め、マルフォイ!」
ロンが怒って杖を構えた。は「穢れた血」がどういう意味なのかわからなかったが、酷い悪口なのだと思った。
「ロン、気にしないで」
ハーマイオニーはロンがマルフォイに手出しする前に急いでそう言った。
「さっさとブラックを一人にしてやったらどうだ?ブラックだってずっとおまえたちの顔ばかり見て、嫌がってるんじゃないか?」
マルフォイはロンを止めるハーマイオニーからハリーに目を移した。
がハリーを見上げると、何故だかハリーが悔しそうな顔をしてマルフォイをにらんでいた。は不安になってハーマイオニーの顔も見たが、ハリーと似たりよったりだった。
「君たち、一体そこで何をしているんだい?」
ルーピンだった。スネイプとマクゴナガル先生も一緒だ。きっと大広間にはもう生徒がいなくなって、先生たちも部屋に戻る途中だったのだろう。
「別に、何もしていません、先生」マルフォイが言った。
そして、マルフォイたちはさっさと暗がりに姿を隠してしまった。
「、大丈夫かい?」
不安そうに教師を見比べているに気付くと、ルーピンは優しく声をかけた。
「あ、はい・・・・・」
声をかけられたことが恥ずかしいのか、の声は小さくなった。
「さあ、あなたたちもグリフィンドール塔においきなさい。減点しますよ」
マクゴナガル先生に急かされて、四人は早歩きでグリフィンドール塔に向かった。
「どうしてマルフォイはに用があったのかしら」
ハーマイオニーが薄暗い廊下を歩きながら問い掛けた。
「どうせ、いつもの『父上が――』だろ。気にすることないよ、ハーマイオニー」ロンが気軽に言った。
「でも、こんな時間にと二人になったって何も出来ないはずよ。マルフォイだって馬鹿じゃないわ。わかっていたはずよ」
ハーマイオニーが厳しく追求すると、ロンはやれやれとため息をついてハリーに助けを求めた。
「ハリー、なんとか言ってあげなよ。ハーマイオニーは心配性なんだって」
しかし、ハリーは一向に返事をする様子がない。ロンは不審に思って、ハリーの名前を大声で呼んだ。
「ハリー!」
「わ、びっくりした・・・・・なんだい、ロン」
ハリーはキョトンとした顔でロンに問い掛けた。
「それはこっちの台詞だよ。どうしたんだい、ぼーっとして」
そのとき、ハリーはちらりとを見た。がハリーと目を合わせると、ハリーはすぐに目をそらせてしまった。
「がどうかしたのか?」ロンが聞いた。
「きゃっ」
と同時に、は階段の割れ目に足を突っ込んでしまった。いきなり階段が消えたのだ。
「、大丈夫?」
ハーマイオニーが慌ててに駆け寄った。
「あー、そっか。にどこか危険なのか教えなきゃね。ホグワーツの階段は悪戯好きなんだ――、バンザイして」
ロンはそう言って軽々とを抱き上げると安全な階段の上に下ろした。
「怪我はない?」
ハーマイオニーがの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、ありがとう、ロン、ハーマイオニー」
がにっこり笑ってお礼を言うと、つられて二人も笑顔になった。
「さあ、急いで帰らないと。スネイプが私たちから百点くらい減点しかねないわ」
ハーマイオニーが三人をせき立てて、四人はその後何もなく、無事に談話室に着いた。
そしてお互いに「おやすみ」と言うと寝室に上がって行った。その間、ハリーはずっとの方を見なかった。
「ねえ、ハーマイオニー。ハリーは何か怒っているの?」
はベッドに横になりながらハーマイオニーに問い掛けた。
「一度も私と目を合わせようとしてくれなかったわ――合ってもそらされちゃったし・・・・・」
が心配そうにしているのを見て、ハーマイオニーは何故か愛らしく思った。
のベッドに腰掛けて、優しくの頭を撫でると、彼女に笑いかけた。
「大丈夫よ、怒ってないわ。ハリーも久しぶりに学校に来て疲れているのよ。明日になったら機嫌も治っているわ」
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