毎週必ず二回はあるスネイプとの個人授業は慣れればにとってなんでもなかった。ルーピンがいつしか言ったように、は彼らの常識を覆した。
夏休みもあと二日に迫ったある日の午後、は不死鳥の騎士団の本会議に招かれた。少し怖かったものの、はシリウスに連れられて厨房に足を踏み入れた。
「ダンブルドア――」
マクゴナガル先生が、目を閉じて思いにふけっているダンブルドアを呼んだ。
「ふむ・・・・・」
ダンブルドアはブルーの目をに向けた。しばらくの沈黙があった。
「わしはスネイプ先生からの評価もルーピン先生からの評価も、君の父上や母上の評価も聞いておる――もちろん、そのほかの人からもじゃが――そのうえで、我々は結論を出した」
何の結論か、とは思ったが、口には出さなかった。きっと魔法を自由に使うことが出来るようになったか、ということだろう。
「残り少ない夏休み、そしてホグワーツに戻ってからも君の魔法使用を許可しよう。もう君は十分な技術を身につけた」
ホッとした空気が厨房に流れた。一番嬉しそうな顔をしているのは、きっとではなくだろう。
「ダンブルドア、ということははもうスネイプとの個人授業は必要ではありませんね?」
シリウスが嬉しそうな表情を必死に抑えてダンブルドアにそう聞いた。
「まあ、そういうことになるのう」
ダンブルドアがクスクスと笑った。きっとシリウスとスネイプの仲の悪さは重々承知なのだろう。
「、しかしながら今まで習い、使いこなせるようになった魔法以外使うでないぞ。さもなければ、君は深く後悔することになる」
ダンブルドアがあまりにも真剣な顔で言うので、はただただコクコクと頷いた。
夏休みに習った魔法は、ホグワーツの六年間分に匹敵するほどの数だとルーピンは思っていた。しかし、それらすべてをもう使いこなせるは、確かにシリウスの娘なのだと実感させられるものがあった。
「それではお開きにするとしようかの」
ダンブルドアがそう言って、本会議は終わった。また、それと同時にスネイプとの個人授業の契約も切れた。
「の魔法が許可された?本当に?」
ハリーは思わず大きな声をあげた。ハリーの部屋のドアは開いていたので、きっと玄関ホールまで聞こえただろうな、とは思った。
「嘘じゃないよ、ハリー」
ハリーの驚き様にジェームズはクスクスと笑った。
「わー、すごい!おめでとう、」
「ありがとう」
はちょっと恥ずかしかったが、にこっと笑顔をみせた。
「というわけで、ハリー」
ジェームズがちょっとだけ真剣そうな顔になった。
「ホグワーツではに助けてもらうんだよ」
「どういう意味?」ハリーが聞いた。
「の方が頭良いからさ」
ジェームズがそう言うとハリーが頬を膨らませた。
「『闇の魔術に対する防衛術』は僕の方が成績優秀だよ」
「それ以外はてんでダメだろ?」
ジェームズはニヤリと笑い、ハリーは閉口してしまった。
そのとき、はハリーの部屋の前に人の気配を感じ、振り向いた。
「やあ、。敏感だね」
リーマスだった。リーマスはにこにこと笑いながらハリーの部屋に入ってきた。
「ジェームズ、よかったね。シリウスの機嫌が大分直った。明日にはクリスマスにサンタからプレゼントをもらった子供みたいにご機嫌だと思うよ」
リーマスはとジェームズの間に腰を下ろした。
「僕は別にシリウスの機嫌が悪くても構わないんだけどな――楽しいから」
「わたしは大迷惑だよ」リーマスが顔をしかめた。
「いいんじゃない?いまどき、あんなにストレートに感情を表す大人なんていないよ。なんだか見ていてすっきりする」ジェームズが楽しそうに言った。
「ルーピン先生はシリウスが不機嫌だと、何か困るんですか?」
ハリーが不思議そうに口を挟むと、リーマスは少し動揺したように答えた。
「いや、困りはしないのだが――」
「リーマスはシリウスが好きだから、なるべく明るいシリウスと一緒にいたいのさ」
リーマスはジェームズのフォローが、フォローの役目を果たしていないことに気付いていたが、わざわざ否定するのもなんだか肯定するようで気が引けた。
「でも、ジェームズもパパのことが好きなんですよね?」
「僕の『好き』っていう感情と、リーマスの『好き』っていう感情はちょっと違うかな」
の疑問にジェームズが答えた。それを聞いてハリーが何か突っ込もうと口を開きかけたが、結局そこからはなんの音も出なかった。
あっという間に残りの二日間も過ぎて、のトランクはまた荷物が詰まって、籠にはピグミーパフのシリウスが大人しく入っていた。
「、学校で何かあったらすぐにリーマスかセブルスに言うのよ」
が本当に心配そうな顔をしてに語りかけるそばで、シリウスがボソリとつぶやいた。
「スリザリンのやつなんかあてになるかよ」
それを耳聡く聞いたリリーからとても痛そうな平手打ちをもらったのは言うまでもない。
キングズ・クロス駅までの道のりは、不死鳥の騎士団のメンバーの提案で、魔法省から借りた車だった。
はハリーとシリウスに挟まれて後部座席に座った。運転手はジェームズだった。助手席に、そしてハリーの隣にはリリーが座って、魔法で引き伸ばされた座席に居心地良さそうに座っている。
「リーマスはどこに行ったの?」
がシリウスに尋ねた。するとシリウスは優しい笑顔になってに言った。
「今頃、ホグワーツで新入生の歓迎会の準備をしている。ホグワーツに行ったらすぐに会えるさ」
そして、シリウスは真面目な顔になった。
「学校ではむやみに『リーマス』と呼ばない方が良い。身内だとわかるとリーマスの体裁が悪くなる」
シリウスはの身に危険が及ぶことには触れなかった。ただでさえ、人との関わりを怖がっている彼女をこれ以上怖がらせたくなかったのだ。
日がサンサンと降り注ぐ車の中、の右手の小指にあるシルバーのリングが反射して輝いていた。
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