Fifteen Memorise
、ちょっといいか?」
シリウスは出来るだけ優しくドアを叩いた。はピグミーパフのシリウスを手に抱いてドアを開いた。
「なんでしょう?」
「いや・・・・・えっと――」
ドアを叩いたのはよかったものの、シリウスには直接落ち込んでいる理由を聞く心構えは出来ていなかった。
「変なの――入って」
は小さく笑うと、シリウスを部屋の中に招き入れた。はシリウスと向かい合って座った。
「どうしたの?」はシリウスに話し掛けた。
「その・・・・・わたしは遠回しに、おまえを傷つけないように言えないが、決してそんなつもりはない――率直に言うぞ――」
シリウスは自分の興奮を抑えて、深呼吸した。
「――最近、元気がないが、何かあったか?」
は一瞬、不安そうな、心配そうな顔を見せたが、次の瞬間にはぎこちない微笑みを浮かべてシリウスを見つめていた。
「私、元気よ」
「無理するな」シリウスが言った。
シリウスだってがそう簡単に理由を言ってくれるとは思っていなかった。が言うまで、いくらでも待つつもりだった。
一方、もたかが「自分の誕生日を知らない」だけで落ち込んでいるなんて思われたくなかった。それを言ったらせっかくの誕生日がぶち壊しになりそうな気がしたのだ。
お互い、一歩も譲らず、沈黙が続いた。父親が頑固なら、娘も頑固だった。
、ちょっと聞きたいんだけど」
そしてしばらくすると、部屋のドアがノックされて、ハリーの声が聞こえた。
「どうぞ」
はシリウスとの見つめ合いを終わらせたいがため、そう言った。
ハリーはてっきり一人かと思っていたので、シリウスがいて驚いた。
「あー、僕、入って良かった?」
「気にするな」シリウスがハリーに微笑んでみせた。
「どうしたの?」が尋ねた。
「ロンとハーマイオニーから手紙が来たんだ。誕生日、何か欲しいものあるか、って」
「欲しいものなんて・・・・・」
は困った顔をした。実際、欲しいものなんてないのだから仕方がない。
「あ、別になかったら、なかったでも大丈夫さ――ロンもハーマイオニーも、そこらへんはわかってるさ」
ハリーが慌てて付け足すと、はほっとしたような顔に変わった。
「ごめんなさい、欲しいものはないわ」
「わかった。じゃあ、二人にはそう言っておくよ」
ハリーはニッコリ笑ってみせると、「それじゃあ」と部屋を出ていった。
「おまえが元気ないのは、欲しいものがないからなのか?」
ハリーが出ていくと、シリウスが静かに口を開いた。
「違うわ」
はシリウスと目を合わせられなかった。なんだか、見透かされて、それでいて理解していないような彼に、多少なりとも腹がたった。
「私、そんなことで落ち込んだりしない」
「――落ち込んでいるのは認めるんだな?」シリウスがニヤリと笑った。
もしかしたら、もう彼はお見通しなのかもしれない。
はシリウスから、顔さえも反らしたが、すでに、シリウスはわかったような、自信に満ち溢れたいつもの顔をしていた。
「早く言ってしまえ。言わなきゃ、わたしたちはわからない」
はそれでも沈黙を守った。しかし、心のどこかではシリウスになにもかも話してしまいたい、と思っていた。
、そう意地を張らないでくれ。わたしたちはお前じゃないから、お前が何を考えているのか、わからない」
シリウスはに優しく語りかけた。の意地も、こうなったら、どこまでもつか分からない。
しばらくして、はやっと口を開いた。
「笑わない?」
シリウスは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに優しい微笑みを浮かべると「ああ」と頷いた。
「呆れない?」
「ああ」
「嫌いにならない?」
「もちろん」
シリウスは焦らず、の質問に一つ一つ答えた。いつものシリウスなら短気で、我慢出来ずに急かすが、今度ばかりはシリウスも短気にはならなかった。
「あのね――」
は大きく息を吸い込んだ。他人にはくだらなくても、にとっては重要すぎて、固い決心が必要だった。
「――私、自分の誕生日がいつだかわからないの」
シリウスは唖然とした。まさか、そんな答えが返ってくるとは。
「だって、誰も教えてくれなかったし、誰にも聞けなかった――みんな、私の誕生日のために、あんなに張り切って。水を差すようで嫌だった・・・・・」
の話を聞きながら、シリウスは内心、ホッとしていた。まだこれくらいの悩みでよかった、と安心した。
「大丈夫だ、
シリウスは立ち上がっての隣に改めて座り直すと、優しくの頭を撫でた。
「ごめんな、気付いてやれなくて」
は黙ってシリウスに頭を撫でられていた。どこか温かく、心地良い。
「お前の誕生日はあさってだ。言うのが遅れたが、あさってはお前にとって最高の日になるぞ。絶対だ、約束する――もう、そんなことを気にするな」
シリウスはに微笑みかけた。
「何かわからないことがあったらすぐに言え。誰もお前を責めたりしないし、きっと逆にわたしが怒られる――わたしがお前を落ち込ませたってね」
はそれを聞いて、「どうして?」と聞きたくなった。
「お前がみんなに愛されているからだよ」シリウスはさもおかしそうに笑った。
しかし、にはわからなかった。それでも、なんだか楽しかった。ちょっとだけ、このままシリウスの側にいてもいいかな、と思った。
「ありがとう、パパ」
はピグミーパフのシリウスを抱きしめながら、シリウスを見上げた。
シリウスは、まさか自分を「パパ」と呼んでくれる日がくるとは思っていなかったのか、驚いた顔のままを見つめ返した。
「・・・・・変だったかな?」が小さくつぶやいた。
「いいや――」シリウスはゆっくりと笑顔になった。
「――いいや。お前は、自慢の娘だよ」
二人は目が合うとニッコリ笑った。の腕の中で、ピグミーパフが寝息をたてて気持ち良さそうに寝ている。

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