「、誕生日は何が欲しい?」
にこにことを見ているに、は何もいらない、などとは言えなかった。
「アルバムが欲しい」
がおずおずとそう言うと、は満面の笑みで「わかったわ」と答えた。
つい最近、は自分の部屋にあった本や小物を整理したばかりだった。その中に何枚かアルバムに挟まっている写真があった。アルバムの最後のページを見ると、アルバムのページがもうないことに気付いた。きっと以前の自分は新しくアルバムを買って、それに貼るつもりだったのだろう。そうならば、先日行ったダイアゴン横丁というところで買えばよかったのだが、ついつい周りが珍しく、買うのを忘れていたのだ。
また、にはまだ問題があった。自分の誕生日がいつだか知らないのだ。一方、周囲は刻々と近づくの誕生日に向けて、素敵な日にしようと張り切っている。彼らに「自分の誕生日はいつですか?」なんて聞ける雰囲気ではない。
そうしての誕生日が明後日に近づいた日の夕方、シリウス、ジェームズ、ルーピンは今後のについて話し合っていた。
成人すればに魔法を使うな、と強制する権利がなくなる。確かにに魔法を使わないでくれと頼めば、心優しい彼女は使わないだろう。しかし、少しでも早く、自分の力をコントロールさせるためには夏休み中、魔法を使うことを許可させなければいけない。その反面、魔法の使い方を知ってしまうと、ちょっとしたことがきっかけで、この家を爆発させたり、家の扉を開いてしまったり、もしくは、姿くらましまで出来てしまうかもしれない。
「それでも僕は一刻も早くに魔法を使わせてあげたい――その代償として、四六時中と行動を共にすることとなってもね」
ジェームズの顔からは冗談だと見受けられなかった。
「しかし、ジェームズ・・・・・」ルーピンが渋った。
「リーマス、大丈夫さ。彼女は何度もヴォルデモートの手をくぐり抜けてきた。きっと大丈夫。彼女はあいつと何か考えて戦っているわけじゃない。彼女の中に眠る本能が彼女を動かしているんだ」
ルーピンは既に心のどこかでわかっていたのかもしれない。ジェームズが「大丈夫」だと言えば、たいていのことは「大丈夫」になるのだと。
「シリウスはどうしたいんだい?」
ジェームズはずっと黙って身動きしないシリウスを見た。
「わたしはが望むなら、成人してすぐにでも魔法を使わせてやりたい。どんなリスクがあろうとも」
三人の意志は固まったようだった。
「ところで、ジェームズ」
ルーピンが姿勢を崩し、ジェームズに気軽に話し掛けた。
「最近、が元気ないけど、また何かしたの?――もうすぐ誕生日だって言うのに」
ルーピンに微笑まれて「はい、やりました」と答える者がどこにいるだろうか。まあ、ジェームズの場合、を悲しませる行為などしないとわかりきっているが。
「僕は何も。またシリウスが何か言ったんじゃないの?」
ジェームズがシリウスに話を振ると、ルーピンの微笑みもシリウスに向いた。シリウスは必死になって首を振って、被害がこないようにした。
「じゃあどうして元気ないのさ。普通、誕生日って楽しみなものだろう?」ルーピンが首を捻った。
「ねぇ、入ってもいいかしら」
そのとき、部屋のドアを叩く男がしての声がした。
「いいよ、入っておいで」ジェームズが答えた。
ドアを開けて覗かせたの表情は、どこか暗かった。
「どうした?」シリウスが心配そうに聞いた。
「のことなの」
はシリウスの隣に腰掛けて、三人とそれぞれ目を合わせた。
「最近、ホントに思い詰めたような顔をして・・・・・何か、心当たりはないかしら?」
「僕らも今ちょうどその話をしていたところさ」ジェームズが微笑んだ。
「もしかしたら、僕らが当たり前だと思っていることが、彼女にとっては当たり前じゃないのかもしれないね――でも、それを言い出せないで、そのまま一人で詰め込んでる、とか」
「どうしてそう思うの?」
は不思議そうな顔をしてジェームズを見た。
「長年の勘がそう言ってる」
「少し、行動を起こす必要があるな――誕生日前に」
シリウスが立ち上がった。
「それなら私が――」
が言いかけると、ジェームズがやんわりとそれを制した。
「僕らに任せて、。君はのことで気を遣いすぎている。少し休みなよ。の誕生日に、そんな不安そうな表情をしていたら、はきっと悲しむから」
ジェームズの言葉に、は半ば不満げだったが、はシリウスたち三人ならを任せられるとわかっていたので、渋々彼の言うことに従った。
彼女が出ていくと、ルーピンがシリウスとジェームズに尋ねた。
「何か、勝算でも?」
「いや・・・・・当たって砕けよう!」
ジェームズの言葉にツッコミを入れたくなったのはルーピンだけではなかった。
「おまえに任せたのが間違いかもな」
シリウスが呆れたように言った。
「酷いなあ、シリウス」ジェームズが苦笑した。「でも、当たって砕けるしかないだろう?彼女は自分からは絶対に言わないよ」
「知ってるさ」シリウスが答えた。
「だから余計辛いんだろ?」
苦々しげにそう吐き出したシリウスの顔は、彼女のために何も出来ないことを辛く物語っていた。
「じゃあ、シリウス」
ルーピンは鋭い目つきでシリウスを見た。
「君は諦めるのか?何もかも、すべて――君に出来ないことが、どうして父親でないわたしたちに出来る?」
しばらくシリウスは黙ると、ゆっくりと歩き出しドアに手を伸ばした。
「のところに行ってくる」
ドアは静かに閉まり、ジェームズとルーピンを取り残した。
「さて、これが吉と出るか、凶と出るか」ジェームズが独り言のように呟いた。
「シリウスだったら、大丈夫だよ」
ルーピンがジェームズに笑いかけた。
「シリウスをやる気にさせた男がそう言うんだから」
「そうだね、リーマス」ジェームズも柔らかい笑みを浮かべてルーピンを見た。
「シリウスならきっと大丈夫だ」
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