にとってダイアゴン横丁は珍しいもので溢れていた。ほとんどの人が自分と同じ族で、おまけに自分のことを知っているのは不思議な感じだ。
「まずは銀行に行ってお金をおろさなきゃ」
リリーはテキパキとそう言うと、一行をひときわ高くそびえる真っ白な建物へと連れていった。
「あ」
は、磨き上げられたブロンズの観音開きの扉に、真紅と金色の制服を来て立っている生き物を見て、ハリーの影に隠れた。
「大丈夫だよ、」
ジェームズはクスッと笑うと、の手を引いて入口に近づいた。ハリーはチラリとジェームズに不満そうな目を向けたが、遂には諦めて、ジェームズとが仲よさ気に手を繋ぐのを許した。
一方、小鬼はたちが通り過ぎても、顔色一つ変えずに二人に向かってお辞儀しただけだった。手の指と足の先が長く、少し怖そうに見えたが、に襲い掛かる気配はまったくなかった。
「ね?怖くないよ」
しかし、はジェームズと手を繋いで顔が真っ赤だった。いくら知り合いとは言え、カッコいいジェームズと手を繋ぐのは恥ずかしかった。
「おい、ジェームズ、いい加減にしろよ」
そのとき、不機嫌そうな声が聞こえたかと思えば、ジェームズはシリウスに頭を叩かれて痛そうな顔をしていた。ジェームズは渋々の手を離すと、シリウスに言った。
「シリウス、少しは手加減しようよ」
「お前に手加減なんてしねぇよ」
シリウスはジェームズから視線を外し、傍らで二人の漫才を鑑賞していたとリーマスに近づいた。そして、二言三言話すと、今度はリーマスがジェームズに話し掛けた。
「ジェームズ、わたしとシリウスがここにいるから、リリーととハリーと一緒にお金を引き出して――」
「僕もと一緒にいるよ」
リーマスの言葉にハリーが割り込んだ。
「ハリーも留まるのかい?じゃあ僕も――痛っ!」
ジェームズが満面の笑みでに抱き着こうとすると、リリーのげんこつがジェームズの頭にヒットした。
「わかってるって、冗談だよ、リリー」
そして、ジェームズは半ばリリーに引きずられるように、小鬼が開けてくれた扉に消えて行った。
「父さんは、油断も隙もないから気をつけて」
ハリーがジェームズの消えていった扉に目を向けながらにそう言った。
「おや、ハリーは我が父親ながら厳しい意見だね」リーマスがクスクス笑った。
「そう言うルーピン先生だって、そう思ってるんでしょう?」
リーマスは肯定も否定もせずに、ただ黙って笑った。
「どうした?」
シリウスがふと、黙り込んでいるに目をやると、はちょっと困ったような視線をシリウスに向けた。
「大丈夫か?」
優しく微笑み、を気遣うシリウスからは、普段のあのジェームズやリーマスにからかわれて遊ばれる少年のような面影はなかった。
シリウスはと視線の高さを合わせると柔らかいの髪に触れた。
「疲れたか?」
シリウスは黙ったままのに問い掛けた。
今まで、学校でさえもあまり他人と関わらせないようにしてきたのに、いきなりこんな人込みに連れて来た自分をシリウスは愚かに思う。
「大丈夫です・・・・・」はか細い声でそう答えた。
「ただ、みんなは私のことを知っているのに、私は私のことを全く知らなくて・・・・・なんだか、ちょっと」
はどこか少し寂しげな笑顔でシリウスを見つめ返した。
「おまえは記憶が無くなっても、自分のことをよくわかってるさ。周りが知っているのは、お前のほんの一部だ」
「ちょっと、シリウス」
とシリウスが話していると、それをさえぎるようにジェームズが現れた。リリーとはリーマスにこれからの予定を話しているようだった。
「僕のに手を出してないだろうね?」
シリウスははあ、とため息をつくとジェームズに疲れたように言った。
「お前じゃないんだから出すわけないだろう。第一、はお前のじゃない」
ジェームズはクスッと笑うとに視線を落とした。
「笑って、。うかない顔をしている君を見ていたら、僕は悲しくなるよ」
は――自分でもどうしてそうしたのかわからないが――おずおずとジェームズにぎこちない笑顔を向けた。
「うん、それでこそ僕のだ」
「だから、君のじゃないでしょ、ジェームズ」
リーマスも三人の話に入ってきた。
「、君も良いんだよ?こんな変なおじさんに、君の素敵な笑顔を見せてやらなくても」
リーマスの言葉に、ハリーは思わず吹き出した。ジェームズが酷く傷ついた顔をしているのもおもしろい。
「大丈夫です。私、ジェームズさんのこと好きですから」
は凹むジェームズを見て、少し可哀相になったのでそう答えた。ジェームズがパッと明るい表情に戻った。
「ホラ!は僕が好きだって」
「半ば同情気味にな」
シリウスが鼻で笑った。
「ハリー、、そんな人たちに構ってないでこっちにいらっしゃい。せっかく来たのだから、たくさんお店を見て回りましょう」
はハリーの手と、の手を両手に握ると、リリーと一緒にシリウスとジェームズとリーマスを置いていってしまった。銀行のロビーに残された三人の大人たちは、その姿を少しほほえましく眺めた。
「うん、良い兆候だね」
ジェームズがと手を繋いで歩くを見て言った。
「流石、だよ。彼女なら、の記憶も戻るかもしれない」リーマスは微笑んだ。
「が生まれて一番嬉しかったのはだろうし、が事故にあって一番悲しかったのはアイツだろうしな」
シリウスは自分の妻と自分の娘を交互に眺めながら、ため息と共にそう言った。
「の愛には誰も敵わないって?」
「俺たちがどんなにに愛情を注いでも、母親には敵わないさ」
茶化すようなジェームズの言葉に、シリウスは真面目な顔をして答えた。ジェームズも、茶化した自分を少し恥じて「ああ、そうだな」とシリウスの肩をポンと叩いた。
「でも、シリウス。が誰を一番慕っているかは誰もまだ知らないよ」
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