ガタンッと音をさせて、ジェームズはいきなり立ち上がった。
「まったく・・・・・」ジェームズは窓の外を見上げた。
「君が行き詰まるなんて珍しい」
ルーピンはそっと彼の背中に呟いた。
「僕だって全能の神じゃない――行き詰まることなんてしょっちゅうだよ」
フッと笑みを漏らしたジェームズに、ルーピンは少しばかり安心した。まだ笑顔が見れるということは、そんなに深刻な状態でもないらしい。
「シリウス、君はどうするつもりだい?が十七歳になったら成人だし、魔法を自由につかえる・・・・・」
ジェームズがため息まじりにシリウスに問い掛けると、シリウスはしばらく考えこんだ後、ゆっくりと口を開いた。
「ヴォルデモートはを欲しがっている。彼女の力は無限大で、彼女はそれに気付いていない――いや、気付かせるつもりもないが――とにかく、成人しても、彼女は手元に置いておく。彼女を連れていかれるのは死を意味するから」
シリウスにとっては、記憶がなくてもは最愛の娘のままだった。ジェームズはその気持ちが痛いほど伝わってきて、酷く感動した。
そのとき、厨房へと続くドアがノックされ、ハリーが、なんだか困ったような顔のを引き連れてやってきた。
「どうしたんだい?」ルーピンが優しく問い掛けた。
「外に出かけたいんだ」ハリーが答えた。
三人の大人たちは困ったように顔を見合わすと、ジェームズがハリーに聞いた。
「僕たちが前に話した安全策について、まだ覚えてるかい?」
「もちろん」ハリーがにこやかに返事した。それを承知の上で出かけたいと言っているらしい。
「理由を聞こうじゃないか」ジェームズは優雅に足を組み、ハリーを見た。
「にダイアゴン横丁を案内したら、少しは記憶が戻りやすくなるかもしれない。毎日ここに缶詰じゃ、ストレスも溜まるよ」
「一理あるな」
シリウスはそう呟いてを見た。最近、のストレスによる爆発現象は減ったものの、あまり楽しそうにしている様子もない。ここらで気分転換してもいいかもしれない。
「でも、ハリー」
ジェームズが考え深げに言った。
「もしかして、その理論とは別に、君も外に出かけたいからっていう私情もあるんじゃないのかな?」
「どうかな」
ジェームズの言葉をハリーは軽く流すと、三人に答えを迫った。
「ねえ、どうかな?」
「明日、会議に掛けてみよう」ジェームズはにっこりと笑った。そして、始終困ったような顔をしているに優しく言った。
「、そんなに困ったような顔しないで。迷惑だなんて思ってないから」
「でも、あの――」
にとってはまだ三人とも、いや、ハリーも含めて四人とも赤の他人なのだろう。ジェームズにそう言われて、余計に責任を感じたらしい。
「大丈夫。誰も君を責めたりしない。僕はずっと――世界中が君の敵になったとしても――君の味方だ」
ジェームズの頼りになる輝いた笑顔を見て、の顔がポッと赤くなった。赤くなる反応を示すだけ、彼女も大分打ち解けたのかもしれないと、ルーピンは思った。
次の日の会議で、ジェームズは約束通りにハリーの案でもあるの外出を提案した。もちろん、ハリーの私情もあって、彼がそれを言い出したのは伏せて。
「ふむ・・・・・」ダンブルドアは考え込んでいるようだった。彼としても、を外出させたいが、彼女は今、自分の魔力もコントロール出来なければ、ヴォルデモートに襲われたとき、逃げるすべも知らない。
「外出を許すとしても、騎士団のうち、誰かが一緒でないと許すわけにはいかんの――」
「私が一緒に行きます」
「私も行くわ」
ダンブルドアの言葉にとリリーは素早く反応を示した。
「僕らも一緒に行きます」
一歩遅れて、シリウスもジェームズもルーピンも名乗り出た。
ダンブルドアは柔和な笑みを浮かべ、五人がと一緒に行くという条件と引き返えに、の外出を許した。
「――というわけさ」
がハリーの部屋で魔法薬学の勉強をしていると、シリウスたちが部屋に入ってきた。会議で外出が許されたことを嬉しそうに話してくれた。
「ありがとう、父さん。流石、の為となると目の色が変わるね」
ハリーが嫌味紛れにそう言うと、ジェームズが、「人のことを言える立場じゃないだろう」とハリーの頭を小突いた。
「あの、ありがとうございます」
はそれを横目で見ながらシリウスとルーピンに頭を下げた。
「大丈夫だよ。少しは気分転換しないとね」ルーピンは優しい笑顔をに向けた。
「ロンとハーマイオニーも呼んで、みんなで一緒に買い物しよう」ハリーはルーピンの間に割り込んだ。「きっと楽しくなるよ」
「君たちの引率は大変そうだ」ルーピンが苦笑した。
その日、ハリーはビルにロンとハーマイオニー宛ての手紙をたくし、返事を待った。返事は次の日の騎士団の会議前にビルから渡された。
ハリー、、元気かい?
こっちはみんな元気だよ。ハーマイオニーがに手紙を書きたがってた。ダイアゴン横丁の件は了解したよ。近々って言うなら、明日でも良いさ。そっちの都合がつくならね。
そうそう、ハーマイオニーからへの言付けで、ちゃんと食事してるかだって。まったく、心配性だよな。
それじゃあ、日にちが決まったらまた教えてくれ。
ロン
「父さん」
ハリーは手紙をに預けると、シリウスと冗談を交わしているジェームズに駆け寄って行った。
「、ダイアゴン横丁に出かけるんだってね」
すると、見計らったようにビルが近づいて来て話し掛けられた。
「はい」は自然な笑顔をビルに向けた。ビルはが昔のように笑うとは思っていなかったようで、一瞬固まったが、すぐに優しい笑みを浮かべ「よかったね」と言った。
「ダイアゴン横丁にはね、僕の弟たちが開いている悪戯専門店があるんだ。顔を出してくると良いよ――きっと、あいつらも君のこと心配してるから」
はビルの弟と言われて、きっと優しいのだろうと想像した。
「弟さんは騎士団のメンバーなんですか?」
「いや、だけどダンブルドアには忠実だよ――」
ビルがそこまで言うと、ハリーの彼女を呼ぶ声が乱入した。
「、明後日、ダイアゴン横丁だ!」
もしかしたらジェームズの言う通り、ハリーは自分の気分転換より、単純にダイアゴン横丁に行きたくて自分をダシに使ったのかも、と悩むだった。
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