Nine Memorise
次の日の朝、もハリーも大変だった。朝食を食べてから一番上等な服を着させられ、暴れないように説教された。はその日、初めて屋敷しもべという生き物を知った。最初に見つけたとき、思わず叫び声を上げ、ジェームズに抱きついてしまった。そのとき、シリウスは少し眉がピクリと動いたが、その屋敷しもべに説教するだけだった。
昼食も取り終ったころ、続々と騎士団のメンバーが現れた。とリリーはそのたびにに紹介したが、は誰一人として名前を覚えていなかった。それに、名前を覚えるのも一苦労だった。
そんな中、はハリーと親しげに話す男の人を見つけた。こっそりハリーの背後に近寄ったが、見事に見付かってしまった。
、どうしたんだい?」彼はにも親しげに話しかけた。
「えっと――」
「ビル、は記憶がないんだってば」
口ごもるにハリーは救いの手をさしのべた。ビルと呼ばれた人物は納得したように頷いた。
「僕の名前は覚えてる?」ビルが微笑みかけた。
「ビル・・・・・」は小さく呟いたが、ちゃんとビルには聞き取れた。
「あれ?覚えてたの?」ビルが目を丸くした。
「ううん、さっきハリーがそう呼んだから。えっと、・ブラックです」はぺこりとお辞儀をした。すると、ビルはおかしそうにクスクスと笑い始めた。
「知ってるよ、
あまりにもビルが輝いて見え、は思わず顔を赤く染めた。
そのとき、準備が整ったのか、もハリーもビルもシリウスに呼ばれた。シリウスの後についていくと、少し広めの部屋に着いた。が入ると、一斉にコソコソとした話声が広がったが、スネイプが一睨みすると、また静かになった。はハリーと共に暖炉のそばに座らされた。
「さて、皆に集まってもらったのにはわけがある――」ダンブルドアが立ち上がった。
「もうご存知の方もおるじゃろうが先日、不慮の事故でここにいる・ブラックの記憶がなくなってしまった。前にも言ったと思うが、この子はヴォルデモートに狙われている。記憶がある時期は自分の魔力を制御したり、ヴォルデモートから隠れることも出来たが、今は違う。彼女は無力じゃ。易々とヴォルデモートに拐われる」ダンブルドアはひと息ついて、テーブルを見渡した。
「わしとしてはをヴォルデモートに渡すつもりはない。じゃが、一人の力には限界がある。そこで、夏休み中、をここで保護したいのじゃが、どうかね。の両親――シリウスと――もそう希望しておる」
ダンブルドアはそう問いかけて席に座った。部屋にはヒソヒソ声が溢れ、は少し不安になった。
「ダンブルドア」一人のキンキン声の男性が聞いた。
「学校にいる間はどうなりますか?」
には魔法の使用を禁じておる。しかし、いつまでもこの状況では不味いので、新学期が始まったらここにいるホグワーツの三人の教師と個人授業をさせるつもりじゃ」
またヒソヒソ声が広がった。その中で突然聞こえたのは、ジェームズの声だった。
「反論はありません、ダンブルドア。この年になるまでずっとと過ごしてきましたが、こんな良い子は他にはいません。ヴォルデモートの手にかかるなんてもっての他だ」
「私もそう思います、ダンブルドア。ヴォルデモートに有利になるとか以前に、は大切な子です。犠牲になど出来ません」リリーだった。それに続き、ルーピンもマクゴナガルも賛成した。
「我輩に異論はない」スネイプはよく通る声でそう言った。
次々とジェームズに賛成していき、ついには全会一致での保護案が通った。
「――今日は以上じゃ。特にないなら解散じゃな」ダンブルドアはハリーとににっこり笑いかけた。
ダンブルドアの言葉を合図に、席についていた大半の大人が立ち上がって玄関に向かった。もハリーと一緒に玄関に向かった。
「バイバイ、
そうに声をかけた大人たちをは一人も知らなかったが、みな優しくに微笑みかけた。同情されている感じは全く感じなかった。
、いらっしゃい」
に連れられて、はリビングに来た。会議が終わり、残っているのはスネイプとルーピン、それに優しそうな赤毛の男の人と髪がショッキングピンクの女の人がいた。
「こんにちは、」赤毛の男の人が声をかけた。
「こんにちは」は軽く頭を下げてしみじみと彼を見たが特に変わったところはなかった。
「こちらはロンのお父さん、アーサー・ウィーズリーよ」
のために紹介した。ロンのお父さんはに微笑んだ。
「そちらはニンファドーラ・トンクス――」
、言わないで。トンクスでいいから」
トンクスと呼ばれた女の人はの言葉をさえぎった。そして笑顔でに「よろしく」と言った。二人とも、もうハリーとは知り合いのようだった。
「本当に記憶はないんだね、ビルが言っていたが」
ロンのお父さんは気の毒そうにを見た。は曖昧に笑うと、に言った。
「あのね、。記憶がなくなってもあなたは勉強しなきゃならないの。魔法は使えないけど、ここにいる間、リーマスとセブルスに勉強を見てもらって。そりゃ、六年分の内容はすごいけど、あなたは優秀だからどうにか追い付けるわ」
はコクリと頷くと、がにっこり微笑むのを見た。そのとき、はこの先を悲しませてはいけない、と思った。
「出来るだけ、頑張るから」
「ありがとう、ママ
がそう言うと、にパッと嬉しそうな笑顔が広がり、を抱き締めた。に抱き締められながら、シリウスが優しく自分たちを見ているのに気づいた。
「さて、私はに会ったことだし、もう家に戻るよ」
ロンのお父さんはの興奮が収まるとクスクスと笑いながら言った。
「ありがとう、アーサー」
シリウスが静かに言うと、微笑みながら頷き、シリウスと一緒に玄関に向かった。

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