Seven Memorise
四人が「闇の魔術に対する防衛術」のクラスに行くと、まだ誰もいなかった。
「やあ、四人とも早いね」
教室が空いていたので中に入ると、ルーピンが本から顔を上げた。
と一緒だからかい?」クスクスとルーピンが笑った。
「さっきの授業でだけ除け者だったからです。このクラスでそういうことをしないように抗議しに来たんです」ハリーが言った。
ルーピンは少し驚いたようにハリーを見たが、微笑んで言った。
「さっきの授業のことはスネイプ先生から直々に言われたよ。それに今朝何があったのかも。ハリー、ダンブルドア先生の話を聞いただろう?が暴走すればこの学園を吹っ飛ばせるんだ。今、が力を自分で制御出来ないなら、杖を持たせるわけにはいかない」
ハリーとルーピンの会話を、は少し当惑気味に見つめた。
「でも、そんなの狼人間を差別するようなものだ」
「ハリー、それは違う」ルーピンは落ち着いた声で言った。
「差別ではない。仕方がないんだ。私たちはを守りたいんだ――」
ルーピンがそこまで言ったとき、残念ながら他の生徒たちが入ってきてしまった。ハリーはそれでもルーピンと話したそうだったが、ルーピンが許さなかった。
授業が終わっても、ルーピンはハリーと接触するのを避けていた。ハリーはもやもやした気持ちのまま、寮に戻った。はそんなハリーを見て、少し胸が痛んだ。
「ハリー」
談話室でロンとハーマイオニーが宿題をやっているそばで、ハリーは塞ぎこんでいた。
「なに?」ハリーが少し顔をあげた。
「私、別に気にしてないから、魔法が使えないこと」
ハリーはジッとを見つめた。はどうしていいか分からずに、もじもじと手を動かした。
「あのルーピンまでが君に魔法を使わせないんだったら、本当に重大な訳があることくらい、わかった。その前にスネイプが君をあしらったのでもわかったけどね」ハリーがフッと笑いをもらした。
「君はみんなに愛されてるよ」
はそう言われたが、なんと言っていいかわからず、ハリーから目をそらした。

次の日、休日だったので授業はまったくなく、はルーピンに呼び出されていた。ハリーに「闇の魔術に対する防衛術」のクラスに連れていってもらうと、は一人でルーピンの部屋をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
は少しビクビクしながら、教室に入った。ルーピンはを笑顔で迎え、ドアを閉めるように合図した。
「大丈夫だよ。早かったね」ルーピンはに教卓前の席に座るように勧めた。
「休日に呼び出して悪かったね」
「いえ」
はルーピンの前に自分一人で緊張していた。
「もうすぐ人が増えるけど、そのまえに、まだ話してないことがあってね――」ルーピンは言葉をきった。「私は君の名付け親だ」
は驚いた。昨日、自分に講義していた人が自分の名付け親だなんて信じられなかった。
「えっと、あの――」の口からはそれ以上の言葉は出なかった。ちょうどそのとき、言い争いする声が聞え、ドアが乱暴に開いた。
「ねえ、シリウス、が怯えてしまうよ」
入ってきた三人うちの一人の大人にルーピンはやんわりと声をかけた。
「そういうつもりはない。ただ、このスニベリーが――」
「貴様だろう」
「シリウスもセブルスもやめてよ!」
シリウスとスネイプとだった。が前に見たときより、はいくらかやつれたように見えた。
のひとことで静かになったシリウスとスネイプだったが、にらみあいは終らなかった。
「ごめんなさい、が微笑みかけた。
「いえ・・・・・」にはそれ以外に返す言葉が思い付かなかった。
「あなたを呼んだのはね、試験についてなのよ。もしかしたら聞いたかもしれないけど、魔法を制御出来ないのにあなたに魔法を使わせるわけにはいけないの――詳しくは家でお話するけど」
「知っています。ルーピン先生が仰っていました」
の丁寧な言葉に少し悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「そう、それならいいの。試験をしない代わりに、評価はあなたの記憶があったときまでのレポートとかで成績がつくわ」
「ま、どうせ落第とか、留年の心配はない。ハリーたちと一緒に次の学年に行けるさ」シリウスがの言葉に付け足した。
は別に上がれなくても気にしないと思った。記憶がないままではどうせ魔法も使えない。魔法学校にいる意味自体なくなってしまう。
「もし、このまま私の記憶が戻らなかったらどうなりますか?」
シリウスとが密かに目配せしたのをは見逃さなかった。
「卒業しないでそのまま七年生止まりだ」スネイプが初めて口をきいた。
「ダンブルドアがいる限り、ホグワーツは安全だ」シリウスが呟いた。
「彼も手を出せない――」の目には少しの憎しみが隠れていた。
「呼び出して悪かったな・・・・・」シリウスが苦笑いした。
「いえ」
は短くそう答えると、教室のドアに手をかけた。
「失礼しました」
は四人の大人に背を向けて、教室から出ていった。

試験も学期末にある宴会も終わり、は記憶のない荷物をトランクにどんどん詰め込んでいった。あっという間に荷物はなくなり、はいつの間にかホグワーツ特急の中にいた。ハリーとロンとハーマイオニーとで一つのコンパートメントを占領していた。
「でも、流石だよ。試験も受けてないのに相変わらず成績良いんだから――魔法史も相変わらずだけど」
ロンがハリーからもらったかぼちゃパイをほうばりながら言った。
「バカ言わないで、ロン。が試験を受けていたらもっと成績は良いはずよ」ハーマイオニーが言った。
はロンとハーマイオニーの間に見え隠れする感情を察知していた。二人の会話には入らず、窓の外を眺めた。本当にこれからどうなるのか、記憶は戻るのか、大人たちが自分に話さないことはなんなのか、には考えることがたくさんあった。不思議と心の中から沸き上がるものがある。はその波に合わせて頬を濡らした。
ハリーはの仕草に気づくと、の肩に手をまわし、抱き寄せた。も抵抗することなく、ハリーの胸で波が収まるまで、満足するまで、疲れるまで、思うだけ泣いた。ハリーはただの背中を優しく撫でるだけだった。
ロンとハーマイオニーは身じろぎもしない。

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