「パパはママとどうして結婚したの?」
二人はシリウスとの寝室に移動し、シリウスが出してくれたお茶を飲みながら話していた。
「どうして、か」シリウスは懐かしむように目を細めた。
「あいつを放っておけなかったから――かな」
シリウスの表情がとても優しくて、はどれだけがかれに愛されているかわかった気がした。
「私にも現れるといいな、パパみたいに愛してくれる人」
シリウスはにっこり笑うとそうだな、と言った。
「そういえば、ベラトリックス・レストレンジがいたの」
「さっき聞いた」
彼女の名前が出ると、途端にシリウスが不機嫌になった。
「さっきの人ベラトリックスに似てた」が言った。
「あいつと誰が似てるって?」
シリウスが怒ったように聞いた。
「ニンファドーラ・トンクス」が答えた。
「ああ、彼女はわたしの従姉のアンドロメダ・トンクスの娘だからな。似てて当然だ。ベラトリックス・レストレンジ、アンドロメダ・トンクス、ナルシッサ・マルフォイは三姉妹だ。最もドロメダはマグル出身のテッドと結婚してブラック家の家系図からは消されたがな」
「ドラコ・マルフォイはあんましトンクスとは似てないわね」
はしみじみと彼の顔を思い浮かべたが、トンクスとは似ても似付かない。
「彼はルシウス・マルフォイの方に似たのかもな」
シリウスも一緒に悩み、そう答えた。
「わたしからも聞いていいか?」
シリウスが改まった様子でに向き直った。
は頷くと、シリウスの言葉を待った。
「一つ目は、その後、トム・リドルの夢は見なくなったか?」
はしばらく考えた後、そういえば見なくなったと思った。
「ヴォルデモートの復活を見たあとからは一度も見てない」
「そうか。それじゃあ二つ目。嫌なことを思い出させて悪いが、セドリック・ディゴリーとは付き合っていたのか?」
は胃に石が詰まったような感覚になり、一瞬声がでなかった。
「セドリックとは、付き合ってない。付き合ってたのは別の人よ」
「嫌なことを思い出させてすまない」
シリウスがの頭に手をおいた。
「それじゃあ三つ目――」
「まだあるの?」
「これで最後だ」シリウスが言った。
「ハリーのことをどう思ってる?」
は新手の嫌がらせか何かかと思った。シリウスはさっきの質問といい、何が聞きたいのか。
「どうだ?」
「なにがどうだ、だよ。をあまりいじめるとに言い付けるよ」
シリウスの言葉に合わせるように、部屋のドアが開き、リーマスが入ってきた。
「よ、リーマス」
シリウスが何事もないように手をあげた。
「会議は終わったのか?」
「取り合えずね。ダンブルドアもお忙しい身だし」
リーマスは部屋に入ると、手近なソファーに腰掛けた。
「それで、今の状況は把握したんだけど、一つ、、君に確認したいことがある」
「何?」が言った。
「襲われたとき、魔法を使ったかい?」
ええ、とが頷いた。その答えを聞き、リーマスは深刻な顔をした。
「なにが問題なんだ?未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令で17歳未満の未成年者が、学校以外で魔法を使うことを禁じているが、同7条にて、生命を脅かされる場合など、例外的な状況に限り魔法の使用が容認されているぞ」
シリウスがリーマスに対して捲し立てた。
「それは私も知っている。そういう問題ではないんだ、シリウス。本来、が魔法を使っていたとしたら、その状況が使わざるべき状況だったのか調べなければならない。だが、そのような通達が出ていない。キングズリーたちが不審に思い、魔法不適正使用取締局に出向き調べてくれた」
それで、とシリウスも自分が思った事態と違うようで、リーマスの話を深刻に聞いていた。
「ないんだ。の名前が未成年者の欄に」
「ないだって?」シリウスが大きな声を出した。
しかし、にはいまいち事の深刻さがわからず、自分が未成年者と認識されていないということは、すでに自由に魔法が使えて良いことだと思った。
「誰かが故意に?」シリウスが聞いた。
「先ほどの会議ではそういう意見だった。計画的に行われた襲撃だったと思う。誰にも知られず、いずれは公知になるだろうが、事故死に見られるようにするためだと」
リーマスの言っていることがよくわからず、はきょとんとした顔で二人の大人を見た。
「もしもお前が未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令に違反していないか調べられる立場だったとしたら、死喰い人たちが襲ってきたという状況を魔法省が調べることになる」シリウスが説明した。
「でも、魔法省はヴォルデモートの復活を信じていないからわからないんじゃない?」
はそもそも、とシリウスに反論した。
「そうかもしれない。だけど、不安要素はもともと少ない方がいい。状況把握されるよりか、君の名前を未成年者一覧から消去する方がはるかに安全で、後々解りにくい」
リーマスは授業を行うように一つずつに分かりやすく説明した。
「君の名前を未成年者一覧から消去したことは、今回のようにわざわざ君の名があるかないか調べなければ発覚しない。そもそも、君が魔法を使っていないなら私たちも調べることはなかったしね」
「どうして私が魔法を使ったと知ったの?ママはまだ起きてないんでしょう?」
の素朴な疑問に一瞬、リーマスは困った顔をしたが、ゆっくり息を吐くと答えてくれた。
「騎士団はヴォルデモート側にスパイを送っているから、情報がいくらか手に入るんだ」
セブルス・スネイプのことを言っているのは予想がついたが、黙って頷いた。
「君の名が消されていたために、もし、君とが音信不通だった場合、私たちが探しに出るとしても今日の夜ごろまでは動かなかっただろう。ヴォルデモート側はその間、君たちを事故死に見せかけて殺すことも可能だった。それに聞くところによると、、君を人質に我々を呼び出す算段をベラトリックスがしていたそうじゃないか」
その話もきっとスネイプから聞いたのだろう、とは予想した。
「あのやろう」シリウスが唸った。
「何にせよ、無事でよかったよ、」
いつの間にかドアのところにはジェームズが立っていて、こちらを見ていた。
「ジェームズ。みんなは?」リーマスが聞いた。
「ああ、帰ったよ。リーマス、君もそろそろ行った方がいい」
ジェームズにそう言われ、リーマスは立ち上がった。
「もう行っちゃうの?」
は久しぶりにリーマスに会えたのに、と悲しくなった。もう少しそばにいてほしい。
「またそのうち帰ってくるよ、そんな寂しそうな顔をしないで、。わたしまで悲しくなってしまう」
リーマスはの頭を撫でた。
「気を付けてね、リーマス。早く帰ってきてね」
そう言うをリーマスは優しく抱き締めた。その姿を見ながらジェームズは、どこの新婚だと笑いを堪えていた。
「それじゃあ、あとはよろしく」
ジェームズの脇をすり抜け、リーマスは出ていった。
「それで、リリーはどうした」
シリウスが姿の見えない彼女を疑問に思い、聞いた。
「リリーはのとこに向かったよ」
「私もママに会いに行きたい!」
言うと思った、とばかりにシリウスがため息をついた。
「お前は殺されかけたんだぞ」
「パパと一緒なら、パパが守ってくれる!」
が言い返すと、今度はジェームズが困った顔をしてに言った。
「、シリウスは世の中ではお尋ね者だから、外出すると君が殺されるよりも早くシリウスの方がアズカバン行きだよ」
「じゃあジェームズと一緒に行く!」
「駄々をこねるな、」
シリウスがたしなめた。
「はどちらにせよ意識が戻ってないんだから、お前とは話せないよ」
は頬を膨らませ、シリウスを睨んだ。しかし、そんなことをしてもシリウスに効き目がないのはも分かりきっていた。
「さあ、、機嫌を直して。少し遅いけどお昼にしよう」
ジェームズがニッコリ笑って、をベッドから立たせ、部屋から連れ出した。