それからちょうど5日後の夕方には帰ってきた。帰ってきたとき、リーマスは任務で不在だったが、ジェームズとリリーは家にいて、の荷物の片付けを手伝っていた。
「、あなたに言わなければならないことがあるの」
は帰ってきて早々、にそう言った。
も何となくの様子がいつもと違うことに気づいていたので、その話かなと察していた。
荷物の整理はポッター夫妻に任せ、はとの寝室へ向かった。
中ではシリウスがベッドに腰掛け、二人を待っていた。
「、おいで」
シリウスに手招きされ、はシリウスの隣に座った。
「久しぶりだな。こうやって三人揃ってゆっくり話すのも」
「そうね」
はの隣に座りながら微笑んだ。
「話って?」が待ちきれず聞いた。
は少し悲しそうな顔をして、そしての方を向いた。
「私ね、。どうやらベラトリックス・レストレンジにかけられた呪いの所為で利き腕が上手く動かなくなってしまったの」
え、とは目を見開いてを見返した。
「私のせい?」
いいえ、とがを見つめ返した。
「私が油断していた所為よ」
シリウスが後ろからを抱き寄せ、自分の膝の上に乗せた。
「悪いのはすべてあいつらだ。お前は悪くなんかない。あいつらは気にくわない奴らだ。この先もあいつらが――」
「シリウス」
が軽くシリウスを睨むと、シリウスはつい言い過ぎたと感じたらしく素直に謝った。
「、心配そうな顔をしないで。私にはシリウスもいるし、あなたもいる、リリーもリーマスもいる。それだけで充分だわ」
ジェームズの名前が出てこなかったが、それがわざとなのか、それとも偶然なのか、には分からなかった。
「だから、あなたにも私のことを助けて貰わなきゃね」がイタズラっぽく笑った。
「私は何をしたらいい?」
は身を乗り出した。
「シリウスとも、ダンブルドアとも相談したんだけど、あなたには家事を手伝ってもらうわ――特別に魔法を使ってね」
「ホント?」
今度こそ、はシリウスの膝から落ちそうなくらい身を乗り出した。
「魔法を使っていいの?」
「家の中で家事をするときだけね」
はを見て、それからシリウスを見上げた。
「やった!魔法が使えるんだ!」
はシリウスの膝の上で跳ねて喜んだ。
「家事をするときだけよ」
が少し怖い顔をして言い聞かせたが、の耳には届いていないようだ。
「まったく」は苦笑した。
「任せてママ!私、頑張るから!」
「頼んだわよ、」
母子のやり取りを微笑ましく眺め、シリウスは幸せを噛み締めた。
「よし、そうと決まれば今日の夜はが頑張らなきゃな」
シリウスはを膝から下ろすと、そう言った。
「うん!でもパパも手伝うのよ」
はシリウスの手を引っ張り、寝室を出ていった。
「上手くいったみたいだね」
たちと入れ違いにジェームズが入ってきた。
「一体、どこから聞いてたのよ、ジェームズ」
が呆れ顔で言った。
「やったあ、魔法が使えるんだ、からかな」
「あなたがの真似をしても可愛くないわ」
にズバッと言われ、ジェームズは傷ついた顔をしたが、が気にする様子もなく、流された。
「まあ、上手くいったかはわからないけど、が自分を責めずにいてくれたのはよかったわ」
だろ、とジェームズは鼻高々だ。
「子供は魔法を使いたくて仕方ないものさ!そしてダンブルドアにそれを提案したのもわたしだ」
「わかった、認める。あなたのアイディアのお陰よ、ジェームズ」
ありがとう、とが言った。得意気に話していたジェームズも、の感謝に満足そうに笑った。
その夜はが帰ってきたこともあり、笑顔が絶えなかった。がみているかぎり、も腕を痛めた割には日常生活には支障がないようで、楽しそうに食事していた。
「え、ロンたちが来るの?」
その数日後、シリウスから話があると切り出され、は暖炉前でお茶を飲んでいたところだ。
「ああ。も日常的には問題ないが、やはり問題が出てくるときもある。それに、お前も一人で家のなかにいるのはつまらないだろうし、騎士団の本拠地になっているから、一緒に住めばウィーズリー家がこちらに来るのも楽になると思ってな」
は瞬く間に笑顔になると、嬉々として言った。
「ロンたちはいつ来るの?ウィーズリー家が来るってことはハリーとハーマイオニーも来るのよね?」
あー、とシリウスが渋い顔をした。は不審に思い、眉をひそめた。
「どうしたの?」
「喜んでいるところ悪いが、ハリーは来ない。まだリリーの姉のペチュニアのところにいる」
なんで、とが尋ねても騎士団に関することなのか、シリウスは教えてくれなかった。
「ハリーだけ除け者にしたら、ハリーはきっと怒るよ」
「そうだろうな」シリウスが答えた。
「私だってハリーがいないと寂しいし」
「わかってる」シリウスがため息をついた。
「自分だったら、他の人はみんな一緒にいるのに自分だけ一人だったら嫌だわ」
「、何と言おうがこれは決まったことだから、ハリーはこの家にはまだ帰ってこれないんだ!」
シリウスの忍耐力は相変わらずなく、すぐにのチクチクとした嫌がらせに閉口した。
「何でそう決まったの!」
しかし、も諦めの悪さは父親譲りで、食って掛かった。
「だから――」
シリウスが青筋をたてに怒ろうとした瞬間、それを遮るように厨房からリリーが現れた。
「何を言い争っているの。あっちまであなたたちの声が聞こえたわ」
「げ」
シリウスが不味いものが見つかったように顔をしかめた。
「シリウス、ハリーがまだペチュニアの家にいることについてに言ったら、ああいう反応が返ってくるのは予想がつくでしょう?何を一緒になって言い争ってるのよ」
リリーがシリウスを叱ると、シリウスは膨れっ面をした。
「あなたがそんな顔をしても可愛くないわ」
「リリーが可愛いって思うのは僕の顔だもんね」
またややこしいのが現れた、とはこっそりため息をついた。
ジェームズがシリウスを押し退け、リリーの前に自分の顔を出したが、リリーはその顔を思いっきり引っ叩いた。
「火に油注いでどうすんだよ」シリウスが呆れていった。
「元はと言えばパパがハリーだけ除者にするからいけないんでしょ」
、とリリーがポンとの頭に手を置いた。
「私たちもハリーと早く会いたいわ。だけど、状況がそれを許さないの」
ハリーの母親でもあるリリーからそう言われるとは大人しくなった。
「ヴォルデモートが復活したから?」
「まあそうなるかな」ジェームズが言った。
「不死鳥の騎士団としても、彼の父親としても、ハリーを守らなければならないからね」
「それならなおさらうちで一緒にいた方がいいじゃない」
が反論するとジェームズは首を振った。
「君が思っている以上に複雑なんだ、。いずれわかるよ」
もうこの話は終わり、とばかりにリリーは厨房に帰り、ジェームズも二階へあがって行った。シリウスは肩をすくめ、に言った。
「とにかく、ウィーズリー家は明後日来るから準備しておきなさい。ジニーとハーマイオニーはお前の部屋で寝泊まりになるから」
わかった、とは頷き、部屋の片づけをするため、立ち上がった。