Escape from Dream 夢逃避
次の日、セドリックがチョウと別れたという噂は女子生徒たちの間で持ちきりだった。そして夕食時、パーバティがその噂の信頼性を確認してきたため、グリフィンドール内の女子生徒たちはセドリックに注目し始めていた。そんな彼女たちをはた目に、はハーマイオニーと一緒にテーブルの端で食べていた。
「良い機会じゃない。あなたが彼のことを考え直す」
突然、チラチラと回りの女の子たちを気にしているに、ハーマイオニーが言った。
「別に、私――」
「でも私にはあなたとセドリックは良い雰囲気に見えたわ。少なくとも、兄妹の雰囲気ではなかった」
が言葉をさえぎり、ハーマイオニーは先回りした。
「それにセドリックだってあの新聞記事がなかったらあなたをデートに誘ったんじゃないかしら」
ハーマイオニーに言われ、は黙った。ルーピンにも、ハリーにもロンにもああ言ったものの、兄としか認識していないわりには未だに彼を目で追っているのは確かだった。
「でも私――」
「やめなさいよ、
ハーマイオニーがきっぱりと言った。
「あなただって口では兄妹だとか言いながら、まだ未練があるみたいじゃない――セドリックの大切な人がチョウだと分かってもね」
はスプーンをテーブルに置くと、ごちそうさまと一言言った。
「もう少し、彼を待ってみたら?チョウと別れたのが確かなんだから、あなたにだってまだチャンスがあるはずよ」
ハーマイオニーはちょっと言い過ぎたと思ったのか、いくらか柔らかい口調でそう言った。しかし、はそれには返事をせず、黙って立ち上がった。
「先に談話室に戻るね」
自分とすれ違う女の子たちから聞こえてくる話はすべてセドリック絡みの話題のようだった。は半ば走りながら、談話室に駆け込んだ。
しかし、談話室でもセドリックの噂で、は耐えきれず寝室に上がった。ハーマイオニーには悪いが、早目に寝ることにした。
はベッドに潜り込み、夏休みと、そしてルーピンとの会話を思い出してみた。一体、どこからなにが間違ったのかわからない。普通の女の子のように、普通の恋をして、普通の彼氏を作って、普通のデートがしたかった。そんなうちに、いつの間にか眠ってしまった。

「やあ」
目を開けると、目に入ったのは見たくもない顔だった。
「嫌そうな顔だね」
リドルが冷たく笑っていた。
「あなたなんか――」
「おっと。僕を怒らせていいのかい?」
がリドルに噛み付こうとすると、リドルは目を細めてそう言った。はダンブルドアの話を思い出した。
「そう。賢い選択だよ」
はリドルに勝てない自分に腹がたち、思いきりリドルをにらみつけた。
「君に話があったんだよ」
突然リドルが優しい声になってに言った。
「セドリックのこと、君はどうするつもりだい?」
「どうしてそれを――」
が驚いて隙を見せた途端、リドルは手を伸ばし、の頬に触れた。
「僕が何も知らないと思ったのかい?」
リドルの手は氷のように冷たかった。
「僕は君と共にいる――君が僕を憎んでいようが、君は僕から逃れられない――君のことは、君の中から見ているよ。そう、つまり君の考えはお見通しだ・・・・・」
リドルはの頬から手を離すと、彼女を見下ろした。
「君は光の中にいるべきではない。、君は僕と同じ人間だ」
は黙って、ただリドルをにらみつけた。
「君が強がるのを見ているのも楽しいが、それじゃあなかなか話が進まないんだ」
そう言ってリドルはローブから杖を取り出すとに向けた。
「近々、君は間違いなく僕と再会する日がくる――つまり、ヴォルデモート卿にね。そうすれば、もう君に逃げ場はない。僕と一緒にくることになる」
リドルの目が赤く光っている。は鳥肌がたった。
「――私、行かないわ」
は自分の声が震えているのがわかった。
「君の意思は関係ない」
リドルが冷たく言った。
「誰も止めることは出来ない――アルバス・ダンブルドアもだ!
リドルの高笑いと共に、は気が遠くなり、目が覚めた。窓から月明かりが差し込んでいる。まだ朝ではないらしいが、は寝る気になれなかった。

「おはよう、
翌朝、隣のベッドからハーマイオニーが起き出しそう言った。しかし、何かを察したハーマイオニーは心配そうな顔になってベッドに腰かけているの顔を覗き込んだ。
「顔色が悪いわ。どうしたの?」
はハーマイオニーに言うべきか迷ったが、口を開いた。
「――リドルの夢を見たの。先に朝食に行ってて。後から行くから」
ハーマイオニーが息を呑み、そして小声で言った。
「ダンブルドアに言うの?」
「――ええ・・・・・」
ハーマイオニーはそれだけ聞くと、黙って着替え始め、談話室に降りて行った。
はパーバティとラベンダーに何か言われる前にカーテンを締め、またベッドに潜り込んだ。そしてがさがさ音がし、ラベンダーたちが起きる気配がした。数分後にはもう寝室に以外いなかった。
は本当に自分以外誰もいないことを確かめるとフォークスを呼んだ。ダンブルドアの言う通り、その名を口にするとフォークスはの前に現れた。
「またリドルの悪夢を見たの・・・・・手紙を書くわ。側にいてくれる?」
が話しかけると、フォークスは言葉が通じているのか、の手の甲にその頭を乗せた。
「ありがとう」
は羊皮紙とペンを取り出し、リドルとの会話を、セドリックの話以外すべて綴った。その間、フォークスはずっとの傍らでが書き上げる手紙を見つめていた。
「私、リドルに関わられたくない・・・・・知られたくないわ」
フォークスはその目に優しさを宿すと、を見上げた。まるで大丈夫だと、心配することはないと言っているようだった。そしてフォークスが一声鳴くと、不思議と心の底が暖かくなった。
「フォークス・・・・・ありがとう」
はフォークスにそっと触れた。とても暖かくて、安心できるものだった。
は書き終わった手紙をフォークスに託し、その姿を見送った。
ふと時計を見ると、すでに授業が始まっている時間だった。はしばらく悩んだ後、一時間だけサボることにした。
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ゆっくりセドリックのことを考える余裕もありません;;