「へー・・・・・」
「随分、気のない返事だね」
ハリーが苦笑いした。
は久しぶりにハリーと二人でのんびりとしていた。今日は休日なので、授業もない。雪が積もる外には、寒さのためか、二人以外誰も見当たらなかった。二人はコートとマフラーをはおり、手袋をしながらが作り出した持ち運び可能な炎に当たっていた。
ハーマイオニーは第二の課題で、クラムの失いたくないものがハーマイオニーだったことを、みんながからかうのでそれを避けるため、どこかで時間を潰しているはずだ。ロンの方といえば、ハーマイオニーとは違い、湖の底で何が起こったのか――大分誇張して――自慢げに話している最中だろう。
はその合間を使い、ハリーに本当は何が起こったのか聞いているところだった。先日の課題が行われた湖は穏やかで、日も出ていて、珍しく穏やかな日和だった。
「じゃあなに?もし、ドビーがマクゴナガルとムーディの話を耳にしなければ、もし、鰓昆布が手に入らなければ、課題は受けられなかったってこと?」
は、自分をちょっと笑ったハリーを咎めるようにそう言った。
「でも、上手くいったんだ。ひとまずは安心だろ?」
そうだけど、とはどこか腑に落ちない表情だ。
「それともセドリックとクラムの『一番失いたくないもの』を気にしてるのか?」
の曖昧な言葉を妙な方向に考えたハリーが、少しぶっきらぼうにそう言った。
「別に気にしてないわ。クラムを振ったのは私自身だし、セドリックは私の恋愛対象じゃないみたいだし――本当よ。マルフォイだって軽くあしらえたわ」
それどういう意味、とハリーが不愉快そうに聞いてきたので、はこの間の出来事を話して聞かせた。
「相変わらず嫌なヤツだ」
「ほっとけばいいのよ」
が言った。
「――じゃあ、僕が人質を全員助けようとしたことか?」
じゃあ、といきなり言われ、何を言い出すかと思えばさっきの話だった。はクスッと笑い、少しひねくれた横顔を見ながら、彼の頭をもっとくしゃくしゃにした。
「私、あなたがとてもかっこよく見えたわよ。冷たい水の中に女の子――それもまだ学校にも通っていないような子供――を残して置けずに一緒に連れて帰ってきたあなたを見て、やっぱりジェームズとリリーの息子だと思ったわ――ジェームズもきっとあなたと同じことをしたんじゃないかしら」
ハリーは自分の頭にあったの右手を握ると、彼女をじっと見つめた。
「本当は自分でもバカだと思ったんだ。あの歌を真に受けるなんて――」
「あなたはバカじゃないわ」
はハリーの手を包み込むように、自分の左手を彼の手に添えた。
「ただ私は、あまり動きがないからどうしたんだろうって不安なだけよ」
かすかにの目に不安げな色が浮かんだ。
「『動き』って?」
ハリーが不思議そうに聞き返した。
「だってあまりにも上手く行き過ぎていると思わない?私たち、まだ四年生なのよ。それなのにうまい具合に課題が片付いていくなんて・・・・・誰かがあなたを狙ってる――」
「君もだ」
ハリーが口をはさんだ。
「そうかもしれないけど、私はまだあなたより安全な立場だわ。危険な課題もこなさなくて済むもの――だから私が言いたいのはいつになったら黒幕が姿を表すのかってこと。嵐の前の静けさって感じだわ」
そう言うとは身震いしてみせた。
「誰かに踊らされているような、そんな気持ちなの――不安なのよ」
はそう言ってハリーの手を離すと立ち上がった。ハリーものあまりにも不安そうな様子に、軽々と大丈夫だとは言えないようだった。
「――もう戻ろうか?」
しばらくして、ハリーが立ち上がったを見上げて言った。
「うん」
は少し笑ってみせると、そう言った。
「ごめんなさい。せっかく第二の課題が終わったばかりだと言うのに。これでもあなたが無事に帰ってこれて良かったと思ってるのよ」
「わかってるよ」
ハリーは立ち上がって、を見た。ふとその笑顔に安心感を覚え、は自分の顔が赤くなるのを感じた――ジェームズにそっくりだ。
「どうしたの?風邪ひいた?」
異変に気付いたハリーが顔を覗き込むので、はますます慌てた。
「大丈夫ッ――」
は、ハリーがいつの間にか自分より背が高くなっていたばかりか、この間のリータ・スキーターの言い争いの一件で、確実に頼もしくなっていたのを頭の片隅で思い出していた。自分を心配そうに気遣ってくれるところもジェームズにそっくりだった。
「ならいいけどね」
ハリーはあんまり信用していないようだった。
「それならもう城に戻ろう。ロンたちが戻ってるかもしれない」
はハリーと一緒に雪の上を歩き出した。いつの間にか日が少し傾いている。
玄関ホールから城に入ると、中が暖かくてほっと一息つけた。
「ちょっと無謀だったかもね。この寒さで外で長話するのは・・・・・」
「そうね。指先が冷たくなってる」
は手袋をとると、仄かに赤くなった指先を擦り合わせた。
「グリフィンドール塔に戻ろう」
ハリーはそう言って歩き出した。その後ろをが歩き始めた。ホールを進み、階段を上がっている途中、ハッフルパフの女子生徒二人を追い越した。後ろからペチャクチャ喋る声が聞こえた。その中で確かに「セドリック」という単語を聞いた。しかし、は対して気に留めず、ハリーの後を追った。
談話室に続くドアの前まで行くとハリーが合言葉を言って、扉を開けてくれた。は先にドアをくぐり抜け、談話室に入った。後ろからハリーが入ってくるのがわかった。冷えた体を暖めようと暖炉の前に座ると右隣にハリーが座り、左隣に何故か笑顔のパーバティとラベンダーが座った。
「、ねえ、どうするの?」
どこかわくわくしたような表情でパーバティが言った。
「何を?」が聞き返した。
「もう!知ってるでしょ。セドリックがチョウ・チャンと別れたって話よ!」
それを聞いて、はとっさになんと言ったらいいかわからなくなった。
「――初耳よ」
「本当?」
パーバティとラベンダーはクスクス笑い、信じていない様子だ。
「でも良かったじゃない。私、応援してるわ」
ラベンダーがにっこりと笑って言った。そしてパーバティもそれに倣い、頑張って、と談話室から出ていった。
さあ、セドリックはどうしたんでしょうか。