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Ship diving into water 水潜船
「第二の課題が水潜船ですって?」
「、『水潜船』じゃなくて『潜水艦』。それに、課題は一時間、水の中で大切なものを探せばいいんだ。方法として、『潜水艦』に変身できたらなって言っただけだよ」
呪文学」の授業中、ハリーとロン、、ハーマイオニーは、教室の一番後ろに四人だけで机一つを占領していた。今日は「呼び寄せ呪文」の反対呪文――「追い払い呪文」――を練習することになっていた。いろいろな物体が教室を飛び回ると、始末の悪い事故にならないともかぎらないので、フリットウィック先生は生徒一人にクッション一山を与えて練習させた。理論的には、たとえ目標を逸れても、クッションならだれも怪我をしないはずだった。理論は立派だったが、実際はそううまくはいかない。ネビルは桁違いの的外れで、そんなつもりでなくとも、クッションより重いものを教室の向こうまで飛ばしてしまった―――たとえばフリットウィック先生だ。
「とにかく、今話したいのはそのことじゃない」
ロン、、ハーマイオニーは、ハリーから昨日の出来事を聞いているところだった。昨晩、ハリーは卵の謎にやっと迫ることができたらしい。
「でも、風呂場でマートルに会うなんて、ほんと奇遇よね」
セドリックに教えてもらった監督生用の浴室の合言葉を使い、浴室で卵と一緒に風呂に入ったまでは良かったものの、浴室でマートルに会い、今度またトイレに来るよう、誘われたようだった。
「」
不機嫌そうな声でジロリとハリーに見られ、は口をつぐんだ。
「それで、帰るときになって『忍びの地図』を見ると、スネイプの部屋に『バーテミウス・クラウチ』があったんだ。それに気を取られて――」
「フィルチとスネイプをたたき起こして、問題がややこしくなりそうだったところをムーディに助けてもらった――さっきも同じところをしゃべったわ」ハーマイオニーが言った。
私語をするには、このクラスはいい隠れ蓑だった。みんなおもしろがって、四人のことなど気にも留めないからだ。ここ半時間ほど、昨晩のハリーの冒険談を聞いているところだった。
「が口を挟むからだ」
ハリーがまたも不機嫌そうにを見た。
「ごめんってば」
口先だけの謝罪だったが、ハリーはそれでを許す気になったらしく、話を続けた。
「ムーディは『忍びの地図』にすごい興味を示したみたいで、僕に地図を貸してくれって言ったんだ。本当は嫌だったんだけど、助けてくれたし、どこで手に入れたのかも聞かないでくれたから、少しの間だけ貸すことにしたんだ」
ちょうどそのとき、ネビルの「追い払い呪文」でフリットウィック先生が、諦め顔で四人のそばをヒューッと飛び去り、大きなキャビネットの上に着地した。
「でも、なんで『忍びの地図』に興味をもったのかしら」
ハーマイオニーが飛んできたクッションを避けながら呟いた。ハーマイオニーが避けたクッションはロンを直撃した。
「あんな珍しい地図が二個も三個もあるわけないだろ?珍しいからに決まってるじゃないか。それより、スネイプは、ムーディも研究室を捜索したって言ったのかい?」
ロンが腹いせに飛んできたクッションを「追い払い」し、
たまたま
パーバティの帽子を吹っ飛ばした。
「どうなんだろう・・・・・ムーディは、カルカロフだけじゃなく、スネイプも監視するためにここにいるのかな?」
「ダンブルドアがそれを頼んだかどうかはわからない。だけど、ムーディは絶対そうしてるな」
ハリーが、上の空で杖を振ったので、クッションができ損ないの宙返りをして机から落ちた。
「ムーディが言ったけど、ダンブルドアがスネイプをここにおいてるのは、やり直すチャンスを与えるためだとかなんだとか・・・・・」
「なんだって?」
ロンが目を丸くした。ロンの次のクッションが回転しながら高々と飛び上がり、シャンデリアにぶつかって跳ね返し、フリットウィック先生の机にドサリと落ちた。
「ハリー・・・・・もしかしたら、ムーディはスネイプが君の名前を『炎のゴブレット』に入れたと思ってるんだろう!」
「でもねえ、ロン」
ハーマイオニーがそうじゃないでしょうと首を振りながら言った。
「前にもスネイプがハリーを殺そうとしてるって、思ったことがあったけど、あのとき、スネイプはハリーの命を救おうとしてたのよ。憶えてる?」
ハーマイオニーはクッションを「追い払い」した。クッションは教室を横切って飛び、決められた目的地の箱にスポット着地した。
「ムーディが何を言おうが私は気にしないわ」
ハーマイオニーがしゃべり続けた。
「ダンブルドアはバカじゃないもの。ハグリッドやルーピン先生を信用なさったのも正しかった。あの人たちを雇おうとはしない人は山ほどいるけど。だから、ダンブルドアはスネイプについてもまちがってないはずだわ。たとえスネイプが少し――」
「――悪でも」
ロンがすぐに言葉を引き取った。
「だけどさあ、ハーマイオニー、それならどうして『闇の魔法使い捕獲人』たちが、そろってあいつの研究室を捜索するんだい?」
「クラウチさんはどうして仮病なんか使うのかしら?」
ハーマイオニーはロンの言葉を無視した。
「ちょっと変よね。クリスマス・ダンスパーティには来られないのに、来たいと思えば、真夜中にここに来られるなんて、おかしくない?」
「君はクラウチが嫌いなんだろう?しもべ妖精のウィンキーのことで」
クッションを窓のほうに吹っ飛ばしながら、ロンが言った。
「
あなたこそ、
スネイプに難癖つけたいんじゃない」
クッションをきっちり箱の中へと飛ばしながら、ハーマイオニーが言った。
「やめてよ、二人とも。大体、スネイプが本当にハリーにとって危険だったら、ジェームズやリリーが黙っているはずないわ。私の悪夢の件だけでさえ、家へつれて帰りそうだったのに」
は自分のそばで山積みになっているクッションを半分ほど、一気に箱へと飛ばした。
「それに、クラウチの方だって、本当に偶々かもしれないじゃない」
「僕はただ、スネイプがやり直すチャンスをもらう前に、何をやったのか知りたいだけだよ」
ハリーが厳しい口調で言った。ハリーのクッションは、真っ直ぐ教室を横切り、のクッションの上に見事に着地した。
ホグワーツで何か変わったことがあればすべて知りたいというシリウスの言葉に従い、四人はその夜、茶モリフクロウにシリウス宛の手紙を持たせた。クラウチがスネイプの研究室に忍び込んだことや、ムーディとスネイプの会話のことを記した。それからハリーは自分にとって緊急な課題に真剣に取り組んだ。二月二十四日に、一時間、どうやって水の中で生き延びるかだ。
ロンはまた「呼び寄せ呪文」を使うというアイデアが気に入っていた――ハーマイオニーがアクアラングの説明をすると、ロンは、一番近くのマグルの町から、一式呼び寄せればいいのにと言ったが、がその計画を叩き潰した。一時間の制限時間内でハリーがアクアラングの使い方を習得することはありえないし、たとえそんなことができたにしても、「国際魔法秘密綱領」に触れて失格になるに違いない。アクアラング一式がホグワーツ目指して田舎の空をブンブン飛ぶのを、マグルがだれも気づかないだろうと思うのは虫が良すぎる。
「もちろん、理想的な答えは、あなたが潜水艦か何かに変身することでしょうけど――」
「『水潜船』?」
「ヒトを変身させるところまで習ってたらよかったのに!だけど、それは六年生までまたないといけないし。生半可に知らないことをやったら、とんでもないことになりかねないし・・・・・」
の呟きを頭から無視して、ハーマイオニーが言った。
「うん、僕も、頭から潜望鏡をはやしたままウロウロするのはうれしくないしね」
ハリーが言った。
「ムーディの目の前でだれかを襲ったら、ムーディが、僕を変身させてくれるかもしれないけど・・・・・」
「でも、何に変身したいか選ばせてくれるわけじゃないでしょ」
ハーマイオニーが真顔で言った。
「ダメよ。やっぱり一番可能性があるのは、なんかの呪文だわね」
そして四人は、もう一生図書館を見たくないほどうんざりした気分になりながら、またしても埃っぽい本の山に埋もれて、酸素なしでも人が生き残れる呪文はないかと探した。ハリーも、ロンも、も、ハーマイオニーも昼食時、夜、週末全部を通して探しまくったが――ハリーはマクゴナガル先生に願い出て、禁書の棚を利用する許可までもらったし、怒りっぽい、ハゲタカに司書のマダム・ピンズにさえ助けを求めたにもかかわらず――ハリーが水中で一時間生き延びて、それを後々の語り種にすることができるような手段はまったく見つからなかった。
あと二日に迫ったとき、シリウスに送った茶モリフクロウが戻ってきた。羊皮紙をもぎ取り、広げると、これまでのシリウスからの手紙の中で一番短い手紙だった。
返信ふくろう便で、次のホグズミード行きの日を知らせよ
「来週の週末よ」
ハリーの後ろからメモ書きを読んでいたハーマイオニーが囁いた。
「ほら――私の羽根ペン使って、このふくろうですぐ返事を出しなさいよ」
ハリーはシリウスの手紙の裏に日付を走り書きし、また茶モリフクロウの脚にそれを結びつけ、フクロウが再び飛び立つのを見送った。
「次のホグズミード行きのこと、シリウスはどうして知りたいのかな?」ロンが言った。
「さあ」
ハリーはノロノロと答えた。
「行きましょ・・・・・『魔法生物飼育学』に」
は課題が迫るにつれて、暗くなるハリーが気の毒だった。自分で望んだわけではないのに、と思うと同時に、どんな罠が仕掛けられているのか不安になった。
ハグリッドが「尻尾爆発スクリュート」の埋め合わせをするつもりなのか、スクリュートが二匹しか残っていないせいなのか、それともグラブリー‐プランク先生のやることくらい自分にもできると証明したかったのか、わからなかった。しかし、ハグリッドは仕事に復帰してからずっと、一角獣の授業を続けていた。ハグリッドが、怪物についてと同じくらい一角獣にも詳しいことがわかった。ただ、ハグリッドが一角獣に毒牙がないのは残念だ、思っていることは確かだった。
今日は、いったいどうやったのか、ハグリッドは一角獣の赤ちゃんを二頭捕らえていた。成獣と違い、純粋な金色だ。パーバティとラベンダーは、二頭を見てうれしさのあまりぼーっと恍惚状態になり、パンジー・パーキンソンでさえ、どんなに気に入ったか、感情を隠しきれないでいた。
「大人より見つけやすいぞ」ハグリッドがみんなに教えた。
「二歳ぐれえになると、銀色になるんだ。そんでもって、四歳ぐれえで角が生えるな。すっかり大人になって、七歳ぐれえになるまでは、真っ白にはならねえ。赤ん坊のときは、少しばっかり人懐っこいな・・・・・男の子でもあんまりいやがらねえ・・・・・ほい、ちょっくら近くに来いや。撫でたければ撫でてええぞ・・・・・この砂糖の塊を少しやるとええ・・・・・」
はハーマイオニーと一緒に一角獣の赤ちゃんに近づいた。しかし、それと同時に何か、頭を過ぎるものがあって、いつの間にか立ち止まっていた。
「どうしたの?」
ハーマイオニーが心配そうに聞いた。
「ううん、なんでも――」
ふとはルーピンの驚いた顔が浮かんできた。それと同時に彼の口から「凄いね」という言葉が出てきた。
「一角獣の赤ちゃんだったんだ」
「え?」
は思わず、自分の杖に触れていた。
「大丈夫?」
ハーマイオニーが本当に心配そうな顔をしてを覗き込んだ。
「え、うん。大丈夫よ。むしろすっきりした」
自分の守護霊が何だかわかって、という言葉は自分の内に秘めておいた。
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守護霊は一角獣の赤ちゃんです。