A substitute teacher 代用教師
そうこうするうちに、新学期の第一日目が始り、四人は授業に出かけた。校庭はまだ深々と雪に覆われ、温室の窓はびっしりと結露して、「薬草学」の授業中、外が見えなかった。こんな天気に「魔法生物飼育学」の授業を受けるのは、だれも気が進まなかった。しかし、ロンの言う通り、スクリュートのお陰でみんな十分に暖かくなれるかもしれない。スクリュートに追いかけられるとか、激烈な爆発でハグリッドの小屋が火事になるとか。
ハグリッドの小屋に辿り着いてみると、白髪を短く刈り込み、顎が突き出たろう魔女が、戸口に立っていた
「さあ、お急ぎ。鐘はもう五分前に鳴ってるよ」
雪道でなかなか先に進まない生徒たちに、魔女が大声で呼びかけた。
「あなたはだれですか?」ロンが魔女を見つめた。
「ハグリッドはどこ?」
「わたしゃ、グラブリー‐プランク先生」魔女は元気よく答えた。
「『魔法生物飼育学』の代用教師だよ」
「ハグリッドはどこですか?」ハリーも大声で同じことを聞いた。
「あの人は気分が悪くてね」魔女はそれしか言わなかった。
低い不愉快な笑い声がの耳に入ってきた。振り返ると、ドラコ・マルフォイとスリザリン生が到着していた。どの顔も上機嫌で、グラブリー - プランク先生を見てもだれも驚いていない。
「こっちへおいで」
グラブリー‐プランク先生は、ボーバトンの巨大な馬たちが震えている囲い地に沿って、ズンズン歩いていった。ハリー、ロン、、ハーマイオニーは、魔女について歩きながら、ハグリッドの小屋を振り返った。カーテンが全部閉まっている。ハグリッドは病気で、たった一人であそこにいるのだろうか?
「ハグリッドはどこが悪いのですか?」
ハリーは急いでグラブリー‐プランク先生に追いつき、聞いた。
「気にしなくていいよ」
余計なお世話だとでも言いたげな声だった。
「でも気になります」ハリーの声に熱がこもった。
「いったいどうしたのですか?」
グラブリー‐プランク先生は聞こえないふりをした。ボーバトンの馬が寒さに身を寄せ合って立っている囲い地を過ぎ、禁じられた森の端に立つ一本の木のところへ、先生はみんなを連れてきた。その木には、大きな美しい一角獣がつながれていた。
「おぉぉぉぉぉー!」
一角獣を見ると、大勢の女子学生が思わず声を上げた。
「まあ、なんてきれいなんでしょう!」
ラベンダー・ブラウンが囁くように言った。
「あの先生、どうやって手に入れたのかしら?捕まえるのはとっても難しいはずよ!」
一角獣の輝くような白さに、周りの雪さえも灰色に見えるほどだった。一角獣は金色の蹄で神経質に地を掻き、角のある頭をのけぞらせていた。
「男の子は下がって!」
グラブリー‐プランク先生は腕をサッと伸ばし、ハリーの胸のあたりでがっしり行く手を遮り、大声で言った。
「一角獣は女性の感触のほうがいいんだよ。女の子は前へ。気をつけて近づくように。さあ、ゆっくりと・・・・・」
先生も女子学生もゆっくりと一角獣に近づき、男の子は囲い地の柵のそばに立って眺めていた。
「ねえ、ハグリッドは本当に病気かしら?スリザリン生徒たちの笑いが気になるんだけど」
はこっそりとハーマイオニーに問いかけたが、ハーマイオニーはまったく聞いていなかった。グラブリー‐プランク先生の方を真剣に見つめ、その説明を一言も漏らすまいと耳を傾けていた。は仕方なく、自分も彼女の話を聞くことにした。その一方で、目の端はマルフォイがハリーとロンに何かを見せびらかしている光景が目に入っていた。出来るだけ不自然に思われないように身体を動かし、彼らを観察した。どうやら、マルフォイがまた何かを仕組んだらしかった。
「そこの生徒、ちゃんと聞いてるの?」
グラブリー‐プランク先生の声が、男子学生のほうに飛んでいった。ハリーたち三人の行動が目立ってきた所為だろうとは思った。ハリーもロンもマルフォイに掴みかかりそうな様子だ。
「さあ、ではそっと近づいて触ってみてください」
グラブリー‐プランク先生がそう言ったので、女の子たちは、みんな一角獣の周りに集まって、撫で始めた。も一角獣についての説明は興味がなかったが、実際の体験となれば、話は別である。その美しい毛にそっと触れると暖かい温もりを感じた。
「あの女の先生にずっといてほしいわ!」
授業が終わり、昼食を取りにみんなで城に向かう途中、パーバティ・パチルが言った。
「『魔法生物飼育学』はこんな感じだろうって、私が思っていたのに近いわ・・・・・一角獣のようなちゃんとした生物で、怪物なんかじゃなくって・・・・・」
「ハグリッドはどうなるの?」
城への石段をのぼりながら、ハリーが怒った。
「どうなるかですって?」パーバティが声を荒らげた。
「森番に変わりないでしょう?」
ダンスパーティ以来、パーバティはハリーにいやに冷淡だった。には、ハリーがパーバティをほったらかしにしたのだと読んでいた。パーティの終わりごろ、大広間に戻ったときに彼と一緒にいたのは、パーバティではなく、ロンだったのを覚えている。
「放っておきなさいよ。女の子としてのプライドがあるから、怒っているだけよ。あなたが一緒にいたくなかったのに、彼女といる必要なんてないんだから」
はパーバティがハリーに背を向けるのを見て、彼に囁いた。それに、彼女自身もハリーと一緒にいなくて正解だと思っているはずだ。この次のホグズミードは、ダンスパーティのときに声をかけてきたボーバトンの男の子と一緒だと吹聴しているのをつい最近聞いていた。
「とってもいい授業だったわ」
大広間に入るとき、ハーマイオニーが言った。
「でも、ハグリッドが心配だわ」
がそう言うと、彼女はちょっと意外そうにこちらを見た。
「だって、一角獣について、私、グラブリー‐プランク先生の教えてくださったことの半分も知らなかったし、貴重な体験だったと――」
「これ、見て!」
二人の間に割り込み、唸るようにそう言うと、ハリーは「日刊予言者新聞」を二人の鼻先に突きつけた。新聞記事の冒頭に、いかにも胡散臭そうに見えるハグリッドの写真が載っていた。

ダンブルドアの「巨大な」過ち

 本誌の特派員、リータ・スキーターは「ホグワーツの魔法魔術学校の変人校長、アルバス・ダンブルドアは、常に、教職員に、あえて問題のある人選をしてきた」との記事を寄せた。
 本年九月、校長は、「マッド‐アイ」と呼ばれる、呪い好きで、悪名高い元「闇祓い」の、アラスター・ムーディを、「闇の魔術に対する防衛術」の教師として迎えた。この人選は、魔法省の多くの役人の眉をひそめさせた。ムーディは身近で急に動くものがあれば、だれかれ見境なく攻撃する習性があるからだ。そのマッド‐アイ・ムーディでさえ、ダンブルドアが「魔法生物飼育学」の教師に任命した半ヒトに比べれば、まだ責任感のあるやさしい人に見える。
 三年生のときホグワーツを対抗処分になったと自ら認めるルビウス・ハグリッドは、それ以来、ダンブルドアが確保してくれた森番としての職を教授してきた。ところが、昨年、ハグリッドは、校長に対する不可思議な影響力を行使し、あまたの適任候補を尻目に、「魔法生物飼育学」の教師という座まで射止めてしまった。
 危険を感じさせるまでに巨大で、獰猛な顔つきのハグリッドは、新たに手にした権力を利用し、恐ろしい生物を次々と繰り出して、自分が担当する生徒を脅している。ダンブルドアの見て見ぬふりをよいことに、ハグリッドは、多くの生徒が「怖いのなんのって」と認めるところの授業で、何人かの生徒を負傷させている。
 「僕はヒッポグリフに襲われましたし、友達のビンセント・クラッブは、レタス食い虫にひどく噛まれました」四年生のドラコ・マルフォイはそう言う。「僕たちはみんな、ハグリッドをとても嫌っています。でも怖くて何も言えないのです」とも語った。
 しかし、ハグリッドは威嚇作戦の手を緩める気はさらさらない。先月、「日刊予言者新聞」の記者の取材に答えて、ハグリッドは「尻尾爆発スクリュート」と自ら命名した、マンティコアと火蟹と掛け合わせた危険極まりない生物を飼育していると認めた。魔法生物の新種を作り出すことは、周知のとおり「魔法生物規制管理部」が常日頃厳しく監視している行為だ。どうやらハグリッドは、そんな些細な規則など自分にはかかわりなしと考えているらしい。
「俺はただちょいと楽しんでいるだけだ」ハグリッドはそう言って、慌てて話題を変えた。
 「日刊予言者新聞」は、さらに、極めつきの、ある事実をつかんでいる。ハグリッドは、純血の魔法使い――そのふりをしてきたが――ではなかった。しかも、純粋のヒトですらない。母親は、本誌のみがつかんだところによれば、なんと女巨人のフリドウルファで、その所在は、いま現在不明である。
 血に飢えた凶暴な巨人たちは、前世紀に仲間内の戦争で互いに殺し合い、絶滅寸前となった。生き残ったほんの一握りの巨人たちは、「名前を言ってはいけないあの人」に組し、恐怖支配時代に起きたマグル大量殺戮事件の中でも最悪の事件にかかわっている。
 「名前を言ってはいけないあの人」に仕えた巨人の多くは、暗黒の勢力と対決した「闇祓い」たちに殺されたが、フリドウルファはその中にはいなかった。海外の山岳地帯にいまなお残る、巨人の集落に逃れたとも考えられる。「魔法生物飼育学」の授業での奇行が何かを語っているとすれば、フリドウルファの息子は、母親の凶暴な性質を受け継いでいると言える。
 運命の悪戯か、ハグリッドは、「例のあの人」を失墜させ、自分の母親を含む「例のあの人」の支持者を日陰の身に追いやった、あの男とのことの親交を深めてきたとの評判である。恐らく、ハリー・ポッターは巨大な友人に関する、不愉快な真実を知らないのだろう―――しかし、アルバスダンブルドアは、ハリー・ポッター、ならびにそのほかの生徒たちに、半巨人と交わることの危険性について警告する義務があることは明白だ。

記事を読みながらは抑え切れそうにない怒りが湧き上がってくるのを感じた。自分を扱き下ろすのに飽きたら、次のターゲットをすり替え、ハグリッドを攻撃するなんて。
「あのスキーターっていやな女、なんでわかったのかしら?ハグリッドがあの女に話したと思う?」
「思わない」
ハリーは先に立ってグリフィンドールのテーブルのほうにどんどん進み、怒りに任せてドサッと腰を下ろした。
「僕たちにだって一度も話さなかったろ?さんざん僕の悪口を聞きたかったのに、ハグリッドが言わなかったから、腹を立てて、ハグリッドに仕返しするつもりで嗅ぎ回っていたんだろうな」
「それと、私を扱き下ろすのに飽きたのよ」が口を挟んだ。
「でも、本当にどうやって嗅ぎつけたのかしら。ダンスパーティーで、ハグリッドがマダム・マクシームに話しているのを聞いたかもしれないわね」
ハーマイオニーが静かに言った。
「それだったら、僕たちがあの庭でスキーターを見てるはずだよ!」ロンが言った。
「とにかく、スキーターは、もう学校には入れないことになってるはずだ。ハグリッドが言ってた。ダンブルドアが禁止したって・・・・・」
「スキーターは『透明マント』を持ってるのかもしれない」
ハリーはチキン・キャセロールを鍋から自分の皿に取り分けながら、怒りに震えていた。
「あの女のやりそうなことだ。草むらに隠れて盗み聞きするなんて」
「あなたやロンがやったと同じように?」ハーマイオニーが言った。
「僕たちは盗み聞きしようと思ったわけじゃない!」ロンが憤慨した。
「ほかにどうしようもなかっただけだ!バカだよ、まったく。だれが聞いてるかわからないのに、自分の母親が巨人だって話すなんて!」
「ハグリッドに会いに行かなくちゃ!」ハリーが言った。
「今夜、『占い学』のあとだ。戻って来てほしいって、ハグリッドに言うんだ・・・・・。君たちもハグリッドに戻ってきてほしいって、そう思うだろう?
は頷いたが、ハーマイオニーの返事はあやふやで、ハリーがキッとなってハーマイオニーを見た。
「私――そりゃ、はじめてきちんとした『魔法生物飼育学』らしい授業を受けて、新鮮に感じたことは確かだわ――でも、ハグリッドに戻ってほしいと思ってるわよ!」
ハリーの激しい怒りの視線にたじろぎ、ハーマイオニーは慌てて最後の言葉をつけ加えた。
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変換が少ない・・・・・かな?