シリウスの手紙を受け取ってすぐ、はルーピンに守護霊を送った。すると、翌日の早朝、クリスマスプレゼントの上にルーピンの守護霊が大人しく浮かんでいた。どうやら、今日、ルーピンが来るようだ。しかし、はいつルーピンと会えるのか、わからなかった。
は一人、みんなより早く起きてしまい、することもなく、ルーピンの守護霊は主人のもとに早急に帰ってしまったので、プレゼントをさっさと開けることにした。プレゼントの山の一番上はジェームズとリリーからだった。今日着るドレスに合いそうなネックレスとピアスだった。
が次々にプレゼントを開けていると、そのうちにハーマイオニーたちも目を覚まし、一緒になってプレゼントを開けた。
そして、はハーマイオニーと一緒に、ハリーとロンを談話室で待って、それから朝食を食べに行った。そこでは三人にルーピンの守護霊が届き、ルーピンが今日来る事を伝えたが、ロンの「彼と何時に会うのか」という質問には答えられなかった。午前中は、グリフィンドール塔でほとんどを過ごした。塔では誰もがクリスマスを楽しんでいた。その後、大広間に戻り、豪華な昼食。
午後は三人で校庭に出た。まっさらな雪だ。ダームストラングやボーバトンの生徒たちが城に生き帰りする道だけが深い溝になっていた。
フレッド、ジョージとも途中で会い、ハリーとロンは雪合戦を始めたが、もハーマイオニーも見ているだけにした。今夜のパーティのためでもあったが、はそれよりルーピンとの約束が気になっていた。一体、いつになったら会えるのだろう。
すると、城の方から、マクゴナガル先生が何やら急いでこちらに向かってきた。
「・ブラック!」
マクゴナガルの厳格な顔つきと、有無を言わせぬオーラに、は何か悪いことでもしたか、と身構えた。
「いらっしゃい。あなたに会いたいという方がお待ちです」
マクゴナガルにそう言われ、はピンときた。やっとルーピンと会えるのだ。
は納得顔のハリーたちに別れを告げ――もっとも、事情がわからないフレッドとジョージはに会いたいという人が気になっていたようだが――マクゴナガルと一緒に変身術の教室に向かった。中に入ると、ルーピンは一人ではなかった。ダンブルドアと黒い犬と一緒にいた。
「――それではリーマス、ゆっくりしていきなされ」
が到着したのを見て、ダンブルドアはそう言った。そして、マクゴナガルを引き連れて、部屋を後にした。そのとき、小さく「カチャリ」と音がしたのをは聞き逃さなかった。
「いいよ、シリウス。元に戻って」
ルーピンが涼しい顔でそう言うと、黒い犬がいたところに、少し痩せた長身の男が現れた。
「パパ!」
は黒犬が人間の姿になったとたん、彼に勢いよく抱き着いた。彼もそれを力強く受け止め、を抱きしめた。
「パパもリーマスも、また痩せたんじゃない?」
は思う存分抱き着いた後、シリウスとルーピンを見て言った。
「お前たちが心配かけるからだ――ハリーたちはどうした?」
シリウスはキョロキョロと辺りを見回すと、に問い掛けた。すると、が答える前にルーピンがシリウスに答えた。
「だから言ったじゃないか。今日はしか来ないって。がわざわざ守護霊で教えてくれたんだよ。まさか、シリウス。わたしの話を聞いて――」
「冗談だって、リーマス」
ルーピンの妙に優しい笑顔に、シリウスは慌ててそう言った。しかし、はシリウスが本当にルーピンの話を聞いていたのか、あまり自信が持てなかった。
「それより、なんでパパはここに来たの?手紙にはリーマスしか来ないって書いてあったのに」
「それはね、」
ルーピンが微笑みを浮かべ、を優しく見つめた。
「君が一人でわたしに会うのを聞いて、それならシリウスも一緒にどうかと思ったんだ。シリウスにいろいろ話したいことがあるのでは、と思ってね。ダンブルドアに頼み込んだんだ」
それに、とルーピンは声を小さくして続けた。
「夢の話をダンブルドアから聞いたからかな」
ギクッとは身を強張らせたが、ルーピンは気付かないふりをした。
「。何か、わたしたちに言いたいことがあれば言った方が良い。夢の話でも、新聞記事の話でも、なんでも良い」
それでもがしばらく黙ったままだったので、ルーピンはもどかしそうに言った。
「わたしたちは、君が音をあげて、君から何か言ってくると思っていた――例えば、帰りたい、とかね――でも、君はずっと黙ったままだった。どうして、君は黙ったままでいようとするんだい?わたしたちが――」
「みんなに黙っていたのは」
ルーピンの話をさえぎり、とうとうは口を開いた。
「何を話せばいいのか、わからなかったからよ。確かに新聞記事が出たとき、私は家に帰りたいと思った。だけど、私の中の何かがそれを押し止めたのよ。そもそも、家に帰っても何の解決にもならないじゃない。それに、夢を見たとき、私はどうしていいかわからなかったわ。だけど今は違う。私がリドルをどうにかしなければいけないの」
が一気にそう言って二人を見ると、シリウスもルーピンも驚いた顔でこちらを見つめていた。
「いつの間に、そんなに成長したんだ、」
シリウスはの頬に触れた手を背中まで滑らし、そっと彼女を抱き寄せた。
「いつの間に、そんなに気高い女性になった?」
シリウスはの耳元でそう囁いた。
「パパ・・・・・」
は何と言って良いのかわからず、じっと成るがままだった。
「、確かに新聞記事も夢の話もお前自身の問題かもしれない。だけど、お前の問題はわたしたちの問題でもある――わたしたちは、お前が一人で抱えきれなくなった時、お前を助けるためにいるんだ」
「・・・・・うん」
はシリウスの心配そうな、でも愛のこもった音色を聞きながら、小さく頷いた。
「しかし、お前にも言いたくないことがあるだろう。だから、全てを話すようにとは言わない――夢の話はダンブルドアに話せばいい――だけど、言いたいことがあったら話してほしいんだ。力になりたい」
しかし、父親にそう言われてもは彼らに話したいことが見つからなかった。ついさっきまで話したいことがあったように思われたが、それは気のせいだったのかもしれない。
「――ごめんさない」
は一言つぶやいた。シリウスは困った顔をしたに笑いかけると、別に良い、と優しく言った。
「でも、パパたちと話したくないわけじゃないの。ただ、いろんなことが有りすぎて、何を話したいのかとか、全然わからなくて」
必死にそう言うをルーピンはほほえましく思った。これこそ、自分の知っているだった。人を傷つけないようにと、一生懸命にみんなを気遣い、それ故、自身が傷みを受ける。
「わたしたちのことは気にするな。お前が良いならそれで良い」
シリウスはの頭をぽんぽんと叩いた。
「パパ、でもこれだけは言って良い?」
は眩しいくらいの笑顔をシリウスに向けた。
「パパとリーマスの顔見たら、なんか安心した。私、前より元気になれたよ」
フッとシリウスは笑みをもらすと、それはよかった、と言った。
「私に会いに来てくれてありがとう」
しばらくは笑顔で二人の顔を見つめていたが、ふとルーピンが思い出したように言った。
「そういえば、。パーティの準備は良いのかい?女の子は仕度に時間がかかるだろう?」
はルーピンにそう言われ、クリスマスパーティのことを思い出した。
「私、もう行かなきゃ――忘れてたわ、パーティのこと!」
ルーピンはさもおかしそうに笑い、を急かした。
「さあ、それなら早く行きなさい。楽しんでおいで」
「――ちょっと待て」
しかし、がその場から二歩と動かないうちに、シリウスが難しい顔をして、を引き止めた。
「どうしたの?パパ」
が不思議な顔をして彼を見ると、シリウスはじっとを見て言った。
「パートナーはどうした?誰かいるのか?」
父親にそう聞かれ、は何故だか少し赤くなった。
「いるわよ。いなかったら、パーティなんて行かないわ。ハリーと違って代表選手じゃないんだもの」
「ハリーか?」
シリウスはどうやらパートナーのことしか頭にないようで、にそう聞いた。
「パートナー?違うわ」
はますます赤くなった。その反面、シリウスの眉間にしわがよった。
「だれだ?ディゴリーってやつか?それとも、ダームストラングのなんとかってやつか?」
クィディッチ選手のことなら自分より詳しいシリウスがわざわざクラムの名前を避けるなんて、とがしみじみ思っている一方で、シリウスが真剣な面持ちでずっとの返事を待っていた。
「どちらとも違うわ。確かに、誘われはしたけど、いろいろあって返事が言えなかったの。私、だから――」
「いいか、。わたしはお前に偉そうに言えるほど、男女関係に関して良くはなかった。だが、これだけは言わせてもらうぞ。いいか、まともなやつと付き合え。付き合うんだったらな。お前の付き合いに口出しはしないつもりだが、あまりにも酷いなら――」
「、もう行っていいよ、本当に」
ルーピンがシリウスを押しのけてそう言った。
口を出さないと言っている割には、しっかりと口出ししているではないか、とは父親に突っ込もうとしたが、話がややこしくなりそうなので、黙ってその場をルーピンに任せることにした。
「そう?ありがとう、リーマス」はにこっとルーピンに笑いかけた。
「それじゃあ、私、本当にもう行くわ。パパ、リーマス、会いにきてくれて嬉しかったわ!ありがとう」
は再度そう言って、すっきりした様子で部屋から出て行った。シリウスもの男関係にあれこれ言うより、笑顔で娘を送り出すことにしたらしく、いつものように優しい笑顔で彼女を見送っていた。
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