ダンブルドアと話が終わったのはすでに朝食も終わり、最初の授業が始まっていた時間だった。しかし、は初めの授業である魔法史の授業には向かわず、寮に向かった。ダンブルドアに話したことで、精神的に少し安心し、眠くなったのだ。ダンブルドアはが午前中、休養をとることを許してくれたので問題はない。ただ一つ、気掛かりなのは、ハーマイオニーが自分のことを周りのみんなになんて言ったかだ。
寮の寝室は誰もいない、そう思ってゆっくり寝られることを期待していたにとって、目の前の光景は予想外だった。
「ド、ドビー!」
「ドビーでございます、・ブラック様!」
コウモリのような長い耳をして、テニスボールくらいの目がギョロリと飛び出した小さな生き物――屋敷しもべが何人も寝室にいて、ベッドメイキングや、掃き掃除や、窓拭きをしていた。
そんな中、ドビーはを見ると頭を下げた。他の屋敷しもべもに気付いたのか、次々と頭を下げていった。
「こんなところで何をしているの?」
「お掃除でございます、・ブラック様!」
にドビーは元気よく答えた。声の調子から言って、ドビーは相当元気なようだ。
そんな間にも、屋敷しもべたちはせっせと寝室を綺麗にしていき、あっという間に掃除は終わった。
「それでは、・ブラック様!ドビーめは別の部屋のお仕事がおありになるので、そちらに行きます!」
あまり話せないうちにドビーは他の屋敷しもべと共に寝室を出て行ってしまった。
「ま、いっか」
は大してドビーたちのことを気にする様子もなくベッドに潜り込んだ。夜、流れ出た自分の血の跡は影も形もなく消えている。
数時間が過ぎ、が目を覚ますと外の日は高く、お昼頃だというのがわかった。悪夢も見なかったので、の頭はすっきりして、次の変身術の授業についていけそうだった。しかし、その前に昼食だ。は、まだ昼食が残っているように、と願いながら大広間に向かった。その途中、は運の良いことにハリー、ロン、ハーマイオニーに会うことが出来た。
「!」
ハーマイオニーが感激の余り、目に涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
「ああ、本当によかった!」
ギュッときつくに抱き着き、ハーマイオニーは喜んだ。
「大袈裟よ、ハーマイオニー」
はハーマイオニーらしい歓迎ぶりにクスクスと笑った。
「――それで、パーバディたちには上手く言ってくれた?」
「えぇ」
が小声で聞くと、ハーマイオニーもひそひそと答えた。
「夢のことを話したのはハリーとロンだけよ」
がそれを聞き、ハリーとロンを見ると、二人とも心配そうな顔をしていた。
「ダンブルドアのところに行ったの?」ハリーが聞いた。
「ええ。ハーマイオニーに説得されて」と。
「出血したって聞いたけど?」ロンは不安げだ。
「したわ。でも治してもらったの」
がロンにそう答えると、ちょうどそのときスリザリンの一団が四人の横を通り過ぎながらに向かって言った。
「あら、見て!バカなブラックよ!ベッドから落ちて、出血多量ですって!」
キッとがそちらをにらむと、スリザリンの一団は余計、の怒りを買いながら大広間に向かっていった。
「ごめんなさい、。でもそう言うしかなかったの。朝、目が覚めたラベンダーに、血だらけのあなたのシーツを見られてしまったの――だから、あなたがベッドから落ちたって、でっちあげたのよ」
ハーマイオニーがすまなそうにに言った。別にとしては、夢の話が外部に漏れなかっただけで満足なので、ハーマイオニーににっこり笑って感謝した。
「それじゃあ、昼飯食べに行こう。僕、お腹ペコペコだ」
「私もよ」
お腹をさするロンに賛同し、すかさずが言った。
三人とも食事のときも、教室に移動するときも、夢の話を尋ねようとしなかった。まるで、夢のことには興味がないのかと思えるほどだった。しかし、三人の我慢も夕食後までは続かなかったようで、そわそわとに注目していた。それは、が自ら話を切り出すまで続いた。
「もう。聞きたいなら、聞きたいって言ってよ」
が少し怒ったように言うと、ロンが素直に聞きたいと返事した。がそれに満足し、周りの目が自分たちに注目していないのを確認すると、ダンブルドアに話したように、また、ダンブルドアが話してくれた話を三人にすべて語った。
しばらくしてが話し終わると、三人はダンブルドアと同じように沈黙していた。
「やっぱり、リドルの日記は危険だったんだ」
ロンがショックを受けて悲痛な声をあげた。
「別に危険じゃないわ。確かに、悪さをしたけど、私の悪夢の原因は日記じゃないわ。私の内の問題よ」
「でも、きっかけはリドルの日記じゃない」
ハーマイオニーがに言い返すと、はこれ以上言い返せなかった。
「――わかった、認める。確かにリドルの日記は危険だわ」
がそう言うと、ハーマイオニーが満足そうに笑った。そして、再び真剣な顔付きになると、に問い掛けた。
「それで、ダンブルドアはあなたが夢を見なくなるにはどうしたらいいって?」
「何も言ってなかったわ。ただ、もう一度見たら、フォークスを呼べと」
すると、ハリーが不満げに口を挟んだ。
「じゃあ、またが怪我をすることがあるってこと?」
「ううん、それは大丈夫。リドルを怒らせないようにするわよ」
がそう言ってなだめても、ハリーはまだ不満そうだった。
「でも、絶対に怒らせないとは限らないだろ――」
「でも、絶対出来ないとも限らないわ」
がハリーに言い返し、ハリーは返す言葉が見つからなかったようで、黙ってを見た。
「とにかく、夢については私がどうにかするしかないの。だから、無駄な心配はしないで。私なら大丈夫よ」
が暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばすように明るくそう言うと、納得したのか、諦めたのか、ハリーがゆっくりと小さく頷いた。
四年生には休暇中にやるべき宿題がどっさり出されたが、学期が終わったときは勉強する気になれず、クリスマスまでの一週間、みんなと一緒に思いっきり遊んだ。
城にも、校庭にも、深々と雪が降っていた。ハグリッドの小屋は、砂糖にくるまれた生姜パンのようで、その隣のボーバトンの薄青い馬車は、粉砂糖のかかった、巨大な冷えたかぼちゃのように見えた。ダームストラングの船窓は氷で曇り、帆やロープは真っ白に霜で覆われていた。厨房のしもべ妖精たちは、いつにもまして大奮闘し、こってりした体の温まるシチューやピリッとしたプディングを次々と出した。フラー・デラクールだけが文句を言った。
「オグワーツのたべもーのは、重すぎまーす」
ある晩、大広間を出るとき、フラーが不機嫌そうにブツブツ言うのが聞こえた。
「わたし、パーティローブが着られなくなりまーす」
「あぁぁら、それは悲劇ですこと」
フラーが玄関ホールのほうに出ていくのを見ながら、ハーマイオニーがピシャリと言った。
「あの子、まったく、何様だと思ってるのかしら」
「んー、王女様かな」
のその言葉を聞くと、ハリーはニヤリと笑った。
「ハーマイオニー――君、だれと一緒にパーティに行くんだい?」ロンが聞いた。
ハーマイオニーがまったく予期していないときに聞けば、驚いた拍子に答えるのではないかと、ロンは何度も出し抜けにこの質問をしていた。しかし、ハーマイオニーはただしかめっ面をしてこう答えた。
「教えないわ。どうせあなた、私をからかうだけだもの」
「冗談だろう、ウィーズリー?」
背後でマルフォイの声がした。
「だれかが、あんなモノをダンスパーティに誘った?出っ歯の『穢れた血』を?」
ハリーもロンもも、さっと振り返った。ところがハーマイオニーは、マルフォイの背後のだれかに向かって手を振り、大声で言った。
「こんばんは、ムーディ先生!」
マルフォイは真っ青になって後ろに飛び退き、キョロキョロとムーディの姿を探した。しかし、ムーディはまだ、教職員テーブルでシチューを食べているところだった。
「小さなイタチがピックピクだわね、マルフォイ?」
ハーマイオニーが痛烈に言い放ち、ハリー、ロン、シチューと一緒に、思いっきり笑いながら大理石の階段を上がった。
「ハーマイオニー」
ロンが横目でハーマイオニーを見ながら、急に顔をしかめた。
「君の歯・・・・・」
「歯がどうかした?」ハーマイオニーが聞き返した。
「うーん、なんだか違うぞ・・・・・たったいま気がついたけど・・・・・」
「もちろん、違うわ――マルフォイのやつがくれた牙を、私がそのままぶら下げているとでも思ったの?」
「ううん、そうじゃなくて、あいつが君に呪いをかける前の歯となんだか違う・・・・・つまり・・・・・まっすぐになって、そして――そして、普通の大きさだ」
ハーマイオニーは突然悪戯っぽくニッコリした。
「そう・・・・・マダム・ポンフリーのところに歯を縮めてもらいにいったとき、ポンフリー先生が鏡を持って、元の長さまで戻ったらストップと言いなさい、とおっしゃったの。そこで、私、ただ・・・・・少しだけ余分にやらせてあげたの」
ハーマイオニーはさらに大きくニッコリした。
「それにしても、二人とも気付くのが遅いわ!私なんて、その日のうちに気がついてたのに――」
「あら!ピッグウィジョンが戻ってきたわ!」
の小言をさえぎり、ハーマイオニーが指差した。ロンの豆ふくろうが氷柱の下がった階段の手すりのてっぺんで、さえずりまくっていた。脚に丸めた羊皮紙が括りつけられていた。そばを通り過ぎる生徒たちが、ピッグを指差しては笑っている。三年生の女子学生たちが立ち止まって言った。
「ねえ、あのちびっ子ふくろう、見て!かっわいいー!」
「あのバカ羽っ子!」
ロンが歯噛みして階段を駆け上がり、ピッグウィジョンをパッとつかんだ。
「手紙は、受取人にまっすぐ届けるの!フラフラして見せびらかすんじゃないの!」
ピッグウィジョンはロンの握りこぶしの中から首を突き出して、うれしそうにホッホッと鳴いた。三年生の女子学生たちは、ショックを受けたような顔をして見ていた。
「早く行けよ!」
ロンが女子学生に噛み付くように言い、ピッグウィジョンを握ったままこぶしを振り上げた。ピッグウィジョンは、「高い、高い」をしてもらったように、ますますうれしそうに鳴いた。
「ハリー、はい――受け取って」
ロンが声を低くして言った。三年生の女子学生たちは、憤慨した顔で走り去った。ロンがピッグウィジョンの脚からはずしたシリウスの返事を、ハリーはポケットにしまいこんだ。それから、四人は、手紙を読むために急いでグリフィンドール塔に戻った。
談話室ではみんなお祭り気分で盛り上がり、ほかの人が何をしているかなど気にも留めない。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、みんなから離れて窓のそばに座った。窓はだんだん雪で覆われて暗くなっていく。ハリーが手紙を読み上げた。
ハリー
おめでとう。ホーンテールをうまく出し抜いたんだね。「炎のゴブレット」に君の名前を入れただれかさんは、きっといまごろがっかりしているだろう!わたしは「結膜炎の呪い」を使えと言うつもりだった。ドラゴンの一番の弱点は目だからね――。
「クラムはそれをやったのよ!」ハーマイオニーが囁いた。
――だが、君のやり方のほうがよかった。感心したよ。
しかし、ハリー、これで満足してはいけない。まだ一つしか課題をこなしていないのだ。試合に君を参加させたのがだれであれ、君を傷つけようと企んでいるなら、まだまだチャンスがあるわけだ。油断せずに、しっかり目を開けて――とくに、わたしたちが話題にしたあの人物が近くにいる間は――トラブルに巻き込まれないよう十分気をつけなさい。
それと、のことだが、近々、ルーピンが前年度の引継ぎという手前で学校に行くだろう。に何かあったのかと勘繰られてはいけないので、もジェームズたちも学校にいけないのだ。君が代表選手に選ばれた件はもうすでに終わった話でね、行けなくてジェームズも悔しがっていた。それで、もし君たちがルーピンと話したいのであれば、の守護霊をルーピンに届けなさい。そうすれば必ず会える。
何か変わったことがあったら、必ず知らせなさい。連絡を絶やさないように。
シリウスより
「でも、どうしてそんなことまでして、ルーピンが学校にくるんだろう。だって、悪夢を見たのは昨日だぜ?まるで昨日悪夢を見るのが分かっていたみたいに、タイミングよくさ」ロンが首をかしげた。
「の夢の話は深刻なの。見ても見なくても、ダンブルドアに会いに来るのよ」
ハーマイオニーは当然でしょ、とも言いたげな顔でロンに言い返した。
「それで、あなたはどうするの?ルーピンに会いに行くの?」
一方、に対しては、優しいハーマイオニーだった。
「迷惑じゃないなら会いたいかな。リーマスと一緒だと落ち着くの。あなたたちも一緒に来るでしょう?」
がそう聞くと、ハリーやロンが答える前に、ハーマイオニーが言った。
「私、思うんだけど、やっぱりだけで会った方がいいと思うの。シリウスの手紙にもあった通り、もう、滅多なことじゃないと彼らは学校に来られないのよ。その貴重なチャンスを私たち四人で分け合うにはちょっと重すぎるわ。それに、は大好きなルーピンに積もり積もった話があるだろうしね」
「親切なお気遣い、ありがとうございます」
はおどけてみせると、ちょっと申し訳ない顔になった。
「でも、そんなの気にしなくていいの。みんながリーマスに会いたいなら、きっと会った方がいいと思うわ。リーマスだって、みんなの顔を見たいんじゃないかしら」
「でも、今回は遠慮するよ。ハーマイオニーの言うとおりだ。君一人でルーピンに会うべきだよ」
ハリーがきっぱりとそう言い、ロンもその横で頷いている。
「本当にいいの?」
「もちのロンさ」ロンが笑った。
三人には悪いと思ったが、はリーマスと二人だけで話が出来ると思うと、心なしか気分がとても軽くなり、楽しくなった。
「ありがとう、みんな」
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