とハーマイオニーは夕食を食べ終えると寮に戻ることにした。ハーマイオニーは図書館に行きたそうだったが、が夕食に現れないハリーとロンを心配していたからだ。
二人は合言葉を言い、肖像画の穴を這い登りながら楽しげな笑い声が聞こえてきた。談話室ではハリーとロンが笑っていた。その近くにはジニーがいる。
「二人とも、どうして夕食に来なかったの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「なぜって――ねえ、やめてよ、二人とも。笑うのは――なぜって、二人ともダンスパーティに誘った女の子に、断られたばかりだからよ!」ジニーが言った。
その言葉でハリーもロンも笑うのをやめた。
「大いにありがとよ。ジニー」ロンがムッとしたように言った。
「かわいい子はみんな予約済みってわけ?ロン?」
ハーマイオニーがツンツンしながら言った。
「エロイーズ・ミジョンが、いまはちょっとかわいく見えてきたでしょ?ま、きっと、どこかには、お二人を受け入れてくれるだれかさんがいるでしょうよ」
しかし、ロンはハーマイオニーをマジマジと見ていた。急にハーマイオニーが別人に見えたような目つきだ。
「ハーマイオニー、ネビルの言うとおりだ――君は、れっきとした女の子だ・・・・・」
「まあ、よくお気づきになりましたこと」ハーマイオニーが辛辣に言った。
「そうだ――君たちが僕たちと一緒に来ればいい!」
「お生憎様」ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「も私ももうパートナーがいるの」
「そんなはずないよ!」ロンが言った。
「少なくとも、ハーマイオニーはネビルを追い払うために言ったんだよ!」
「あら、そうかしら?」
ハーマイオニーの目が危険な輝きを放ち、はそろそろまずいな、と思った。
「あなたは、三年もかかってやっとお気づきになられたようですけどね、ロン、だからと言って、ほかのだれも私が女の子だと気付かなかったわけじゃないわ!」
ロンはハーマイオニーをじっと見た。それからまたニヤッと笑った。
「オッケー、オッケー。僕たち、君が女の子だと認める」ロンが言った。
「これでいいだろ?さあ、僕たちと行くかい?」
「だから、言ったでしょ!」ハーマイオニーが本気で怒った。「ほかの人と行くんです!」
そして、ハーマイオニーは女子寮のほうへ、さっさと行ってしまった。
「あいつ、嘘ついてる」ロンはその後ろ姿を見ながらきっぱり言った。
「嘘じゃないわ」が静かに言った。
「じゃ、だれと?」ロンが声を尖らせた。
「言わないわ。ハーマイオニーに聞きなさいよ」が言った。
「よーし」
ロンはかなりまいっているようだった。
「こんなこと、やってられないぜ。、君は僕たちと行かないか?」
「だめよ」は少し赤くなった。
「もうパートナーがいるの」
「誰なの?セドリックはチョウと行くんだよ?」ハリーが突然口を出した。
セドリックという言葉にはドキッとしたが、三人に気付かれないように平静を装って言った。
「――ないしょ。ハーマイオニーの様子見てこよっと」
寮の階段を上がりながら、背後でロンがジニーをパーティに誘うのが聞こえた。しかし、ジニーは一緒には行けないはずだ。ネビルがジニーと行くのだから。
「ハーマイオニー」
が寝室に入ると、ハーマイオニーはベッドの上で本を読んでいた。
「目、悪くするよ」
はハーマイオニーのベッドに腰掛けた。
「大丈夫よ。部屋は明るいから――で、ロンはなんて?」
「パーティに一緒に行かないかって。それに、ハーマイオニーのパートナーも気になってるみたいよ」
がそう言うと、ハーマイオニーはフンと鼻で笑い、本をパタンと閉じた。
「なんでパートナーをあの人に一々知らせなきゃいけないの?」
「本当はロンと行きたかったんじゃないの?」
はまぜ返すと、ハーマイオニーにジロリとにらまれた。
「おぉ、怖い」
が肩をすくめると、ハーマイオニーが低い声でを脅した。
「その話はもう終わりよ。もう一度、口に出したら・・・・・どうなるか分かるわよね?」
「わあ、すごい。ハーマイオニー、頭から角が生えて――」
は懲りずにハーマイオニーをからかおうとしたが、あまりにもすごいハーマイオニーの形相だったので、なにも言えなくなってしまった。
「――まあ、ハーマイオニーが決めたんだから口だしなんてしないわ」
気を取り直し、が言った。しかし、ハーマイオニーは黙ったまま、また本を開き読み始めた。
そのとき、楽しげなクスクス笑いが聞こえ、パーバティとラベンダーが入ってきた。
「どうしたの?」
あまりにも楽しそうなので、が気になって二人に尋ねると、二人はまた一層クスクス笑いが酷くなった。は二人が笑い終わるのを待ち、もう一度尋ねた。
「何があったの?」
「パーバティがハリーに誘われたのよ。パーティのパートナーにね」
ラベンダーが笑いを抑えながら答えた。
「ふうん。ハリーがねえ」が一人呟いた。
「パーバティったら、さっきからうれしくってしょうがないのよ」
ラベンダーはそこまで言うと、またクスクス笑いの発作に襲われたようだった。
「それはよかったじゃない」
突然、ベッドから声がし、そちらを見るとハーマイオニーがこちらを見ていた。
「そうそう。ハーマイオニー、あなた、パーティには誰と出席するの?ロンと一緒かと思ってたのに」
クスクス笑いの発作が止まったようで、パーバティが不思議そうにハーマイオニーに聞いた。しかし、ハーマイオニーはさっきのことが後をひいているようで、不愉快そうな顔をして、そっけなく答えた。
「ロンとは行かないわ。もう別の人から誘われているの――」
「誰?」
ハーマイオニーが言い終わるか、終わらないうちに、パーバティとラベンダーはハーマイオニーに食いついた。
「秘密よ。当日になったらわかるでしょ」
有無を言わせぬハーマイオニーの雰囲気に二人は流され、それ以上、ハーマイオニーには追及しなかった。
「それで、は誰と?私、こそハリーと行くんだと思っていたわ。他の寮の子がそう噂していたし」
パーバティが興味津々にを見つめた。しかし、はその目を避けるように、二人から遠ざかり今度はラベンダーに聞いた。
「ラベンダーは誰と?」
「ラベンダーはシェーマスとよ」
間髪を入れず、パーバティが答えた。
は自分が袋のネズミになったような気がし、ハーマイオニーに助けを求めた。
「もう良いじゃない。そろそろ寝ないと、明日、起きられないわよ」
パーバティとラベンダーは不満そうだったが、ハーマイオニーが部屋の電気を消してしまったので、それ以上文句は言えなかった。
はゆっくりとパジャマに着替えながらパーバティの言葉を思い出していた。
「セドリックも私がハリーと行くって思ってるのかしら」
「何か言った?」
独り言は隣のベッドまで聞こえたようで、ハーマイオニーがこちらを見ていた。
「ううん、何も」
はにっけりとハーマイオニーに笑い返し、ベッドに潜り込んだ。家のベッドが懐かしい。はいつの間にか夢の世界に入っていった。
目の前に墓があった。周りも墓ばかりで、薄暗く、照らすものといったら月の光だけだった。しかし、その月は赤く、彼の目を思い出した。
「僕を呼んだかい、」
「リドル・・・・・」
振り向くとホグワーツの制服に身を包んだトム・リドルがいた。
「やあ、久しぶりだね」
リドルはにこやかに笑いかけ、にゆっくりと近寄ってきた。
「誰もあなたなんて呼んでやしないわ」
は怖いのを我慢して、精一杯強く言い放った。
「そうかな?」
リドルはそれでも落ち着いて、に近寄ってくる。
「君が助けを求めない限り僕は君の前に姿を現せない。僕は君に忠実だ」
「嘘よ!私、前にもここと同じような場所で怖い目にあったわ。あなたの声が聞こえて、暗い中に引っ張り込まれそうになって――どこが忠実?」
リドルは顔色一つ変えず、の目の前で彼女を静かに見つめ返していた。
「確かにあれは僕だった。しかし、君を助けようとしただけだ。君は僕と同じ人種なんだ」
はその言葉に不安を覚えた。
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味さ」
リドルは口の端を上げてを小ばかにしたように見た。
「何も知らない箱入り娘め」
「
黙りなさいよ!」
は恐怖を忘れ、リドルに言い返した。
「あなたこそ私のことを何も知らないじゃない!」
「
口を慎め!」
リドルのその言葉と共に、は後ろに吹っ飛ばされた。背後にあった墓石に嫌というほど頭を打ち付け、は一瞬、目の前が暗くなった。
「――っ・・・・・」
痛む頭に手を当てるとヌルッとしたものが手に触れた。
「君をこのまま殺すことだって僕には出来る」
「うっ――」
リドルの手がの首に伸びた。
「、いい加減に目を覚ますんだ。君は光の中にいるべきではない・・・・・」
一瞬、周りが眩しくなり、それからまた暗くなってドスンという大きな音がして、は頭の痛みと呼吸の苦しさで目が覚めた。
「!一体、どうしたの?」
体を揺さ振られ、は薄目を開けた。ハーマイオニーが真っ青になって自分を見ている。
「ちょっと、血だらけじゃない!」
「ベッドから落ちたの・・・・・頭を強くぶつけただけ」
未だにリドルに絞められた首が苦しかったが、どうにか言葉を詰まらずに言えた。
「嘘!ベッドにも血が付いてるわ」
は咄嗟に手を伸ばし、ベッドの上に手を置いた。の手の上の血はベッドの上の血とよく馴染んだ。
「!
ごまかさないで!」
そんなハーマイオニーの声に起こされたのか、パーバティもラベンダーも起き上がり、二人を覗き込んだが、寝ぼけているのかの異変に気付く様子はない。
「どうしたの?」
「――なんでもないわ。ベッドから落ちただけ」
が何でもない様子で答えると、二人は安心したように、また寝る体制に入った。
「ダンブルドアのところへ行くべきよ!」
「嫌。私、行かないわ」
ハーマイオニーは目くじらを立てて怒ったが、はてこでも動きそうにない。
「ねえ、なんでそんなに行きたくないの?あなた、ダンブルドアを信頼していないわけじゃないんでしょう?」
ハーマイオニーは諦めたのか、静かにそう聞いた。
「ダンブルドアのことは信頼しているわ。パパもジェームズのことだって。でも、そうじゃないの。私、怖いの。私が、私の知ってる私じゃないって言われるのが怖いの」
「あぁ、」
はハーマイオニーが手を伸ばしてきたので、咄嗟に身構えたが、ただ暖かい温もりに包まれただけだった。
「あなたはちゃんと自分のことをわかってるわ。あなたをあなたが知らないなんて有り得ないじゃない。落ち着いて、。ただ、ダンブルドアはあなたが成長するように手助けしようとしているだけよ。あなたは私たちよりちょっと特殊だから。ね?」
ハーマイオニーの優しい気遣いにはダンブルドアに会う決心をした。自分の所為でハーマイオニーがもし苦しめられるようなことがあったら、どれだけ深く後悔するだろうか。ダンブルドアに助けてもらおう。
「ハーマイオニー、私、ダンブルドアに会いに行く」
はハーマイオニーに笑って見せると、立ち上がろうとした。しかし、思うようにバランスが取れず、はベッドに倒れ込んだ。
「、私も行くわ。あなたをそんな状態で一人になんてさせられない」
ハーマイオニーは素早くにガウンを着せ、そのまま彼女を支えながら談話室に降りていった。談話室はガランとして、誰一人いない。
「、足元気をつけて」
ハーマイオニーは談話室のドアを開け、廊下に足を踏み入れた。ドアを振り返ると、幸いなことに「太った婦人」は散歩中なようで、絵の中には誰もいなかった。
そして、月明かりの中、二人はゆっくりと校長室へ向かった。
四年目の校長室はもう緊張するどころではなく、は貧血と頭痛に悩まされていた。
そのとき、向かい側からコツコツという足音が聞こえ、もハーマイオニーも身を強張らせた。
「そこにいるのは誰だ?」
ムーディだった。不気味に浮かび上がる影に、は震えた。
「先生、あの――」
「生徒は寝ているはずだが?」
ハーマイオニーのか細い声を遮り、ムーディが聞いた。
「先生、すみません。私が悪いんです。寝ぼけて、ベッドから落ち、頭を打って出血してしまったんです」
は何故かムーディを信頼しきれずに、ずけずけと嘘をでっちあげた。
「・・・・・それでは、グレンジャー。寮に戻れ。わしがブラックを医務室に連れていこう――君たちはどうやら医務室の場所も分からぬようだ」
そうムーディは言うが早いが、を抱き上げ、医務室に向かった。
「グレンジャー、そこにいたいなら構わないが、もうすぐスネイプのやつが来る。減点されるぞ」
それを聞くと、ハーマイオニーは慌てて寮に戻る道を歩き出した。ハーマイオニーにとって、減点とは零点と同じくらい恐ろしいものなのだろうか。
「さて、ブラック。実のところはどうしたのだ?」
コツコツと特徴的な音をさせながら、ムーディは医務室に向かって歩いていた。
「本当にベッドから落ちたんです」
はムーディの目を見ずに答えた。しかし、そう言い張っても、ムーディに読まれている気がした。
「そうか。まあ、それでも良いが」
ムーディはの言葉を鼻で笑い、その後は黙って医務室まで歩いた。
医務室でも、はベッドから落ちたと言い張った。マダム・ポンフリーは明らかにの首元と、頭の傷口を不審がっていたが、何も言わずに手当てを施した。
「ムーディ先生、一応ブラックのことを寮監の先生にお伝えください」
に薬を出しながらマダム・ポンフリーはムーディに言った。マクゴナガルには嘘が通じまい、とは思った。案の定、その通りで、を一目見るなり、ダンブルドアに報告すると言った。
ムーディもマクゴナガルもいなくなると、はマダム・ポンフリーに少し寝るように促された。しかし、は眠る勇気がなかった。眠れば、またリドルが現れるような気がしたのだ。
翌朝早く、ダンブルドアが訪ねてきた。ダンブルドアは寝ぼけ眼のマダム・ポンフリーに退院の許可を貰い、を校長室まで連れて来た。
「さて、。夢の話をしてくれるかの?」
ダンブルドアは長い指を組むと、優しい眼差しでを見た。はハーマイオニーとの約束を果たすため、ゆっくりと夢のリドルの話をした。そして、リドルを怒らせ、墓石にたたき付けられ、気がついたらベッドが血だらけだったことも。
話し終わると、は肖像画の歴代校長たちが耳を澄ましている様子が目に入った。ダンブルドアは目を閉じて深く何かを考えているように見えた。
「あの、先生?」
が不安になって声をかけると、ダンブルドアは杖から銀色に光るものを出した。それがダンブルドアの守護霊だというのはすぐにわかったが、守護霊が不死鳥だと気付くのには少し時間がかかった。
守護霊はダンブルドアの周りを一周すると、スッと消えた。
「君のご両親に伝えておこうと思っての――さて、」
ダンブルドアはブルーの目をに向け、じっと見つめた。
「知らせてくれた君の勇気には感謝しておる」
「ジェームズに――ジェームズに怒られて、ハーマイオニーに促されたんです」
はぼそぼそとそう言った。
「しかし、決断したのは君自身じゃ」ダンブルドアが微笑んだ。
「それでは本題に入るんじゃが――何か聞きたいことはあるかね?」
ダンブルドアの眼差しに促され、はずっと気になっていた疑問を口にした。
「どうしてリドルは私の夢の中に現れるようになったのでしょうか」
「ほう。こりゃまた難しい質問じゃ」
ダンブルドアが少し顔をしかめてみせた。
「実を言うとそれはわしにもわからんのじゃ、。しかし、二年前、わしに話してくれたリドルの日記のことを考慮すると、その日記に秘められた彼の力が君の中に流され、今、君と同調しているのかもしれぬ」
「何故でしょうか」
は焦りのあまり、ダンブルドアに答えを迫った。
「それは――ただの推測にすぎんが――君とリドルの間に思いもよらぬ繋がりがあるためじゃろう。リドルも言っていたようじゃが。本来、日記を壊された今、リドルは君の中でも存在していけないはずじゃ。しかし、それが二年たった今でも存在できるとすれば、君の中の何かがリドルを存在させ続けているのかもしれぬ」
「私がリドルを・・・・・」
は自分がリドルを存在させていることに愕然とした。
「そして、リドルは現在のヴォルデモート卿じゃ。そのこととも共鳴し、リドルの力が強くなったのじゃろう――起きたら夢の中での怪我が現在となっていたのもそれゆえじゃ」
がショックのあまり唖然としていると、ダンブルドアが真剣な目でじっとを見つめた。
「、よいかの。トム・リドルを怒らせるではない。彼が君を内部から殺そうとすることはないだろうが――彼自身が存在出来なくなるからの――だが、君を痛め付け、自我を無させ、君を操り人形にするかも知れぬ。君の話を聞いている限りでは、リドルは君に少々友好的じゃ。いきなり君を攻撃することはなかろう――怒らせない限りは」
は小さく頷いてみせた。
「そして、また君に頼み事をしなければならぬ。今後、またリドルが夢に現れることがあれば、一部始終を手紙にし、フォークスを呼びなさい。フォークスがわしの許に運んでくれるじゃろう――心配は無用じゃ、。フォークスは必ずわしの許にしか手紙を届けん」
ダンブルドアは不安そうなの表情を読み取って付け足した。そして、ゆっくりと後を続けた。
「夢を見た君に、わしが必ずしも会えるとは限らん。昨夜のように、万事上手くいけば良いが、もしも万が一、奴の耳にでも入れば君は内部から奴に支配されかねぬ。、良いの。注意は怠るでない」
はまた小さく頷き、再び疑問を口にした。
「先生。ハリーたちには夢の話をしてもいいでしょうか?」
すると、ダンブルドアは優しく微笑み、答えた。
「友は何にも変えられないかけがえのないものじゃ。大切にしなさい」
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