The Hungarian Horntail ハンガリー・ホーンテイル
「そして、最後の挑戦者、ハリー・ポッターです!なんと、彼は運の悪いことにハンガリー・ホーンテールという今試合、一番凶暴なドラゴンに当たってしまいました」
バグマンが叫び、もハーマイオニーも、ロンでさえも緊張で身体をこわばらせた。そして、笛の音と共に、ハリーがグラウンドに現われた。
「どうか、無事に終わりますように――」は手を合わせた。
ドラゴンは硬い地面に棘だらけの尾を打ちつけ、幅一メートルもの溝を削りこんでいた。
「あぁ、ダメ、見てられないわ!」
ハーアイオニーは顔を手で覆いながらも、指の隙間から見下ろしていた。爪をギュッと立て、頬が赤くなっている。ロンはずっと黙ったままで、ハリーを応援しているのか分からなかったが、その血行が悪い顔がすべてを物語っていた。
「ハリー、頑張って!」
がそう言ったとき、ハリーは杖を上げて叫んでいた。
アクシオ ファイアボルト!
何も来ないように見えた。しかし、は信じていた。自分を無事に呼び寄せたハリーの力を、最後まで信じた。そして、ハリーの背後からものすごいスピードで疾走してくる箒を見た。
「やったわ!ハリーが呼び寄せ呪文で箒を手に入れたわ!」
ハーマイオニーはハリーが呪文に成功したことに一瞬だが笑顔を見せた。しかし、三人とも分かっていた。まだまだ先は長い。ハリーの挑戦はまだ始まったばかりなのだ。
ハリーは片脚をサッと上げて箒に跨り、地面を蹴った。瞬く間にハリーは上空に浮かび上がり、はハリーを見上げた。かすかに笑っているようにも思える。自身たっぷりに笑うジェームズとかぶって見えた。
「大丈夫よ。ハリーはもう、大丈夫。彼はもう自分の世界を作り上げたわ」
はその微笑みに安心して言った。無傷では帰ってこないだろう。しかし、ハリーが正気を取り戻している。その事実はを確信に導いた。
ハリーは急降下した。ホーンテールの首がハリーを追った。しかし、ドラゴンの次の動きを読んでいたハリーは、それより一瞬早く上昇に転じた。そのまま突き進んでいたなら直撃されていたに違いない場所めがけて火炎が噴射された。
「いやあ、たまげた。なんたる飛びっぷりだ!」
バグマンが叫んだ。観衆は声を絞り、息を呑んだ。
「クラム君、見てるかね?」
ハリーは高く舞い上がり、粉を描いた。ホーンテールはまだハリーの動きを追っている。長い首を伸ばし、その上で頭がグルグル回っている。ハリーは、ホーンテールが口を開けたとたんに、急降下した。しかし、今度は今ひとつツキがなかった。炎はかわしたが、代わりに尻尾が鞭のように飛んできて、ハリーを狙った。ハリーが左にそれて尾を交わしたとき、長い棘が一本、ハリーの肩をかすめ、ローブを引き裂いた。
「あぁ、ハリー!」
ハーマイオニーはそんな悲痛な叫びと共に、の腕をギュッと掴んだ。は腕がしびれていくのを感じたが、気にも留めなかった。今、大切なのはハリーの試合に注目することだ。ハリーの傷はそれほど深くなさそうだ。まだハリーは先ほどと同じような飛びっぷりを見せている。今度はホーンテールの背後に回りこんだ。
ハリーはあちらへひらり、こちらへひらり、ホーンテールがハリーを追い払おうとして炎を吐いたりすることがないように、一定の距離をとり、しかも、ハリーから目を逸らさないように、十分に脅しをかける近さを保って飛んだ。ホーンテールは首をあちらへユラリ、こちらへユラリと振り、縦長に切れ込んだ瞳でハリーを睨み、牙を剥いた。
ハリーはより高く飛んだ。ホーンテールの首がハリーを尾って伸びた。いまや伸ばせるだけ伸ばし、首をユラユラさせている。蛇使いの前の蛇のように。
ハリーはさらに一メートルほど高度を上げた。ホーンテールはイライラと唸り声を上げた。ホーンテールにとって、ハリーは蝿のようなものだ。バシッと叩き落したい蝿だ。尻尾はまたバシリと鞭のように動いた。が、ハリーはいまや届かない高みにいる。ホーンテールは炎を吹き上げた。ハリーがかわした。ホーンテールの顎がガッと開いた。
ハリーは、まだ焦らすようにホーンテールの頭上をくねって飛んだ。
そのとき、ホーンテールが後脚で立った。ついに広げきった巨大な黒なめし皮のような両翼は、小型飛行機ほどもある。ハリーは急降下した。ドラゴンが、ハリーがいったい何をしたのか、どこに消えたのかに気付く前に、ハリーは全速力で突っ込んだ。鉤爪のある前脚が離れ、無防備になった卵めがけて一直線に――ファイアボルトから両手を離した――ハリーは金の卵をつかんだ。
猛烈なスパートをかけ、ハリーはその場を離れた。スタンドの遥か上空へ、ズシリと重たい卵を、怪我しなかった方の腕にしっかり抱え、ハリーは空高く舞い上がった。
「やったわ!」
とハーマイオニーは涙で目を潤ませながら抱き合った。ハーマイオニーにつかまれていた腕がしびれていたが、やはりそんなことを気にしている余裕はなかった。ハリーの試合が終わったのだ。そして、ハリーは生き残っている。
「やった!」
バグマンが叫んでいる。
「やりました!最年少の代表選手が、最短時間で卵を取りました。これでポッター君の優勝の確率が高くなるでしょう!」
ロンの顔はもう真っ青で、病人のように見えたが、彼が病人ではないことをは十分に知っていた。
「ロン、ハリーのところに行きましょう」
はロンに手を差し出した。彼はしばらくの手を見つめていたが、意を決したように彼女の手を掴み、そして一言呟いた。
「ごめん、
「気にしないで、ロン」
はにっこりロンに笑って見せた。
「さ、ハーマイオニーも行きましょ!」
は嬉しさでいつの間にか走り出していた。途中、マクゴナガル先生とすれ違い、先生はにハリーが囲い地の二番目の救急テントで手当てを受けていると教えてくれた。
は救急テントの前でロンとハーマイオニーが追いつくのを待っていようかと思ったが、二人の姿が見えたとたん、耐え切れずにテントの中に飛び込んでいた。
「ハリー、かっこよかったよ!」
は、自分が飛び込んできて驚いているハリーに勢い良く抱きついた。ハリーの手が恐る恐るの背中に回ったので、はくすぐったくなってハリーから離れた。
「君のおかげだよ、。君が僕に『呼び寄せ呪文』を教えてくれなかったら――」
しかし、ハリーが言い終わらないうちに、今度はハーマイオニーが赤い顔をして飛び込んできた。
「いきなり走り出すなんて!ちょっと、!」
に御冠だったハーマイオニーも、ハリーの姿が目に入るととたんに上ずった声になった。
「あぁ、ハリー、あなた、すばらしかったわ!」
しかし、ハリーの視線はハーマイオニーの後ろに立っているロンに向いていた。
「ハリー」ロンが深刻な口調で言った。
「君の名前をゴブレットに入れたやつがだれだったにしろ――僕――僕、やつらが君を殺そうとしてるんだと思う」
この数週間が、溶け去ったかのようだった。
「気がついたってわけ?」ハリーは冷たく言った。
「ずいぶん長いことかかったんだね?」
ハーマイオニーが心配そうに二人の間に立って、二人の顔を交互に見ていた。ロンが曖昧に聞きかけた。ロンは謝ろうとしているのだ。
「いいんだ」ロンが何も言わないうちにハリーが言った。
「気にするな」
「いや」ロンが言った。「僕、もっと早く――」
気にするなって」ハリーが言った。
ロンがおずおずとハリーに笑いかけた。ハリーも笑い返した。
ハーマイオニーがワッと泣き出し、はびっくりしてハーマイオニーに言った。
「なにも泣くことはないじゃない!」
「二人とも、ほんとうに大バカなんだから!」
ハーマイオニーは地団駄を踏みながら、ボロボロ涙を流し、叫ぶように言った。それから、三人が止める間もなく、ハーマイオニーは三人を抱きしめ、今度はワンワン泣き声をあげて走り去ってしまった。
「狂ってるよな」
ロンがやれやれと頭を振った。
「ハーマイオニーはずっと頑張ってたのよ。二人が仲直りするように。嬉しかったのよ、きっと」
は走り去ったハーマイオニーを思いながら、ロンに言った。
「二人とも、行きましょ。ハリーの点数が出るはずよ」
ハリーは金の卵とファイアボルトを持ち、三人はテントを出た。ロンがハリーの隣に並び、早口にまくし立てた。その様子が、いつもの二人だと、は嬉しくなった。
「君が最高だったさ。だれもかなわない。セドリックはへんてこなことをやったんだ。グラウンドにあった岩を変身させた・・・・・犬に・・・・・ドラゴンが自分の代わりに犬を追いかけるようにしようとした。うん、変身としてはなかなかかっこよかったし、うまくいったともいえるな。だって、セドリックは卵を取ったからね。でも火傷しちゃった――ドラゴンが途中で気が変わって、ラブラドールよりセドリックのほうを捕まえようって思ったんだな。セドリックはかろうじて逃れたけど。それから、あのフラーって子は、魅惑呪文みたいなのをかけた。恍惚状態にしたけど、いびきをかいたら、鼻から炎が噴き出して、スカートに火がついてさ――フラーは杖から水を出して消したんだ。それから、クラム――君、信じられないと思うよ。クラムったら、飛ぶことを考えもしなかった!だけど、クラムが君の次によかったかもしれない。なんだか知らないけど呪文をかけて、目を直撃したんだ。ただ、ドラゴンが苦しんでのた打ち回ったんで、本物の卵の半数は潰れちまった――審査員はそれで減点したんだ。卵にダメージを与えちゃいけなかったんだよ」
三人が囲い地の端までやって来た時、ロンはやっと息をついた。ホーンテールはもう連れ去られていたので、三人は五人の審査員が座っているのを見ることができた――囲い地のむこう正面に設けられた、金色のドレープがかかった一段と高い席に座っている。
「十点満点で各審査員が採点するんだ」
ロンが言った。が目を凝らしてグラウンドのむこうを見ると、最初の審査員――マダム・マクシームが杖を宙に上げていた。長い、銀色のリボンのゆなものが杖先から噴き出し、捻れて大きな8の字を描いた。
「よし、悪くないぜ!」
ロンが言った。観衆が拍手している。
「君の肩のことで減点したんだと思うな・・・・・」
クラウチ氏の番だ。「9」の数字を高く上げた。
「いけるぞ!」
ハリーの背中を叩いて、ロンが叫んだ。
次はダンブルドアだ。やはり「9」を上げた。観衆がいっそう大きく歓声をあげた。
ルード・バグマン――10点
「10点?」
ハリーが驚いた声を上げた。
「だって・・・・・僕、怪我したし・・・・・なんの冗談だろう?」
「文句言うなよ、ハリー」ロンが興奮して叫んだ。
そして、今度はカルカロフが杖を上げた。一瞬間を置いて、やがて杖から数字が飛び出した――。
「4」
なんだって?」ロンが怒って喚いた。
4点?卑怯者、依怙贔屓のクソッタレ。クラムには十点やったくせに!」
ロンが喚くそばで、ハリーが一人、にっこりと笑っているのを目にしたは静かにハリーに言った。
「もう、全校生徒の大部分があなたの味方よ。あなたがドラゴンに立ち向かっていたとき、みんなあなたを心配そうに見つめていたわ。怪我をしたとき、みんながあなたを心配そうに見たし、卵を取ったとき、みんなが歓声をあげたわ」
ハリーは笑顔のまま、に答えた。
「僕は、もうスリザリン生になんて言われようが我慢できるよ。ロンも味方に戻ってきた。それに――」
「ハリー、おめでとう!同点で一位だ!君とクラムだ!」
チャーリー・ウィーズリーがハリーたちのところに急いでやってきて言った。は最初、何故、チャーリーがここにいるのか分からなかったが、チャーリーたちがドラゴンをつれて来たのだとやっと分かった。
「おい、僕、急いで行かなくちゃ。行って、ママにふくろうを送るんだ。結果を知らせるって約束したからな――しかし、信じられないよ!――あ、そうだ――君に伝えてくれって言われたんだけど、もうちょっと残っていてくれってさ・・・・・バグマンが代表選手のテントで、話があるんだそうだ」
ロンとはハリーの帰りを待つことにし、テントの前の木陰に二人並んで座った。
「ありがとう、」出し抜けにロンが言った。
「何が?」
はわけが分からず、ロンに聞き返した。
「いや、その・・・・・いろいろと・・・・・」
はクスッと笑って、空を見上げた。
「次は許さないわよ、ロン」
そのとき、フラー、セドリック、クラムが三人連れ立ってテントの方に歩いてきた。
「三人とも、すごかったわ!」
はにっこり笑ってそう声をかけた。
「ありがとう、
セドリックの顔の半分はオレンジ色の軟膏がべっとり塗ってあったが、セドリックの笑顔の素敵さは変わらなかった。
「怪我は大丈夫?」
「あぁ、明日には治るよ」
セドリックはに手を振って、テントの中へ入っていった。クラムにじっとこちらを見ていたが、ロンがクラムをじっと見ているからだろう、とは勝手に解釈した。
そのあと、ハリーがセドリックと一緒にテントを出てきた。セドリックはハリーと別れ、城に向かって歩いていく途中、女の子に囲まれていた。
「バグマンはなんて?」
禁じられた森の端に沿って帰り道を辿りながら、はハリーに問いかけた。
「第二の課題は、二月二十四日の午前九時半に開始されて、僕が今、もっている卵の中にあるヒントを解けって。それが第二の課題が何かを教えてくれるし、僕たちに準備ができるようにしてくれるってさ」
「まだまだ先だろ?今は、第一の課題が終わったんだ。騒がなきゃ」
ロンが嬉しそうに言った。ハリーはロンとにもっと詳しく他の選手の試合のことを聞いた。そして、急に木立の木陰から魔女が一人飛び出した。
リータ・スキーターだった。今日は派手な黄緑色のローブを着ていて、手に持った自動速記羽根ペンが、ローブの色に完全に隠されていた。
「おめでとう、ハリー!」
リータはハリーに向かってニッコリした。
「一言いただけないかな?ドラゴンに向かったときの感想は?点数の公平性について、いま現在、どういう気持ち?」
「ああ、一言あげるよ」ハリーは邪険に言った。
バイバイ
そして、ハリーは、ロンとと連れ立って城への道を歩いた。

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これで、上巻は終わりです。