昼食を食べ終えると、とうとう第一の課題の開始時刻だった。すでにハリーはマクゴナガル先生と一緒に競技場へ行っている。
「ああ、心配だわ!」ハーマイオニーがオロオロと言った。
「ハリーなら大丈夫よ。絶対。対策はバッチリなんだし」
は笑顔を見せたが、内心は不安でたまらなかった。ハリーを信じていないわけではないが、あんな作戦で、本当に大丈夫なのだろうかと疑いを持っていた。
「、行かないの?」
ハーマイオニーと深刻そうな顔をして、突っ立っているのを不思議に思ったのだろう。ディーンが声をかけてきた。シェーマスとロンも一緒だ。はディーンから視線を外し、ロンを見つめた。
「ロン、一緒に行かない?」
何故だかにも分からない。しかし、いつの間にかロンを誘っていた。ロンは一瞬嬉しそうな顔を見せたが、慌てて無表情を作った。しかし、口元がヒクヒクと動いて、笑いをこらえている様子だ。
「ロン、一緒に行きましょ」
ハーマイオニーもそう言った。ロンは渋々といった様子をわざわざ作り出し、ディーンとシェーマスに見栄を張ったように「後でな」と言った。そんなロンの様子に、ディーンもシェーマスも笑いながら、競技場に向かった。去り際、は二人に「ありがとう」と伝えた。
「心配なんでしょう?本当は」
はロンの隣を歩きながらそう言った。
「誰も心配なんかしてない」ロンは突っ張った。
は小さな声で「意地っ張り」と一人、呟きながらハーマイオニーがロンに話しかけるのを黙って聞いた。
ハリーが無傷で帰ってこなかったとしても、ロンと仲直りさえしてくれればは満足だった。ハリーが自分といようと、ハーマイオニーといようと、ロンといるときほど笑うことは少ないのを、は分かっていた。
三人は禁じられた森の近くまで来た。小さなテントが見える。あの中にハリーたちがいるのだろうか。
「、あっちよ」
ハーマイオニーに手を引かれて、は囲い地のスタンドに足を踏み入れた。階段を上り、スタンドの半ばまで来た。
「ここらへんでいいよ」ロンがいつもの笑顔でイスに座った。
ハーマイオニーも座ったので、もその隣につられるようにして座った。もうすでにスタンドのほとんどの席が埋まっていた。そして、向かい側にはダンブルドアとクラウチ氏を挟み、マダム・マクシームとカルカロフが座っていた。しかし、何故かバグマンの姿はなかった。イスが一つ空いている。
「いよいよね」
ハーマイオニーが緊張した面持ちで呟いた。そして、そのときホイッスルの音が鳴り響いた。
「あぁ、見てらんない」
は自分の足が、ガクガク震えているのがわかった。バグマンが急いで席につくのが見える。
「さて、それではこれから第一の課題を始めます。選手たちはドラゴンから金の卵を取り上げます。では、一番最初に挑戦する選手から!」
「セドリック!」
の声は盛大な拍手でかき消された。
セドリックは観客のことは気にしていないように思えた。杖を構え、ドラゴンの近くにあった岩に向かって何か呪文を唱えると、岩は可愛らしいラブラドールに変身した。ドラゴンは血走った目をセドリックから、自分の近くを駆けずり回る犬に向けた。
「セドリック、気をつけて」
は聞こえないと思っていても、そう言わずにはいられなかった。
セドリックはドラゴンがラブラドールに気を取られている間にドラゴンの抱えている卵を取ろうとした。しかし、ちょうどラブラドールと鉢合わせしてしまった。
「おぉぉぅ、危なかった、危機一髪」
バグマンの解説する声が響いた。セドリックはドラゴンの炎から数メートルも離れていなかった。
ラブラドールから気がそれてしまったドラゴンは、卵を取ろうとするセドリックを追いかけた。セドリックは炎や尻尾から逃げながら、隅に追いやられていった。
「神様――!」
は手を組み、祈った。
「これは危険な賭けに出ました。これは!」
がそっと目を開けるとセドリックがドラゴン自身の影に隠れ、卵を掴もうとしているところだった。
「
うまい動きです――残念、だめか!」
ドラゴンの炎がセドリックの顔の半分を直撃した。
「セドリック!」
観客がうめいた。女子生徒の中には泣きそうな顔をしてセドリックを見守っている者もいる。
そして、セドリックは休むことなくチャンスを狙い続けた。ドラゴンも隠れてばかりいるセドリックより、ラブラドールの方が興味を持ったのか、そのうちにセドリックを追うのをやめてしまった。
「今よ!」
がそう叫んだときと、セドリックがドラゴンの影から飛び出し、卵を獲得したのは同時だった。
「やりました!」
大歓声の中で、魔法で拡張したバグマンの声が響いた。
「さて、審査員の点数です!」
マダム・マクシームは杖の先から「7」という数字を噴出した。そして、クラウチ氏は「8」、ダンブルドアも「8」だった。そして、ルード・バグマンは「8」、カルカロフは「7」を掲げた。
「三十八点よ!良い滑り出しだと思わない?」
は隣にいたハーマイオニーに嬉しくなって抱きついた。
「ちょっと、?あなた、ハリーの心配してたんじゃないの?」
は苦笑いすると、ハーマイオニーから離れて、「それはそれ、これはこれ」と言い切った。
「一人が終わって、あと三人!」ホイッスルがまた鳴り、バグマンが叫んだ。
「ミス・デラクール。どうぞ!」
フラーの挑戦ははセドリックより早く終わった。フラーもセドリックと同じく杖を掲げ、その杖がドラゴンを直撃した。
「何の呪文かしら?」
がハーマイオニーに聞くと、ハーマイオニーが答えた。
「魅惑呪文だと思うわ」
ドラゴンは恍惚状態に見えた。いびきまでかいている。フラーはその間にそっとドラゴンに近づいた。
「うわ、さすがだよ!」
ロンが惚れ惚れとフラーを見つめるので、たちまちハーマイオニーの目が鋭くなってしまった。
「おー、これはどうもよくない!」バグマンが言った。
しかし、フラーはそう簡単に卵を手にすることは出来なかった。ドラゴンのいびきと共に、鼻から炎が噴出したのだ。
「おー・・・・・危うく!」
フラーは岩の陰に隠れて炎をしのいだ。
「さあ慎重に・・・・・ああ、なんと、今度こそやられてしまったかと思ったのですが!」
しかし、二発目の炎はしのぐことが出来なかった。フラーのスカートに炎が燃え移り、フラーは慌てた様子だ。
「ほら、あなたのフラーだって完璧じゃないわ!」
ハーマイオニーがロンに言い返した。
フラーはマントの炎を消し、素早く卵を手に入れた。
「やりました!ミス・デラクールも卵を獲得しました!」
バグマンの声が響き、拍手が鳴り止むと、点数が発表された。フラーは三十九点だった。
「そして、いよいよ登場。ミスター・クラム!」
バグマンが叫び、クラムがむっつり顔で登場した。しかし、それでも女子生徒の大半は黄色い声でクラムを歓迎した。
クラムは何故か、前の二人より落ち着いて見えた。それはむっつり顔の所為かもしれない。杖を構えると、ドラゴンに向かって何かを唱えた。
「なんと大胆な!」
クラムの呪文を受けたドラゴンは苦しんで、のた打ち回った。クラムを攻撃する様子は全くない。
「いったい、何の呪文なのかしら」
は疑問に思ったが、ハーマイオニーも分からないようだった。
ドラゴンはじたばたと動き回り、グシャっという音と共に卵がつぶれた。しかし、クラムはドラゴンの足の間を走りぬけて金の卵を手に入れた。
「いい度胸を見せました――そして――やった。卵を取りました!」
観客はクラムに拍手を惜しまなかった。そして、拍手が収まってくると、今度は審査員の点数が掲げられて、また大きな拍手が鳴り渡った。クラムが四十点を獲得し、首位に躍り出たのだ。
<ワンドリランキングに清き一票を!> この作品は面白かったですか?