ハリー、ロン、、ハーマイオニーはその晩、ピッグウィジョンを探しにふくろう小屋にいった。シリウスに手紙を送り、ハリーが、無傷で対決したドラゴンを出し抜いたことを知らせるためだった。道々、ハリーは、久しぶりで話すロンに、シリウスがカルカロフについていったことを一部始終話して聞かせた。カルカロフが「死喰い人」だったと聞かされて、最初はショックを受けたロンも、ふくろう小屋に着いたときには、初めからそれを疑ってかかるべきだと言うようになっていた。
「辻褄が合うじゃないか?」ロンが言った。
「マルフォイが汽車の中で言ってたこと、覚えてるか?あいつの父親がカルカロフと友達だって。あいつらがどこで知り合ったか、これでもうわかったぞ。ワールドカップじゃ、きっと二人一緒に、仮面を被って暗躍してたんだ・・・・・これだけは言えるぞ、ハリー。もしカルカロフがゴブレットに君の名前を入れたんだったら、きっといまごろ、バカを見たと思ってるさ。うまくいかなかった。だろ?君はかすり傷だけだった!どいて――僕が捕まえるよ――」
ピッグウィジョンは、手紙を運ばせてもらえそうなので大興奮し、ホッホッとひっきりなしに鳴きながら、ハリーの頭上をグルグル飛び回っていた。ロンがピッグウィジョンをヒョイと空中でつかみ、ハリーが手紙を脚に括りつける間、動かないように押さえていた。
「ほかの課題は、絶対あんなに危険じゃないよ。だって、ありえないだろ?」
ピッグウィジョンを窓際に運びながらロンがしゃべり続けた。
「あのさあ、僕、この試合で君が優勝できると思う。ハリー、僕、マジでそう思う」
ロンに言われ、ハリーはうれしそうな顔をした。しかし、ハーマイオニーは、ふくろう小屋の壁に寄りかかり、腕組をして、しかめっ面でロンを見た。
「この試合が終わるまで、ハリーにとってまだ先は長いのよ」
ハーマイオニーは真剣だ。
「あれが第一の課題なら、次は何が来るやら、考えるのもいや」
「君って、太陽のように明るい人だね」ロンが言った。
「君とトレローニー先生と、いい勝負だよ」
ロンは窓からピッグウィジョンを放した。ピッグウィジョンは途端に四、五メートル墜落して、それからやっとなんとか舞い上がった。脚に括りつけられた手紙は、いつもよりずっと長い、重い手紙だった。
四人はピッグウィジョンが闇に消えていくのを見送った。それから、ロンが言った。
「さあ、ハリー、下に行って、君のびっくりパーティに出なきゃ――フレッドとジョージが、いまごろはもう厨房から食べ物をどっさりくすねてきてるはずだ」
まさに、そのとおりだった。
グリフィンドールの談話室に入ると、歓声と叫び声が再び爆発した。山のようなケーキ、大瓶入りのかぼちゃジュースやバタービールが、どこもかしこもビッシリだった。リー・ジョーダンが「ドクター・フィリバスターのヒヤヒヤ花火」を破裂させた後だったので、周り中に星や火花が散っていた。絵の上手なディーンが、見事な新しい旗を何枚か作っていたが、そのほとんどがファイアボルトでホーンテールの頭上をブンブン飛び回っているハリーを描いていた。ほんの二、三枚だけが、頭に火がついたセドリックの絵だった。はその旗を少し腹立たしく思いながらも、嬉しそうに振舞った。
はハーマイオニーと一緒に食べ物をとると、ハリーとロンと一緒に座った。
「おっどろき。これ、重いや」
ハリーがテーブルにおいておいた金の卵を持ち上げ、手で重みを計りながらリーが言った。
「開けてみろよ、ハリー、さあ!中に何があるか見ようぜ!」
「ハリーは自分ひとりでヒントを見つけることになってるのよ」
すかさずハーマイオニーが言った。
「試合のルールで決まっているとおり・・・・・」
「ドラゴンを出し抜く方法も、自分ひとりで見つけることになってたんだけど」
ハリーが、とハーマイオニーにだけ聞こえるように呟くと、ハーマイオニーはばつが悪そうに笑った。はクスリと笑みをもらした。
「そうだ、そうだ。ハリー、開けろよ!」何人かが同調した。
リーがハリーに卵を渡し、ハリーは卵の周りにぐるりとついている溝に爪を立ててこじ開けた。
空っぽだ。きれいさっぱり空っぽだった――しかし、ハリーが空けたとたん、世にも恐ろしい、大きなキーキー声の咽び泣きのような音が、部屋中に響き渡った。が聞いたことがある音の中でこれに一番近いのは、「ほとんど首無しニック」の「絶命パーティ」でのゴースト・オーケストラの演奏で、走者全員がのこぎりを引いていたときの音だ。
「黙らせろ!」フレッドが両手で耳を覆って叫んだ。
「いまのはなんだ?」
ハリーがバチンと閉めた卵をまじまじと見つめながら、シェーマス・フィネガンが言った。
「バンシー妖怪の声みたいだったな・・・・・もしかしたら、次にやっつけなきゃいけないのはそ入れだぞ、ハリー!」
「だれかが拷問を受けてた!」
ネビルはソーセージ・ロールをバラバラと床に落として、真っ青になっていた。
「君は『磔の呪文』と戦わなくちゃならないんだ!」
「バカ言うなよ、ネビル。あれは違法だぜ」ジョージが言った。
「代表選手に『磔の呪文』をかけたりするもんか。俺が思うに、ありゃ、パーシーの歌声にちょっと似てたな・・・・・もしかしたら、奴がシャワーを浴びてるときに襲わないといけないのかもしれないぜ、ハリー」
「そしたら、他の代表選手はどうなるのよ!」
が突っ込むと、ジョージはニヤリと笑った。
「ハーマイオニー、ジャム・タルト、食べるかい?」フレッドが勧めた。
「大丈夫だよ。こっちには何にもしてないよ。クリームサンド・ビスケットのほうはご用心さ――」
ちょうどビスケットにかぶりついたネビルが、咽て吐き出した。
フレッドが笑い出した。
「ほんの冗談さ、ネビル。もどうだい?」
「ありがと、フレッド」
が言葉に甘え、ジャム・タルトを取ると、ハーマイオニーも取った。
「これ、全部厨房から持って来たの?フレッド?」
ハーマイオニーが聞いた。
「ウン」フレッドがハーマイオニーを見て、ニヤッと笑った。
「旦那さま、なんでも差し上げます。なんでもどうぞ!」
屋敷しもべの甲高いキーキー声で、フレッドが言った。
「連中はほんとうに役に立つ・・・・・俺がちょっと腹がすいてるって言ったら、雄牛の丸焼きだって持ってくるぜ」
「どうやってそこに入るの?」
ハーマイオニーはさり気ない、何の下心もなさそうな声で聞いた。しかし、にはハーマイオニーがS.P.E.W.を諦めていないことがよくわかった。
「簡単さ」フレッドが答えた。
「果物が持ってある器の絵の裏に、隠し戸がある。梨をくすぐればいいのさ。するとクスクス笑う。そこで――」
フレッドは口を閉じて。疑うようにハーマイオニーを見た。
「何で聞くんだ?」
「別に」ハーマイオニーが口早に答えた。
「屋敷しもべを率いてストライキをやらかそうって言うのかい?」ジョージが言った。
「ビラ撒きとかなんとか諦めて、連中を焚きつけて反乱か?」
何人かが面白そうに笑ったが、ハーマイオニーは何も言わなかった。
「連中をそっとしておけ。服や給料をもらうべきだなんて、連中に言うんじゃないぞ!」
フレッドが忠告した。
「料理に集中できなくなっちまうからな!」
ちょうどのそのとき、ネビルが大きなカナリアに変身してしまい、みんなの注意が逸れた。
「あ――ネビル、ごめん!」
みんながゲラゲラ笑う中で、フレッドが叫んだ。
「忘れてた――俺たち、
やっぱりクリームサンドに呪いをかけてたんだ――」
一分もたたないうちに、ネビルの羽が抜けはじめ、全部抜け落ちると、いつもとまったく変わらない姿のネビルが再び現れた。ネビル自身もみんなと一緒に笑った。
「カナリア・クリーム!」
興奮しやすくなっている生徒たちに向かって、フレッドが声を張りあげた。
「ジョージと僕とで発明したんだ――一個七シックル。お買い得だよ!」
ロンとハーマイオニーがまた食べ物を取っていくと、はハリーに話しかけた。
「手に何を持っているの?」
ハリーはそっと手を開くと、その上にはハンガリー・ホーンテールのミニチュアがあった。
「試合の順番を決めるときに使ったんだ」
がハリーからミニチュアを受け取ると、ミニチュアは欠伸をし、身体を丸めて、の膝の上で目を閉じた。
「可愛い」
が優しくミニチュアの背中を撫でた。
「うん、ハグリッドの言うとおりだ――悪くないよ、ドラゴンって」
が寝室に戻ったのは、夜中の一時近くだった。ハーマイオニーやラベンダー、パーバティと一緒だった。そして、ベッドに入ると久しぶりに安心して、夢を見ずにぐっすりと寝れた。
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