日曜の朝、起きて服を着始めたものの、はまだ頭がボーッとして何かを考えるどころではなかった。しかし、ハーマイオニーに急かされて、は大広間に下りて行った。大広間にはハリーもロンもいなかった。はハーマイオニーと一緒にテーブルの端に座り、こっそり、昨日シリウスに言われたことを全部話して伝えた。ハーマイオニーはカルカロフを警戒せよ、と言われたことや、ムーディがシリウスを探している可能性があるとわかったことよりも、やはり、心配すべきはハリーのドラゴンだという意見だった。
「私も、賛成よ」
はオートミールの最後の一さじを飲み込んで言った。
「それにしたって、パパは何を伝えようとしたのかしら・・・・・」
がそう考え込むと、ちょうどハリーが大広間に入ってきて、の隣に座った。
「おはよう」
はそう声をかけた。ハリーは身動ぎもせず、ただ、ハーマイオニーの食事が終わるのを待っていた。
「食べないの?」
「食べたくないんだ」
そう、とはハリーから目をそらした。すると、ハッフルパフのテーブルで、友人たちに囲まれながら食事しているセドリックと目が合った気がした。しかし、セドリックはニコリともせず、また食事に戻った。は、どこかその顔が険しいのに気づいた。きっと、「日刊予言者新聞」の記事を信じているのだろう。ハリーと付き合いながら、セドリックに気があるようなフリをして――セドリックに嫌われてしまったと思うと、は胸が痛んだ。
「なにしてるの、。行くわよ」
の考えていることなど露も知らず、ハーマイオニーはを引っ張りながら大広間を出た。
「昨日のことなんだけど――」
「から全部聞いたわ。今、問題にすべきなのは、あなたが火曜日の夜も生きていられるようにすることよ」
ハーマイオニーはハリーをさえぎった。
「それからカルカロフのことを心配すればいいわ」
三人は図書館にこもった。ドラゴンに関するありとあらゆる本を引っ張り出し、三人で山と積まれた本に取り組みはじめた。
ハーマイオニーは本を開いてはブツブツ言って、気が散った。ハリーもそう思ったのか、とうとうう「ちょっと黙っていて」とそう言った。
しばらく三人で本を探していると、ハーマイオニーが顔を上げて、イライラした声で呟いた。
「ああ、いやだ。
またあの人だわ。どうして自分のボロ船で読書しないのかしら?」
ちらりとそちらを見ると、クラムが図書館に入ってくるところだった。いつもの前かがみで、むっつりと三人を見て、本の山と一緒に遠くの隅に座った。
「クラムはドラゴンのこと、知ってるのかな」
はハーマイオニーと一緒に本を片付けながら呟いた。
「知ってると思うよ。ハグリッドが僕に教えてくれた夜、ハグリッドはマダム・マクシームをドラゴンのところに連れてきたんだ。それに、その帰り道、カルカロフがドラゴンが繋がれている禁じられた森に行くのを見た。クラムは絶対に知ってるよ。それに、きっとドラゴンを出し抜く方法もカルカロフが言ってるかもしれない」
ハリーの言葉から、焦りが感じられた。はハリーに「大丈夫よ」と言おうとしたが、その前にある思いが頭を過ぎった。
「セドリックは知らないわ・・・・・」
月曜日の朝、はセドリックにドラゴンのことを教えるかどうか迷っていた。マダム・マクシームやカルカロフが、かろうじて良心のカケラが残っていたとして、代表選手にドラゴンのことを教えていなかったとしたら、知っているのはハリーだけになる。はハリーに勝ってほしいわけでも、負けてほしいわけでもなかった。ただ、生き残ってくれさえすれば。しかし、セドリックはどうだろうか。きっと彼は勝ちたいと思っている。それに、フラーもクラムもそうだ。
それにしたって、とはもう一度マダム・マクシームとカルカロフの顔を思い描いた。彼らが自分の生徒たちにドラゴンのことを教えないことなんてあるだろうか。
でも、セドリックは今、自分を嫌っている。は彼に伝える方法がないことに今更気づいた。
「私、最悪だ・・・・・」
「なにが?」
隣のベッドからハーマイオニーの声が聞こえた。起きていたらしい。
「なんでもない。早く、朝食を食べに行きましょ」
大広間で朝食を食べ始めると、ハリーも大広間に姿を現した。朝から疲れた顔をしている。眠れなかったようだ。しかし、の意識はハリーより、後ろの人物にあった。セドリックが友人と一緒に大広間に入ってくるところだった。ドラゴンのことを教えるなら今日しかない。
朝食を食べ終わって、ハリーととハーマイオニーが立ち上がると、ちょうどセドリックもハッフルパフのテーブルを立つところだった。
は決心した。嫌われていようが、憎まれていようが、セドリックにドラゴンのことを話そう。
「あのさ――」
「ハーマイオニー」
がハーマイオニーに先に温室に行っていて、と言おうとすると、ハリーの声と重なった。ハリーとはお互いに顔を見合わせると納得した。どうやら同じことを考えているようだ。
「ハーマイオニー、先に行ってて。僕たち、すぐに追いつくから」ハリーが言った。
「二人とも遅れるわよ。もうすぐベルが鳴るのに――」
「大丈夫、追いつくわ」
はハリーと一緒に大理石の階段の方に駆け出した。セドリックはまだ階段の下にいた。六年生の友達がたくさん一緒だった。は彼らの前であまりドラゴンの話をしたくなかった。彼らから何回か、リータ・スキーターの記事でからかわれたことがあった。セドリックたちはどんどん進んでいく。このままだと、話す機会を失ってしまう。はそう思ってこっそり杖を取り出した。
「なにをする気だい?」ハリーが不審そうに聞いた。
「まあ、見てて」は悪戯するときの自信に満ち溢れた顔になった。
「
ディフィンド!裂けよ」
狙いを定めてそう唱えると、セドリックのカバンが裂けた。羊皮紙やら、羽根ペン、教科書がバラバラと床に落ち、インク瓶がいくつか割れた。
「かまわないで」
友人がかがみこんで手伝おうとしたが、セドリックは、まいったなという声で言った。
「フリットウィックに、すぐに行くって伝えてくれ。さあ行って・・・・・」
の思ったとおりに事は運んだ。二人はセドリックの友達が教室へと消えるのを待った。そして、三人しかいなくなった廊下を、急いでセドリックに近づいた。
「やあ」
インクまみれになった「上級変身術」の教科書を拾い上げながら、セドリックが挨拶した。しかし、セドリックの目がを捕らえると、少し険しい顔になった。
「僕のカバン、たったいま、破れちゃって・・・・・まだ新品なんだけど・・・・・」
セドリックはを無視することにしたらしい。ハリーしか見ない。
「セドリック、第一の課題はドラゴンなの」
「えっ?」
がそう言うと、セドリックはをまじまじと見つめた。彼に見つめられたのはあの記事が出て以来だった。
「ドラゴンなんだ」
ハリーは早口でしゃべった。セドリックがの言葉を信じていないように思ったらしい。
「ドラゴンは四頭。一人に一頭。僕たち、ドラゴンを出し抜かないといけない」
セドリックはハリーと見つめ続けた。ハリーの深い緑色の目に浮かぶ恐怖の色と同じものが、いまセドリックのグレーの目にチラついているのを、は見た。
「たしかかい?」セドリックが声をひそめて聞いた。
「絶対だ。僕、見たんだよ」ハリーが答えた。
「しかし、君、どうしてわかったんだ?僕たち知らないことになっているのに・・・・・」
「それは聞かないで」
ハリーは急いで言った。
「だけど、知っているのは僕だけじゃない。フラーもクラムも、もう知っているはずだ――マダム・マクシームとカルカロフの二人もドラゴンを見た」
は呆気にとられているセドリックから自分が破いたカバンを取り上げた。杖で破れ目をなぞると、たちまちカバンが裂ける前に戻った。
「私があなたのカバンを破いたの。あなたの友人の前ではこの話をしたくなかったから――信じられない?」
はセドリックが当惑したような、ほとんど疑っているような目つきだったので、そう尋ねた。自分でも意地悪な質問だったと思った。
「でも、どうして僕に教えてくれるんだい?」セドリックはただそう聞いた。
「だって・・・・・それがフェアじゃない?」
ハリーは答えた。
「もう僕たち全員が知ってる・・・・・これで足並みがそろったんじゃない?」
セドリックはまだ少し疑わしげにハリーを見つめていた。そのとき、聞き慣れたコツッ、コツッという音がハリーとの背後から聞こえた。振り向くと、マッド‐アイ・ムーディが近くの教室から出てくる姿が目に入った。
「ポッター、一緒に来い」ムーディが唸るような声で言った。「ディゴリー、ブラック、もう行け」
ハリーが不安げにムーディを見た。はとっさにハリーをかばおうとしたが、ムーディの魔法の目がすべてを見透かしているような気がして、口が利けなかった。は大人しく、セドリックとその場を立ち去った。
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