第一の課題が行われる週の前の土曜日、三年生以上の生徒は全員、ホグズミード行きを許可された。はハーマイオニーと相談して、ハリーを城から出た方が気晴らしになる、と言って勧めた。ハリーも喜んで、ホグズミードに行くことにした。
「でも、ロンはどうするの?」
がハリーとハーマイオニーに尋ねた。
「一緒に行かないの?」
ハリーはロンの名前が出ると、急に険しい顔つきになって、プイッとそっぽを向いてしまった。は仕方なく、ハーマイオニーの顔を見つめた。
「私、『三本の箒』で、ハリーとロンを引き合わせたらどうかな、って思っているの」
しかし、顔が赤くなったハーマイオニーの言い分は、ハリーの仲直りのためではなく、自分がロンと一緒にいたいためのように聞こえた。
「いやだね」
ハリーが不機嫌に言った。
「ロンと会うのはごめんだ。僕、『透明マント』を着ていく」
は意地を張るハリーにため息混じりで「そうしたければ、そうすれば?」とそっけなく言った。
そういうわけで、ハリーは寮で「透明マント」を被り、階下に戻って、とハーマイオニーと一緒にホグズミードに出かけた。
村に入るとき、他の生徒が三人を追い越したり、行き違ったりすると、その度に「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジが光った。しかし、ハリーの姿は見えないので、リータ・スキーターが書いた記事でからかう生徒や、ひどい言葉を浴びせる生徒もいなかった。それに、にとって嬉しかったのは、ハリーの姿が見えないので、も「ハリーと付き合っている」という馬鹿馬鹿しい記事でからかわれることがなかったことだ。
「ハリーが見えないと、こんなにも気分が違うものなのね」
が楽しげにそう呟くと、ハーマイオニーが不思議そうな顔をして、を見た。
「だって、リータ・スキーターの記事で『ハリーとデートしてる!』なんて言ってくる生徒がいないんだもの」
「噂をすれば、だよ。」
すぐそばでハリーの声がしたかと思うと、は頭をハリーの両手で挟みこまれ、視線の向きを変えられた。まさに、リータ・スキーターが友人らしきカメラマンとパブから出てきたところだった。二人はひそひそ声で話しながら、三人のそばを通り過ぎた。ハリーの小声が耳元で聞こえた。
「あの人、この村に泊まってるんだ。第一の課題を見に来たのに違いない」
は思わず、「第一の課題って何だと思う?」と問いかけそうになったが、口には出さなかった。これまで第一の課題については三人とも触れなかった。いや、触れられなかった。ハリーがどれだけ神経質になっているかはよくわかっていた。
「行っちゃったわ」
ハーマイオニーの声で、は現実に引き戻された。
「ねえ、『三本の箒』に入って、バタービールを飲みましょうよ。ちょっと寒くない?」
「そうね、行きましょ」
はハーマイオニーと歩き出そうとしたが、マントが引っ張られて歩き出すことが出来ずに、勢い良く振り返って、きっとハリーの顔があるだろう場所に向かって小声で言った。
「ロンに話しかけなきゃいいじゃない!」
「三本の箒」は混み合っていた。土曜の午後の自由行動を楽しんでいるホグワーツの生徒が多かったが、がほかでは滅多に見かけたことがないさまざまな魔法族もいた。ホグズミードは、イギリスで唯一の魔法ずくめの村なので、魔法使いのようにうまく変装できない鬼婆などにとっては、ここがちょっとした安息所なのだろう、と思った。
ハーマイオニーが飲み物を買いに行っている間、はハリーと一緒に隅の空いているテーブルへソロソロと近づいた。パブの中を移動する途中、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンと一緒に座っているロンを見つけた。フレッドがに気づいて、手を振ると、ロンもその仕草を真似した。もにっこりと彼らに笑いかけたが、何故か惨めな気分になった。きっとロンが一番、今話したい人はハリーだろう。はやっとのことで、テーブルにたどり着くと、腰掛けた。
「おまたせ」
ハーマイオニーがそのあとすぐにやってきて、バタービールを三つテーブルに置いた。
「ハリー、どこに座ったの?」
が小声で呟くと、の右隣でハリーが自分のマントを引っ張った。
「バタービール、取ってくれる?」
は自分のバタービールのように装い、ハリーのマントに素早く滑り込ませた。
「ありがとう」ハリーが言った。
「ねえ、ハーマイオニー、なにをやってるの?」
が呆れながらハーマイオニーを見た。
「S・P・E・Wの会員を増やそうと思って。私、この村の人たちに入ってもらうように、やってみようかしら」
ハーマイオニーはの呆れ顔にも気づかないようで、パブを見回した。
「私、そろそろもっと積極的な行動を取るときじゃないかって思い始めてるの。どうやったら学校の厨房に入れるかしら?」
「フレッドとジョージに聞いたら?まあ、パパやジェームズでも知ってそうだけどね。名高い『悪戯仕掛け人』ですから」
はふと、今夜のシリウスとの約束を思い出した。もし、ハリーが代表選手にならなかったら、きっとジェームズとリリーがホグワーツに来ることはなかったし、シリウスとの約束もなかった。それに、素直にセドリックを応援できただろう。きっと、ハリーとロンとハーマイオニーで楽しく代表選手たちがどんな課題に立ち向かうのだろうかと一緒に考えていた。
「見て、ハグリッドよ!」ハーマイオニーが突然言った。
ハグリッドの巨大なモジャモジャ頭の後頭部が人ごみの上にぬっと現われた。一緒にムーディ先生といるのがわかった。ハグリッドはいつものように、巨大なジョッキを前に置いていたが、ムーディは自分の携帯用酒瓶から飲んでいた。粋な女主人のマダム・ロスメルタは、これが気に入らないようだった。ハグリッドたちの周囲のテーブルから、空いたグラスを片付けながら、ムーディを胡散臭そうに見ていた。たぶん、自家製の蜂蜜主が侮辱されたと思ったのだろう。しかし、はわけを知っていた。「闇の魔術に対する防衛術」の最近の授業で、闇の魔法使いは、だれも見ていないときにやすやすとコップに毒を盛るので、いつも食べ物、飲み物を自分で用意するようにしていると、ムーディーが生徒に話したのだ。
が見ていると、ハグリッドとムーディは立ち上がって出て行きかけた。しかし、ムーディが立ち止まり、三人の方を「魔法の目」で見ると、ハグリッドの背中をチョンチョンを叩き、何事かを囁いた。それから二人は引き返して、ハリーととハーマイオニーのテーブルにやってきた。
「元気か、、ハーマイオニー?」
ハグリッドが大声を出した。
「こんにちは」
もハーマイオニーもにっこり挨拶した。
ムーディは、片足を引きずりながらテーブルを回り込み、体をかがめた。S・P・E・Wのノートを覗き込んでいるように見えたが、突然、ムーディが囁いた。
「いいマントだな、ポッター」
は隣で、ハリーがピクリと動くのがわかった。
「先生の目――あの、見える――?」ハリーが動揺した。
「ああ、わしの目は『透明マント』を見透かす」
ムーディが静かに言った。
「そして、ときにはこれがなかなか役に立つぞ」
ハグリッドがにっこりハリーを見下ろしていたが、ハグリッドにはハリーの姿が見えない。きっとムーディが教えたのだろう。
今度はハグリッドが、に話しかけるフリをしながら、ハリーに囁いた。
「ハリー、今晩、真夜中に、俺の小屋に来いや。そのマントを着てな」
身を起こすと、ハグリッドは大声で、「、ハーマイオニー、おまえさんたちに会えてよかった」と言い、ウィンクして去っていった。ムーディもあとについていった。
「ハグリッドったら、どうして真夜中に僕に会いたいんだろう?」ハリーは驚いていた。
「会いたいって?」ハーマイオニーもびっくりした。
「おまけに真夜中よ」が考え深げに言った。
「いったい、何を考えているのかしら?ハリー、行かない方がいいかもよ・・・・・」
ハーマイオニーは神経質に周りを見回し、声を殺して言った。
「シリウスとの約束に遅れちゃうかもしれない」
「でも、ハグリッドがわざわざ真夜中にハリーを呼び出したのよ。きっとなにかあるのよ、大切なことが。それに――」
も声を殺した。
「パパのことなら心配いらない。私がわけを話しておくわ」
<ワンドリランキングに清き一票を!> この作品は面白かったですか?