「『呼び寄せ呪文』の宿題、やらなきゃ」
ハリーが夕食を食べながら、出し抜けに言った。
「あぁ、そうね。手伝うわ」
「助かるよ」
ハリーが笑顔を向けた。少しながら、はその見慣れた笑顔に安心した。
そのとき、の隣にロンが現われた。ハリーの表情が固まり、はどうしようか、と頭を抱えた。
「明日の夜、二人とも居残り罰だ。スネイプの地下牢教室――それと、ふくろうが来てる」
ロンは腕に止まっていたふくろうを飛ばせた。ふくろうは翼を広げ、そしてハリーの目の前に舞い降りた。ロンは用件が済んだのか、ディーンとシェーマスと一緒に大広間を出て行こうとした。には彼の姿が、何故か引き止めてほしそうに見えた。
「ロンを引き止めなくていいの?」
はハリーに尋ねたが、ハリーはの言葉を無視して、ふくろうの脚から手紙を外していた。
ロンがわざわざハリーに話しかけてきた――スネイプの居残り罰の日時はも聞いていたし、自分がハリーに伝えてもよかった。それに、ふくろうの件だって、寝室においておけば、いづれハリーが勝手に見るだろう。
はそう思うと、無駄な意地を張る二人の男の子に呆れるしかなかった。
「シリウスからだ」
ハリーの小声に、は現実に引き戻された。
「なんて?」
「直接会って、話をするって。十一月二十二日、午前一時に、グリフィンドール寮の暖炉のそばで。にもいてほしいって。それと、用心しろ、今後も連絡しろだって。急いで十一月二十二日の件は返事がほしいって言ってる」
ハリーはシリウスからの手紙をローブにしまった。
「パパとジェームズは連絡し合っていないのかしら」
はテーブルから立ち上がりながら言った。もう二人とも食事は終わっていた。
次の日、はハーマイオニーと朝食に降りて行った。シリウスの手紙のことをハーマイオニーに話していると、なぜかすれ違う人々に興味津々に見つめられた。シリウスのことが知れ渡ったのだろうかと、不安になりかけたそのとき、マルフォイが大広間の入り口での名前を呼んだ。
「おい、!」
ニヤニヤ笑いが顔中に広がっているマルフォイを見て、は嫌な予感がした。
「君がポッターと付き合っているっていうのは本当か?」
が眉をひそめると、マルフォイが手に持っていた「日刊予言者新聞」を広げて周囲にいた生徒たちにも聞こえるように読み上げた。
「ハリー・ポッターと一人の少女の間でついに愛が芽生えた。親友のコリン・クリービーによると、ハリーは・ブラックなる人物と付き合っているという話だ。この人物はブラック家末裔の飛び切りかわいい女生徒で、ハリーとは一歳の頃から同じ家に住んでいる。また、ハリーと同じく、学校の優等生でもあり、二人は常に一緒にいるということである」
マルフォイの意地悪い笑みや、周囲からの興味の視線の理由が分かり、は一安心した。シリウスが捕まったわけではないらしいが、状況は面白くない。
「、ハーマイオニー、どうして大広間に行かないんだい?」
そのとき、ハリーのきょとんとした声が聞こえた。振り向くと、ハリーの深い緑色の眼がこちらを見ていた。
「マルフォイの所為よ」
はそう言って、周りに先生がいないのを確認すると、マルフォイの手から「呼び寄せ呪文」で「日刊予言者新聞」を取り上げた。
「、先生に見られでもしたら!」
ハーマイオニーが咎めるのにも耳を貸さず、は一人でグリフィンドールのテーブルに歩いていった。後ろから心配そうなハーマイオニーと不思議そうなハリーが追いかけてくる。
「マルフォイの言うことを気にしてるの?」
の両脇にハリーとハーマイオニーはそれぞれ座り、ハーマイオニーはの手から「日刊予言者新聞」を受け取りハリーに渡しながらそう聞いた。
「気にしてないわ」
はそっけなくそう言うと、トーストに手を伸ばした。
「もう!気にしてるじゃない」
ハーマイオニーもトーストに手を伸ばしながら、にそう言い返した。
「なんだこれ!」
の隣でハリーが声を上げた。記事を読んだらしい。
「僕、こんなこと言ってない!」
ハリーがテーブルに新聞をたたきつけた。
「誰も貴方がそんなことを言うなんて思ってないわ」
は一面の大部分にハリーの写真が載っているのを見ながら、そっけなく答えた。
「僕、母さんに依存なんてしてない!それに、母さんや父さんが代表選手になったことに誇りに思っているんじゃないって知ってる!心配してるんだ!リータ・スキーターは僕がずっと『えーと』しか言ってないのに、こんなでたらめな記事を書いて――」
「わかってるってば!」
は自分でも驚くほど、声を荒げてハリーをさえぎった。
「別にあなたがそんなことを言ったなんて言ってないでしょ!私が心配してるのは、周りの反応よ」
はさっきからずっと周囲の注目の的にされているのを感じていた。もちろん、それは記事にあるとおり、ハリーと一緒にいるから尚更であろう。シリウスたちは記事をリータ・スキーターが書いたことで信用性はないと言ってくれるだろうが、セドリックはどうだろうか。は泣きたくなった。
「、ほっときなさい」
ハーマイオニーが平然と言った。
「言わせておけばいいのよ。それより十一月二十二日のことよ。もし談話室に誰かが残っていたら、私たち、談話室から追い払わないといけないわ」
ハーマイオニーの一言で、ハリーもも少し目が覚めた。
「私たち、シリウス・ブラックとこれから話すから、さっさと寝てくれるって頼んだら?」
がそれでも機嫌が治らずに、不機嫌な声でそう言ったら、ハリーもハーマイオニーも明るい笑顔を見せた。
「、そんなことしたら、彼はすぐに捕まってしまうよ」ハリーが言った。
「まあ、私が考えたのは『糞爆弾』を一袋、投下するって案ね――でも、そんなことをしたらフィルチに生皮を剥がされかねないわ」
ハーマイオニーが考え深げにそういうので、はハーマイオニーに向かって言った。
「だから、私たち、これから狂った殺人鬼とお話しするから、って言う案でいいじゃない」
が本当に不機嫌そうに、真面目な顔でそう言うので、ハリーもハーマイオニーも笑いをこらえることは到底出来なかった。そして、もちろんの案は却下され、もし談話室に誰かが残っていたら、「糞爆弾」を一袋、投下することになった。
その日一日、は周囲からの視線に耐えた。やっと一日が終わったと、談話室でハリーとハーマイオニーと三人で宿題をやっているとハリーが突然立ち上がり、「スネイプの居残り罰に行く」と言って、談話室から出て行った。はそのとき、その場にいなかったハーマイオニーに居残り罰になった経緯を話していると、寝室からロンが降りてきて、談話室を横切るのが目に入った。
「もしかしたら、ハリーとロン、仲直りできるかも。スネイプの地下牢教室で一緒に居残り罰をしてれば、嫌々でも口を利くんじゃないかしら」
が期待に満ちた声でそう言うと、ハーマイオニーもそれに賛成した。しかし、二人が思ったより現実は厳しく、談話室に戻ってきたとき、ハリーとロンは別々だった。
また、ハリーとはハーマイオニーが「ハリーが『呼び寄せ呪文』を習得できないのは理論がわかっていないからだ」と主張する故、図書館で本を読む時間が多くなった。内心、は理論とか、魔法に関係ないと思っていた。もちろん、それは自分が理論を理解していないでも魔法が使えるという事実に基づいていた。
ビクトール・クラムもしょっちゅう図書館に入り浸っていた。はクラムが何をしに図書館に来ているのか気になっていつもこっそりクラムを覗こうとするが、女子学生のクラムの追っかけグループが怒るため、それはできなかった。一方、ハーマイオニーはその女子学生がうるさい為、怒り心頭だった。彼女たちのクスクス笑いで気が散るというのだ。
「あの人、ハンサムでもなんでもないじゃない!」
「ロンの方がハンサムだ、って言いたいの?」
が隣でプリプリしながら呟いたハーマイオニーにそう聞くと、彼女はほんのり赤くなって、また本に没頭した。
<ワンドリランキングに清き一票を!> この作品は面白かったですか?