ハリー、ロン、、ハーマイオニーは、ズルズル、ツルツルと玄関ホールを進み、右側の二重扉を通って大広間に入った。ロンはぐしょ濡れの髪を掻き揚げながら、怒ってブツブツ文句を言っていた。
大広間は、例年のように、学年始めの祝宴に備えて、見事な飾り付けが施されていた。テーブルに置かれた金お皿やゴブレットが、宙に浮かぶ何百というロウソクに照らされて輝いている。各寮の名がテーブルには、四卓とも寮生がぎっしり座り、ぺちゃくちゃはしゃいでいた。上座の五つ目のテーブルに、生徒たちに向かい合うようにして、先生と職員が座っている。大広間のほうがずっと暖かかった。ハリー、ロン、、ハーマイオニーは、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフのテーブルを通り過ぎ、大広間の一番奥にあるテーブルで、他のグリフィンドール生と一緒に座った。隣はグリフィンドールのゴースト、「ほとんど首なしニック」だった。ニックは真珠色の半透明なゴーストで、今夜もいつもの特大ひだ襟付きのダブレットを着ている。この襟は、たんに晴れ着の華やかさを見せるだけでなく、皮一枚で繋がっている首があまりグラグラしないように押さえる役目も果たしている。
「素敵な夕べだね」
ニックが四人に笑いかけた。
「すてきかなあ?」
ハリーがスニーカーを脱ぎ、中の水を捨てながら言った。
「早く組み分け式にしてくれるといいな。僕、腹ペコだ」
毎年、学年の始めには、新入生を各寮に分ける儀式がある。ちょうどそのとき、テーブルの向こうから、興奮で息を弾ませた声がハリーとを呼んだ。
「わーい、ハリー、!」
コリン・クリービーだった。ハリーとを英雄だと崇める三年生だ。
「やあ、コリン」ハリーは用心深く返事をした。
「こんにちは、コリン」もハリーと同じく当たり障りのない返事をした。
「ねえ、何があると思う?当ててみて、ね?僕の弟も新入生だ!弟のデニスも!」
「あ――よかったね」ハリーが言った。
「弟ったら、もう興奮しちゃって!と同じ寮になれればいいなって!」
コリンは腰掛けたままピョコピョコしていて落ち着かない。
「グリフィンドールになるといいな!ねえ、そう祈っててくれる?ハリー?」
「あ――うん、いいよ」
ハリーは、ハーマイオニー、ロン、「ほとんど首なしニック」のほうを見た。
「兄弟って、だいたい同じ寮に入るよね?」
ハリーが聞いた。ウィーズリー兄弟が七人ともグリフィンドールに入れられたことから、そう判断したようだ。
「あら、違うわ。必ずしもそうじゃない」ハーマイオニーが言った。
「パーバティ・パチルは双子だけど、一人はレイブンクローよ。一卵性双生児なんだから、一緒のところだと思うでしょ?」
はハーマイオニーの話を聞きながら、教職員テーブルを見上げた。いつもより空席が目立つような気がした。もちろん、ハグリッドは、一年生を引率して湖を渡るのに奮闘中だろう。マクゴナガル先生はたぶん、玄関ホールの床を拭くのを指揮しているのだろう。しかし、もう一つ空席がある。
「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生はどこかしら?」
がハリーに話しかけた。
「闇の魔術に対する防衛術」の先生は、三学期、つまり一年以上長く続いたためしがない。がほかのだれよりも好きだったルーピン先生は、去年辞職してしまった。今頃、シリウスやジェームズと他愛のない話をしているだろう。教職員テーブルを端から端まで眺めたが、新顔はまったくいない。
「たぶん、だれも見つからなかったのよ!」
ハーマイオニーが心配そうに言った。ハリーはもう一度しっかりテーブルを見直した。「呪文学」のちっちゃいフリットウィック先生は、クッションを何枚も重ねた上に座っていた。その横が「薬草学」のスプラウト先生で、バサバサの白髪頭から帽子がずり落ちかけている。彼女が話しかけているのが「天文学」のシニストラ先生で、シニストラ先生のむこう隣は、土気色の顔、鉤鼻、ベットリした髪、「魔法薬学」のスネイプ――ハリーとが一番嫌いな先生だ。しかし、さりげなく助けてくれたり、優しかったりと理解できない部分も多くあって、はハリーほど嫌いではなかった。
スネイプのむこう側に空席があったが、マクゴナガル先生の席だろうと思った。その隣が、テーブルの真ん中で、ダンブルドア校長が座っていた。流れるような銀髪と白髭が蝋燭の明かりに輝き、堂々とした不可緑色のローブには星や月の刺繍が施されている。ダンブルドア校長は、すらりと長い指の先を組み、その上に顎を載せ、半月メガネの奥から天井を見上げて、物思いに耽っているかのようだ。も天井を見上げた。天井は、魔法で本物の空と同じに見えるようになっているが、こんなひどい荒れ模様の天井は初めてだ。黒と紫の暗雲が渦巻き、外でまた雷鳴が響いたとたん、天井に木の枝のような形の稲妻が走った。
「ああ、早くしてくれ」ロンが呻いた。
「僕、ヒッポグリフだって食っちゃう気分」
その言葉が終わるか終わらないうちに、大広間の扉が開き、一同しんとなった。マクゴナガル先生を先頭に、一列に並んだ一年生の長い列が大広間の奥へと進んでいく。四人ともびしょ濡れだったが、一年生の様子に比べればなんでもなかった。湖をボートで渡ってきたというより、泳いできたようだった。教職員テーブルの前に整列して在校生のほうを向いたときには、寒さと緊張で。全員震えていた――ただ一人を除いて。一番小さい、薄茶色の髪の子が、厚手木綿のオーバーに包まっている。四人にはオーバーがハグリッドのものだとわかった。オーバーがだぶだぶで、男の子は黒いフワフワの大テントを纏っているかのようだった。襟元からチョコンと飛び出した小さな子は、興奮しきって、何だか痛々しいほどだ。引きつった顔で整列する一年生に混じって並びながら、その子はコリン・クリービーを見つけ、ガッツポーズをしながら、「僕、湖に落ちたんだ!」と声を出さずに口の形だけで言った。うれしくてたまらないようだった。
マクゴナガル先生が三本脚の丸椅子を一年生の前において、その上に、汚らしい、継ぎ接ぎだらけの、ひどく古い三角帽子を置いた。一年生がじっとそれを見つめた。ほかのみんなも見つめた。一瞬、大広間が静まり返った。すると、帽子のツバに沿った長い破れ目が、口のように開き、帽子が歌いだした。
いまを去ること一千年、そのまた昔その昔
私は縫われたばっかりで、いとも新し、真新し
そのころ生きた四天王
いまなおその名を轟かす
荒野からきたグリフィンドール
勇猛果敢なグリフィンドール
谷川からきたレイブンクロー
賢明公正レイブンクロー
谷間からきたハッフルパフ
温厚柔和なハッフルパフ
湿原からきたスリザリン
俊敏狡猾スリザリン
ともに語らう夢、希望
ともに計らう大事業
魔法使いの卵をば、教え育てん学び舎で
かくしてできたホグワーツ
四天王のそれぞれが
四つの寮を創立し
各自異なる徳目を
各自の寮で教え込む
グリフィンドールは勇気をば
何よりもよき徳とせり
レイブンクローは賢きを
だれよりも高く評価せり
ハッフルパフは勤勉を
資格あるものとして選びとる
力に飢えしスリザリン
野望を何より好みけり
四天王の生きしとき
自ら選びし寮生を
四天王亡きその後は
いかに選ばんその資質?
グリフィンドールその人が
素早く脱いだその帽子
四天王たちそれぞれが
帽子に知能を吹き込んだ
代わりに帽子が選ぶよう!
被ってごらん。すっぽりと
私がまちがえたことはない
私が見よう。みなの頭
そして教えん。寮の名を!
組み分け帽子が歌い終わると、大広間は割れるような拍手だった。
「僕たちのときと歌がちがう」
みんなと一緒に手を叩きながらハリーが行った。
「毎年違う歌なんだ」ロンが答えた
「なら、帽子の一生ってつまらなそうね。きっと一年かけて次の歌を作るのよ」がクスリと笑った。
マクゴナガル先生が羊皮紙の太い巻紙を広げ始めた。
「名前を呼ばれたら、『帽子』を被って、この椅子にお座りなさい」
先生が一年生に言い聞かせた。「『帽子』が寮の名を発表したら、それぞれの寮のテーブルにお着きなさい」
先生は羊皮紙の一番上を読み上げた。
「アッカリー、スチュワート!」
進み出た男の子は、頭のてっぺんから爪先まで、傍目にもわかるほど震えていた。組み分け帽子を取り上げ、被り、椅子に座った。
「
レイブンクロー!」
スチュワート・アッカリーは帽子を脱ぎ、急いでレイブンクローのテーブルに行き、みんなの拍手に迎えられて席に着いた。スチュワート・アッカリーを拍手で歓迎しているレイブンクローのシーカー、チョウ・チャンの姿が、チラリと目に入った。はハリーもその様子を見ているのに気がついて、なんだかムカムカした。
「バドック、マルコム!」
「
スリザリン!」
大広間のむこう側のテーブルから歓声が上がった。バドッグがスリザリンのテーブルに着き、マルフォイが拍手している姿を見た。スリザリン寮は多くの「闇の魔法使い」を輩出してきたということを、バドッグは知っているのだろうか。マルコム・パドックが着席すると、フレッドとジョージが嘲るように舌を鳴らした。
「ブランストーン、エレノア!」
「
ハッフルパフ!」
「コールドウェル、オーエン!」
「
ハッフルパフ!」
「クリービー、デニス!」
チビのデニス・クリービーは、ハグリッドのオーバーに躓いてつんのめった。ちょうどそのとき、ハグリッドが教職員テーブルの後ろにある扉から、体を斜めにしてそっと入ってきた。その背丈は普通の二倍、横幅は少なくとも普通の三倍はあろうというハグリッドは、もじゃもじゃともつれた長い髪も髭も真っ黒で、見るからにドキリとさせられる―――間違った印象を与えてしまうのだ。ハリー、ロン、、ハーマイオニーは、ハグリッドがどんなに優しいか知っていた。教職員テーブルの一番端に座りながら、ハグリッドは四人にウィンクし、デニス・クリービーが組み分け帽子を被るのをじっと見た。帽子のツバ元の裂け目が大きく開いた。
「
グリフィンドール!」帽子が叫んだ。
ハグリッドがグリフィンドール生と一緒に手を叩く中、デニス・クリービーはニッコリ笑って帽子を脱ぎ、それを椅子に戻し、急いで兄のところにやってきた。
「コリン、僕、落っこちたんだ!」
デニスは空いた席に飛び込みながら、甲高い声で言った。
「すごかったよ!そしたら、水の中の何かが僕を捕まえてボートに押し戻したんだ!」
「すっごい!」
コリンも同じくらい興奮していた。
「たぶん、それ、デニス、大イカだよ!」
「ウワーッ!」
デニスが叫んだ。嵐に波立つ底知れない湖に投げ込まれ、巨大な湖の怪物によってまた押し戻されるなんて、こんなすてきなことは、願ったってめったに叶うものじゃない、と言わんばかりのデニスの声だ。
「デニス!デニス!あそこにいる人、ね?黒い髪でメガネをかけてる人、ね?見える?デニス、あの人、だれだか知ってる?それに、そのとなりの人、君が大好きな人だよ!ほら、あの漆黒の髪のとっても綺麗な人――」
は気づかない振りをして、いまエマ・ドブズに取り掛かった組み分け帽子をじっと見つめた。
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