The Slave labor 奴隷労働
組み分けが延々続く。男の子も女の子も、怖がり方もさまざまに、一人、また一人と三本脚の椅子に腰掛、残りの子の列がゆっくりと短くなってきた。マクゴナガル先生はLで始まる名前を終えたところだ。
「ああ、早くしてくれよ」ロンは胃のあたりをさすりながら呻いた。
「まあ、まあ、ロン。組み分けの方が食事より大切ですよ」
「ほとんど首なしニック」ががそう声をかけたときに、「マッドリー、ローラ!」がハッフルパフに決まった。
「そうだとも。死んでればね」ロンが言い返した。
「今年のグリフィンドール生は優秀だといいですね」
「マクドナルド、ナタリー!」がグリフィンドールのテーブルに着くのを拍手で迎えながら、「ほとんど首なしニック」が言った。
「連続優勝を崩したくないですから。ね?」
グリフィンドールは、寮対抗杯でこの三年間連続優勝していた。
「プリチャード、グラハム!」
スリザリン!
「クァーク、オーラ!」
レイブンクロー!
そしてやっと、「ホイットビー、ケビン!」(「ハッフルパフ!」)で、組み分けは終わった。マクゴナガル先生は「帽子」と「丸椅子」を取り上げ、片付けた。
「いよいよだ」
ロンはナイフとフォークを握り、自分の金の皿をいまやお阻止と見守った。
ダンブルドア先生が立ち上がった。両手を大きく広げて歓迎し、生徒全員にグルリと微笑みかけた。
「みんなに言う言葉は二つだけじゃ」
先生の深い声が大広間に響き渡った。
思いっきり、掻っ込め
「いいぞ、いいぞ!」
ハリーとロンが大声で囃した。目の前の空っぽの皿が魔法でいっぱいになった。
ハリー、ロン、、ハーマイオニーがそれぞれ自分たちの皿に食べ物を山盛りにするのを、「ほとんど首なしニック」は恨めしそうに眺めていた。
「あふ、ひゃっと、落ち着いラ」
口いっぱいにマッシュポテトを頬張ったまま、ロンが言った。
「今晩はご馳走が出ただけでも運がよかったのですよ」「ほとんど首なしニック」が言った。
「さっき、厨房で問題が起きましてね」
「どうして?何かあったの?」
はステーキを切りながらニックに聞いた。。
「ピーブズですよ。また」
「ほとんど首なしニック」が首を振り振り言ったので、首が危なっかしくグラグラ揺れた。ニックはひだ襟を少し引っ張り上げた。
「いつもの議論です。ピーブズが祝宴に参加したいと駄々をこねまして――ええ、まったく無理な話です。あんなやつですからね。行儀作法も知らず、食べ物の皿を見れば投げつけずにはいられないようなやつです。『ゴースト評議会』を開きましてね――『太った修道士』は、ピーブスにチャンスを与えてはどうかと言いました――でも、『血みどろ男爵』がダメを出して、てこでも動かない。そのほうが懸命だと私は思いましたよ」
「血みどろ男爵」はスリザリンの寮つきのゴーストで、銀色の血糊にまみれ、げっそりと肉の落ちた無口なゴーストだ。男爵だけが、ホグワーツでただ一人、ピーブズを押さえつけることができる。
「そうかぁ。ピーブズめ、何か根に持っているな、と思ったよ」
ロンは恨めしそうに言った。
「厨房で、何やったの?」
「ああ、いつものとおりです」
「ほとんど首なしニック」は肩をすくめた。
「何もかも引っくり返しての大暴れ。鍋は投げるし、釜は投げるし。厨房はスープの海。屋敷しもべ妖精がものも言えないほど怖がって――」
ガチャンと、ハーマイオニーが金のゴブレットを引っくり返した。かぼちゃジュースがテーブルクロスにジワーッと広がり、白いクロスにオレンジ色の筋が長々と伸びていったが、ハーマイオニーは気にも止めない。
「屋敷しもべ妖精が、ここにもいるって言うの?」
恐怖に打ちのめされたように、ハーマイオニーは「ほとんど首なしニック」を見つめた。
「このホグワーツに?」
「さよう」
ハーマイオニーの反応に驚いたように、ニックが答えた。
「イギリス中のどの屋敷よりも大勢いるでしょうな。百人以上」
「私、一人も見たことがないわ!」
「そう、日中はめったに厨房を離れることはないのですよ」ニックが言った。
「夜になると、出てきて掃除をしたり・・・・・火の始末をしたり・・・・・つまり、姿を見られないようにするのですよ・・・・・いい屋敷のしもべ妖精の証拠でしょうが?存在を気づかれないのは」
ハーマイオニーはニックをじっと見た。
「でも、お給料はもらってるわよね?お休みももらってるわね?それに――病欠とか、年金とかもいろいろも?」
「ほとんど首なしニック」が笑い出した。あんまり高笑いしたので、ひだ襟がずれ、真珠色の薄皮一枚でかろうじて繋がっている首が、ポロリと落ちてぶら下がった。
「病欠に、年金?」
ニックは首を肩の上に押し戻し、ひだ襟でもう一度固定しながら言った。
「屋敷しもべは病欠や年金を望んでいません!」
ハーマイオニーはほとんど手をつけていない自分の皿を見下ろし、やおらナイフとフォークを置き、皿を遠くに押しやった。
「ねえ、アーミーニー」
ロンは口がいっぱいのまま話しかけたとたん、うっかりヨークシャー・プディングをハリーに引っかけてしまった。
「ウォッと――ごめん、アリー――」
「ちょっとロン、食べてから言いなさいよ」
が顔をしかめると、ロンは口の中のものを飲み込んだ後、口を開いた。
「君が絶食したって、しもべ妖精が病欠を取れるわけじゃないよ!」
「奴隷労働よ」
ハーマイオニーは鼻からフーッと息を吐いた。
「このご馳走をつくったのが、それなんだわ。奴隷労働!
ハーマイオニーはそれ以上一口も食べようとしなかった。
雨は相変わらず降り続き、暗い高窓を激しく打った。雷鳴がまたバリバリッと窓を震わせ、嵐を映した天井に走った電光が金の皿を光らせたそのとき、一通り終わった食事の残り物が皿から消え、サッとデザートに変った。
「ハーマイオニー、糖蜜パイだ!」
ロンがわざとパイの匂いをハーマイオニーのほうに漂わせた。
「ごらんよ!蒸しプディングだ!チョコレート・ケーキだ!」
ハーマイオニーがマクゴナガル先生そっくりの目つきでロンを見たので、ロンもついに諦めた。
デザート見きれいにさっぱり平らげられ、最後のパイ屑が消えてなくなり、皿がピカピカにきれいになると、アルバス・ダンブルドア校長が再び立ち上がった。大広間を満たしていたガヤガヤというおしゃべりが、ほとんどいっせいにピタリとやみ、聞こえるのは風の唸りと叩きつける雨の音だけになった。
「さて!」
ダンブルドアは笑顔で全員を見渡した。
「みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつか知らせるべきことがある。もう一度耳を傾けてもらおうかの。管理人のフィルチさんからみんなに伝えるようにとのことじゃが、城内持ち込み禁止の品に、今年はつぎのものが加わった。『叫びヨーヨー』、『噛みつきフリスビー』、『殴り続けのブーメラン』。禁止品は全部で四三七項目あるはずじゃ。リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ。確認したい生徒がいればじゃが」
ダンブルドアの口元がヒクヒクッと震えた。
引き続いてダンブルドアが言った。
「いつものとおり、校庭内にある森は、生徒立ち入り禁止。ホグズミード村も、三年生になるまでは禁止じゃ。寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目であるの」
「エーッ!」
ハリーは絶句した。チームメイトのフレッドとジョージを振り向くと、二人ともあまりのことに言葉もなく、ダンブルドアに向かってただ口をパクパクさせていた。
ダンブルドアの言葉が続く。
「これは、十月に始り、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方もほとんどの時間とエネルギーをこの行事の為に費やすことになる――しかしじゃ、わしは、みんながこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう。今年、ホグワーツで――」
しかし、ちょうどこのとき、耳を劈く雷鳴とともに、大広間の扉がバタンと開いた。
戸口に一人の男が立っていた。長いステッキに寄りかかり、黒い旅行マントを纏っている。大広間の頭という頭が、いっせいに見知らぬ男に向けられた。今しも天井を走った稲妻が、突然その男の姿をくっきりと照らし出した。男はフードを脱ぎ、馬の鬣のような、長い暗灰色まだらの髪をブルッと振るうと、教職員テーブルに向かって歩き出した。
一歩踏み出すごとに、コツッ、コツッという鈍い音が大広間に響いた。テーブルの端に辿り着くと、、男は右に曲がり、一歩ごとに激しく体を浮き沈みさせながら、ダンブルドアのほうに向かった。再び稲妻が天井をよぎった。ハーマイオニーが息を呑んだ。
稲妻が男の顔をくっきりと浮かび上がらせた。それは、がいままでに見たどんな顔とも違っていた。人の顔がどんなものなのかをほとんど知らない誰かが、しかも鑿の使い方に不慣れなだれかが、風雨にさらされた木材を削って作ったような顔だ。その皮膚は、一ミリの隙もないほど傷痕に覆われているようだった。口はまるで斜めに切り裂かれた傷口に見え、鼻は大きく削がれていた。しかし、男の形相が恐ろしいのは、何よりもその目のせいだった。
片方の目は小さく、黒く光っていた。もう一方は、大きく、丸いコインのようで、鮮やかなブルーだった。ブルーの目は瞬きもせず、もう一方の目とはまったく無関係に、グルグルと上下、左右に絶え間なく動いている――ちょうどその目玉がくるりと裏返しになり、瞳が男の真後ろを見る位置に移動したので、正面からは白目しか見えなくなった。
見知らぬ男はダンブルドアに近づき、手を差し出した。顔と同じぐらい傷痕だらけのその手を握りながら、ダンブルドアが何かを呟いたが、ハリーには聞き取れなかった。見知らぬ男に何か尋ねたようだったが、男はニコリともせずに頭を振り、低い声で答えていた。ダンブルドアは頷くと、自分の右手の空いた席へ男を誘った。
男は席に着くと暗灰色の鬣をバサッと顔から払い除け、ソーセージの皿を引き寄せ、残骸のように残った鼻のところまで持ち上げてフンフンと匂いを嗅いだ。次に旅行用のマントのポケットから小刀を取り出し、ソーセージをその先に突き刺して食べ始めた。片方の正常な目はソーセージに注がれていたが、ブルーの目は忙しなくグルグル動き回り、大広間や生徒たちを観察していた。
「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生をご紹介しよう」
静まり返った中でダンブルドアの明るい声が言った。
「ムーディ先生です」
新人の先生は拍手で迎えられるのが普通だったが、ダンブルドアとハグリッド以外は職員も生徒もだれ一人として拍手しなかった。二人の拍手が、静寂の中でパラパラと寂しく鳴り響き、その拍手もほとんどすぐにやんだ。ほかの全員は、ムーディーのあまりに不気味なありさまに呪縛されたかのように、ただじっと見つめるばかりだった。
ムーディ?
ロンがいぶかしげに呟いた。
「知り合い?」ハリーが尋ねた。
「今朝、パパが助けに行った人だ。ゴミバケツがなんとかってパパが言ってた」
「ゴミバケツ?」は噴出しそうになった。
「それにしてもあの人、いったいどうしたのかしら?」ハーマイオニーが囁いた。「あの顔、何があったのかしら?」
「さあ」
ロンは、ムーディに魅入られたように見つめながら、囁き返した。

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ムーディの色気にロンもメロメロ。