Tiara ティアラ
「あぁ、ハリー、!」
シリウスの家に帰ったとたん、ハリーとは母親たちから抱擁を受けた。
「無事なのね!」
二人の母親は涙が混じった笑顔でハリーとを見た。
「無事だよ、母さん」ハリーが優しい微笑みを浮かべ、リリーに言った。
、もう体調は大丈夫なのかい?」
出し抜けにルーピンが聞いた。
「え、うん。でも、どうしてリーマスが知ってるの?」
「ジェームズの守護霊さ」
はふと、昨日ジェームズが道の途中で杖を取り出して守護霊を出したのを思い出した。
「チョコレート余ってるけど、食べるかい?」
「・・・・・いらないわ、リーマス」
はチョコレートを食べるより、また温かいベッドの中に入りたくて仕方なかった。
「それより、少し寝たい」
がそう言うと、が優しい微笑みを浮かべて、「早くおやすみなさい」と言った。
「僕も少し寝るよ」ハリーも疲れているようで、に続いて寝室に向かった。
「あのさ、」ハリーが出し抜けに言った。
「僕、君にまだ言っていないことがあるんだ」
が振り返ると、ハリーが真剣な目をして自分を見ていた。はその目に一瞬だが、ドキリとした。
「今朝、ロンとハーマイオニーに話したときに、ヴォルデモートとワームテールが何かを話してたって言っただろう?」
が頷くと、ハリーは深呼吸して、一気に言った。
「あれ、本当はちゃんと聞いてたんだ――やつら、僕を殺す計画を練ってた」
しばらく、はハリーの言葉が飲み込めなかった。
「――本当なんだ」
「誰も嘘だなんて思ってないわ」
は素早く言い返した。
「ただ・・・・・驚いただけ」
は無理矢理ハリーに笑顔を向けた。
「パパたちはなんて?」
「何も話してない」ハリーが答えた。
「父さんたちには、傷が痛んだとしか言ってない。たかが夢の話をするなんて――」
「でも、夢じゃないかもしれないわ」が口を挟んだ。
「でも、夢じゃないかもしれない証拠もない」
は頑固なハリーに呆れると、諦めるしかないのかな、と悟った。
「まあ、いいわ。どうせジェームズは私たちの夢が今回の事件と関係あるかもしれないって言ってるから・・・・・警戒だけは怠ってないようよ」
ハリーも「わかってる」とに頷いてみせると、今度は「おやすみ」と言った。確かにそこはの寝室前だった。

それから一週間、ハリーもも悪夢を見ることはなかった。シリウスやジェームズ、リーマスはそれでも三人を心配していたが、やリリーは一先ずは安心したようだ。
そして明日は二人がホグワーツに戻るという日曜の夕方、とリリーがにこにこしながらの部屋に入ってきた。は一瞬で、これは良くない兆候だと感じたが、あの二人から逃げることは出来なかった。
「さてと」
部屋のドアを閉めて、がにこやかに言った。
「去年、シリウスからプレゼントされたティアラはどこにあるの?」
がムスッと黙ったままでいると、リリーが呼び寄せ呪文での銀のティアラを見つけ出した。
「一体、何するの?」がふて腐れて言うと、がにっこり笑ってどこからともなく薄い水色のパーティドレスを取り出した。
「学校からのリストに、今年はドレスローブを準備することって書いてあったの」が楽しそうに言った。
「でね、どうせならがホグワーツに行ってしまう前に、のドレス姿を見たくてね」
多分、にとっても、リリーにとってもはお人形だった。二人でああでない、こうでない、と何十分間もを整え、一番可愛くなるように仕上げた。
「黙ってれば、貴族のお嬢様ね」
リリーがを上から下までながめて言った。
「まあ、リリー、そんなこと言わないでよ。は十二分に可愛いわ」の頭にティアラを乗せた。
「もう良いでしょ」
はお腹もへって不機嫌だった。
「だめ」
しかし、そう簡単にはいかなかった。
「今夜はもハリーも正装で食事するんだから」
このとき、初めては母親が鬼に見えた。大好きなルーピンもいるのに、こんな格好は恥ずかしかった。
けれど、案外が思っていたより酷くなかった。厨房にはすでにシリウス、ジェームズ、ルーピン、ハリーが着席していて、温かくを迎えた。真っ先にの美しさに反応したのはジェームズだった。
「うん、文句のつけようがないほど可愛くって、ただボーっとするね。それに――」
ジェームズはの頭に乗っているティアラにそっと触れた。
「よく似合ってる」
は不本意ながらも、ジェームズの言葉にドキリとした。
「やっぱり今年はホグワーツに行かせたくないなあ」
ジェームズは愛おしげにを抱きしめたが、リリーの乱入により、すぐに終わった。
「まったく、隙も油断もないんだから!」
はリリーにがみがみ言われているジェームズを尻目に、ルーピンの隣に座った。
「可愛いよ、
「ありがとう、リーマス」
はルーピンの微笑みに少し赤くなった。
「それにしても、今回はジェームズの気持ちがよくわかるよ」
ルーピンは苦笑しながらシリウスを振り返った。
「まあな」
シリウスは頬杖をつきながらを見ていた。そして、と目が合うと、ニヤリと笑って言った。
「よく似合ってる」
はなんだか傲慢な、それでいて優しげな態度がとてもシリウスに似合うと思った。
「男には気をつけろよ」
にはシリウスが何を言いたいのか良くわからなかったが、それを聞くのは面倒なので、素直に頷いておいた。
「ハリー」
そのとき、がポンッとハリーの肩をたたき言った。
「物は試しに、と一曲踊ってみたら?」
ハリーはなかなか頷こうとしなかったが、五人の大人たちの押しに負けて、ゆっくりと立ち上がると、の椅子の隣にたった。
ハリーのパーティ用ローブは深緑色で、制服とそんなに変わりなかった。
「一緒に踊りませんか」
「喜んで」

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自慢の娘ですね。