The Quidditch World Cup クィディッチ・ワールドカップ
「さて、次は」
ルード・バグマンの声が轟いた。
「どうぞ、杖を高く掲げてください・・・・・アイルランド・ナショナルチームのマスコットに向かって!」
次の瞬間、大きな緑と金色の彗星のようなものが、競技場に音を立てて飛び込んできた。上空を一周し、それから二つに分かれ、少し小さくなった彗星が、それぞれ両端のゴールポストに向かってヒューッと飛んだ。突然、二つの光の玉を結んで競技場にまたがる虹の橋がかかった。観衆は花火を見ているように、「オォォォォーッ」「アァァァーッ」と歓声を上げた。虹が薄れると、二つの光の玉は再び合体し、一つになった。今度は輝く巨大なシャムロック――三つ葉のクローバー――を形作り、空高く昇り、スタンドの上空に広がった。すると、そこから金色の雨のようなものが降りはじめた――。
「すごい!」
ロンが叫んだ。シャムロックは頭上に高々と昇り、金貨の大雨を降らせていた。金貨の雨粒が観客の頭といわず客席といわず、当たっては撥ねた。眩しげにシャムロックを見上げたハリーは、それが顎鬚を生やした何千という小さな男たちの集まりだと気づいた。みんな赤いチョッキを着て、手に手に金色か緑色の豆ランプを持っている。
「レプラコーンだ!」
群集の割れるような大喝采を塗って、ウィーズリーおじさんが叫んだ。金貨を拾おうと、椅子の下を探し回り、奪い合っている観衆がたくさんいる。
「ほーら」
金貨をひとつかみハリーの手に押し付けながら、ロンがうれしそうに叫んだ。
「万眼鏡の分だよ!これで君、僕にクリスマス・プレゼントを買わないといけないぞ、やーい!」
巨大なシャムロックが消え、レプラコーンはヴィーラとは反対側のピッチに下りてきて、試合観戦のため、あぐらをかいて座った。
「さて、レディーズ・アンド・ジェントルメン。どうぞ拍手を――ブルガリア・ナショナル・チームです!ご紹介しましょう――ディミトロフ!」
ブルガリアのサポータたちの熱狂的な拍手に迎えられ、箒に乗った真っ赤なローブ姿が、遥か下方の入場口からピッチに飛び出した。あまりの速さに、姿がぼやけて見えるほどだ。
「イワノバ!」
二人目の選手の真紅のローブ姿はたちまち飛び去った。
「ゾグラフ!レブスキー!ボルチャノフ!ボルコフ!そしてぇぇぇぇぇぇぇ――クラム!
「クラムだ、クラムだ!」
ロンが万眼鏡で姿を追いながら叫んだ。の隣で、ハリーも万眼鏡を取り出し、いろいろと試しながらそれを使っていた。一方、はあんまりクイディッチに興味はなかったが、ビクトール・クラムについてはなんだか気になった。もハリーと同じように万眼鏡の焦点を合わせ、クラムの姿を追った。クラムは、色黒で黒髪の痩せた選手で、大きな曲がった鼻に濃い眉をしていた。育ちすぎた猛禽類のようだ。まだ十八歳だとはとても思えない。
「では、みなさん、どうぞ拍手を――アイルランド・ナショナルチーム!」
バグマンが声を張り上げた。
「ご紹介しましょう――コノリー!ライアン!トロイ!マレット!モラン!クィグリー!そしてぇぇぇぇぇ―――リンチ!
七つの緑の影が、サッと横切りピッチへと飛んだ。
「そしてみなさん、はるばるエジプトからおいでの我らが審判、国際クィディッチ連盟の名チェア魔ン、ハッサン・モスタファー!」
痩せこけた小柄な魔法使いだ。つるつるにはげているが、口髭はたっぷりだ。スタジアムにマッチした純金のローブを着て堂々とピッチに歩み出た。口髭の下から銀のホイッスルが突き出し、大きな木箱を片方の腕に抱え、もう片方で箒を抱えている。モスタファーは箒にまたがり木箱を蹴って開けた。四個のボールが勢いよく飛び出す。真っ赤なクアッフル、黒いブラッジャーがニ個、そしてい、羽のある金色のスニッチ。ホイッスルを鋭く一吹きし、モスタファーはボールに続いて空中に飛び出した。
「試あぁぁぁぁぁぁぁぁい、開始!」バグマンが叫んだ。
「そしてあれはマレット!モラン!ディミトロフ!またマレット!トロイ!レブスキー!モラン!」
はこんなクィディッチの試合振りは見たことがなかった。選手の動きが信じられないほど速い―――チェイサーがクアッフルを投げ合うスピードが速すぎて、バグマンは名前を言うだけでいっぱいだ。
トロイ、先取点!
バグマンの声が轟き、スタジアムは拍手と歓声の大音響に揺れ動いた。
「一〇対〇、アイルランドのリード!」
「えっ?」
ハリーが万眼鏡であたりをグルグル見回した。
「だって、レブスキーがクアッフルを取ったのに!」
「ハリー、普通のスピードで観戦しないと、試合を見逃すわよ!」
が叫んだ。トロイが競技場を一周するウイニング飛行をしているところで、はハーマイオニーと同じく、ピョンピョン飛び上がりながら、トロイに向かって両手を大きく振っていた。サイドラインの外側で試合を見ていたレプラコーンが、またもや空中に舞い上がり、輝く巨大なシャムロックを形作った。ピッチの反対側で、ヴィーラが不機嫌な顔でそれを見ている。
もクィディッチについてはいささかの知識があたので、アイルランドのチェイサーたちが飛び切りすばらしいことがわかった。一糸乱れぬ連携プレー。まるで互いの位置関係で互いの考えを読み取っているかのようだった。
最初の十分で、アイルランドはあと二回得点し、三〇対〇と点差を広げた。緑一色のサポーターたちから、雷鳴のような完成と嵐のような拍手が湧き起こった。
試合運びがますます速くなり、しかも荒っぽくなった。ブルガリアのビーター、ボルコフとボルチャノフは、アイルランドのチェイサーに向かって思い切り激しくブラッジャーを叩きつけ、三人の得意技を封じはじめた。チェイサーの結束が二度も崩されてバラバラになれた。ついにイワノバが敵陣を突破、キーパーのライアンもかわしてブルガリアが初のゴールを決めた。
「耳に指で栓をして!」
ウィーズリーおじさんが大声をあげた。ヴィーラが祝いの踊りを始めていた。数秒後、ピッチをチラリと見ると、ヴィーラはもう踊りをやめ、クアッフルはまたブルガリアが持っていた。
「ディミトロフ!レブスキー!ディミトロフ!イワノバ――うおっ、これは!」
バグマンが唸り声を上げた。二人のシーカー、クラムとリンチがチェイサーたちの真ん中を割って一直線にダイビングしていた。その速いこと。飛行機からパラシュートなしに飛び降りたかのようだった。は万眼鏡で落ちていく二人を追い、スニッチはどこにあるかと目を凝らした。
「地面に衝突するわ!」
ハーマイオニーが悲鳴をあげた。半分当たっていた――ビクトール・クラムは最後の一秒でかろうじてグイッと箒を引き上げ、クルクルと螺旋を描きながら飛び去った。ところがリンチはドスッという鈍い音をスタジアム中に響かせ、地面に衝突した。アイルランド側の席から大きな呻き声があがった。
「バカモノ!」ウィーズリーおじさんが呻いた。
「クラムはフェイントをかけたのに!」
「タイムです!」
バグマンが声を張り上げた。
「エイダン・リンチの様子を見るため、専門の魔法医が駆けつけています!」
「大丈夫だよ。衝突しただけだから!」
真っ青になってボックス席の手摺から身を乗り出しているジニーに、チャーリーが慰めるように言った。
「もちろん、それがクラムの狙いだけど・・・・・」
数分して、リンチがやっと立ち上がった。緑を纏ったサポーターたちがワッと沸いた。リンチはファイアボルトに跨り、地を蹴って空へと戻った。リンチが回復したことで、アイルランドは心機一転したようだった。モスタファーが再びホイッスルを鳴らすと、チェイサーが、いままで見たどんな技も比べものにならないような素晴らしい動きを見せた。
それからの十五分、試合はますます速く、激しい展開を見せ、アイルランドが勢いづいて十回のゴールを決めた。百三〇対一〇とアイルランドがリードして、試合は次第に泥試合になってきた。
マレットがクアッフルをしっかり抱え、またまたゴール目がけて突進すると、ブルガリアのキーパー、ゾグラフが飛び出し、彼女を迎え撃った。何が起こったやら、の見る間も与えず、あっという間の出来事だったが、アイルランド応援団から怒りの叫びが上がった。モスタファーが鋭く、長くホイッスルを吹き鳴らしたので、いまのは反則だったとわかった。
「モスタファーがブルガリアのキーパーから反則を取りました。『コビング』です――過度な肘の使用です!」
どよめく観衆に向かって、バグマンが解説した。
「そして――よーし、アイルランドがペナルティ・スロー!」
マレットが反則を受けたとき、怒れるスズメバチの大群のようにキラキラ輝いて空中に舞い上がっていたレプラコーンが、今度は素早く集まって空中文字を書いた。
ハッ!ハッ!ハッ!
ピッチの反対側にいたヴィーラがパッと立ち上がり、怒りに髪を打ち振り、再び踊り始めた。
ウィーズリー家の男の子とポッター家の二人はすぐに耳で栓をしたが、そんな心配のないが、すぐにハリーの腕を引っ張った。はハリーの視線が自分に向くと、もどかしそうにハリーの指を耳から引き抜いた。
「審判を見てよ!」
がクスクス笑った。
見下ろすと、ハッサン・モスタファー審判が踊るヴィーラの真ん前に下りて、なんともおかしなしぐさをしていた。腕の筋肉をモリモリさせたり、夢中で口髭を撫で付けたりしている。
「さーて、これは放ってはおけません」
そう言ったものの、バグアンはおもしろくてたまらないという声だ。
「だれか、審判をひったいてくれ!」
魔法医の一人がピッチの向こうから大急ぎで駆けつけ、自分は指でしっかり耳栓をしながら、モスタファーの向こう脛をこれでもかとばかり蹴飛ばした。モスタファーはハッと我に返ったようだった。万眼鏡を覗いてみると、審判は思い切りバツの悪そうな顔でヴィーラを怒鳴りつけていた。ヴィーラは踊るのをやめ、反抗的な態度をとっていた。
「さあわたしの目に狂いがなければ、モスタファーはブルガリア・チームのマスコットを本気で退場させようとしているようであります!」
バグマンの声が響いた。
「さーて、こんなことは前代未聞・・・・・。ああ、これは面倒なことになりそうです・・・・・」
なりそうどころか、そうなってしまった。ブルガリアのビーター、ボルコフとボルチャノフがモスタファーの両脇に着地し、身振り手振りでレプラコーンのほうを指差し、激しく講義し始めた。レプラコーンはいまや上機嫌で「ヒー、ヒー、ヒー」の文字になっていた。
モスタファーはブルガリアの講義に取り合わず、人差し指を何度も空中に突き上げていた。飛行体勢に戻るように言っているに違いない。二人が拒否すると、モスタファーはホイッスルを短く二度吹いた。
「アイルランドにペナルティー二つ!
バグマンが叫んだ。ブルガリアの応援団が怒って喚いた。
「さあ、ボルコフ、ボルチャノフは箒に乗ったほうがよいようです・・・・・よーし・・・・・乗りました・・・・・そして、トロイがクアッフルを手にしました・・・・・」
試合はいまや、これまで見たことがないほど凶暴になってきた。両チームのビーターとも、情け容赦なしの動きだ。ボルコフ、ボルチャノフはとくに、棍棒をメチャメチャに振り回し、ブラッジャーに当たろうが選手に当たろうが見境なしだった。ディミトロフがクアッフルを持ったモランめがけて体当たりし、彼女は危うく突き落とされそうになった。
反則だ!
アイルランドの応援団が、緑の波がうねるように次々と立ち上がり、いっせいに叫んだ。
「反則!」
魔法で拡声されたルード・バグマンの声が鳴り響いた。
「ディミトロフがモランを赤むけにしました――わざとぶつかるように飛びました――これはまたペナルティーを取らないといけません――よーし、ホイッスルです!」
レプラコーンがまた空中に舞い上がり、今度は巨大な手の形になり、ヴィーラに向かって、ピッチいっぱいに下品なサインをして見せた。これにはヴィーラも自制心を失った。ピッチの向こうから襲撃をかけ、レプラコーンに向かって火の玉のようなものを投げつけはじめた。万眼鏡で覗いていたには、ヴィーラが今やどう見ても美しいとはいえないことがわかった。それどころか、顔は伸びて、鋭い、獰猛な嘴をした鳥の頭になり、嘴に覆われた長い翼が肩から飛び出していた。
「ほら、おまえたち、あれをよく見なさい」
下の観客席からの大喧騒にも負けない声で、ウィーズリーおじさんが叫んだ。
「だから、外見だけにつられてはダメなんだ!」
魔法省の役人が、ヴィーラとレプラコーンを引き離すのに、ドヤドヤッとグラウンドに繰り出したが、手に負えなかった。一方、上空での激戦に比べればグラウンドの戦いなど物の数ではない。なにしろ、クアッフルが弾丸のような速さで手から手へと渡る――。
「レブスキー――ディミトロフ――モラン――トロイ――マレット――イワノバ――またモラン――モラン――モラン決めたぁ!
しかし、アイルランド・サポーターの歓声も、ヴィーラの叫びや魔法省役人の杖から出る爆発音、ブルガリア・サポーターの怒り狂う声でほとんど聞こえない。試合はすぐに再開した。今度はレブスキーがクアッフルを持っている――そしてディミトロフ――。
アイルランドのビーター、クリグリーが、目の前の通るブラッジャーを大きく打ち込み、クラム目がけて力のかぎり叩きつけた。クラムは避けそこない、ブラッジャーがしたたかに顔に当たった。
競技場が呻き声一色になった。クラムの鼻が折れたかに見え、そこら中に血が飛び散った。しかし、モスタファー審判はホイッスルを鳴らさない。はそれも当然だと思った。ヴィーラの一人が投げた火の玉で、審判の箒の尾が火事になっていたのだ。
ロンとハリーはアイルランドの応援だったが、どうやらクラムは別者らしく、クラムをとても心配していた。
「タイムにしろ!ああ、早くしてくれ。あんなんじゃ、プレーできないよ。見て――」
リンチを見て!
ロンをさえぎってハリーが叫んだ。アイルランドのシーカーが急降下していた。
「スニッチを見つけたんだよ!見つけたんだ!行くよ!」
観客の半分が、事態に気づいたらしい。アイルランドのサポーターが緑の波のように立ち上がり、チームのシーカーに大声援を送った・・・・・しかし、クラムがピッタリ後ろについていた。クラムが自分の行く先をどうやって見ているのか、ハリーにはまったくわからなかった。クラムのあとに、点々と血が尾を引いていた。それでもクラムはいまやリンチと並んだ。二人が一対になって再びグラウンドに突っ込んでいく・・・・・。
「二人ともぶつかるわ!」ハーマイオニーが金切り声をあげた。
「そんなことない!」ロンが大声をあげた。
「リンチがぶつかる!」ハリーが叫んだ。
そのとおりだった――またもや、リンチが地面に激突し、怒れるヴィーラの群れがたちまちそこに押し寄せた。
「スニッチ、スニッチはどこだ?」
チャーリーが列のむこうから叫んだ。
「とった――クラムが捕ったわ――試合終了よ!」
が叫び返した。
赤いローブを血に染め、血糊を輝かせながら、クラムがゆっくりと舞い上がった。高々と突き上げたこぶしの、その手の中に、金色の煌きが見えた。大観衆の頭上にスコアボードが点滅した。
ブルガリア 一六〇  アイルランド 一七〇
何が起こったのか観衆には飲み込めていないらしい。しばらくして、ゆっくりと、ジャンボ機が回転速度を上げていくように、アイルランドのサポーターのざわめきがだんだん大きくなり、歓喜の叫びとなって爆発した。
アイルランドの勝ち!
バグマンが叫んだ。アイルランド勢と同じく、バグマンもこの突然の試合終了に度肝を抜かれていた。
クラムがスニッチを捕りました――しかし勝者はアイルランドです――なんたること。だれがこれを予想したでしょう!」
「クラムはいったい何のためにスニッチを捕ったんだ?」
ロンはピョンピョン飛び跳ね、頭上で手を叩きながら大声で叫んだ。
「アイルランドが一六〇点もリードしてるときに試合を終わらせるなんて、ヌケサク!」
「絶対に点差を縮められないってわかってたんだよ」
大喝采しながら、ハリーは騒音に負けないように叫び返した。
「アイルランドのチェイサーがうますぎたんだ・・・・・クラムは自分のやり方で終わらせたかったんだ。きっと・・・・・」
「あの人、とっても勇敢だと思わない?」
ハーマイオニーがクラムの着地するところを見ようと身を乗り出した。魔法医の大集団が、戦いもたけなわのレプラコーンとヴィーラを吹っ飛ばして道を作り、クラムに近づこうとしていた。
「でも、メチャメチャ重症みたいだわ・・・・・」
が顔をしかめて見せた。
「まあ、ヴぁれヴぁれは、勇敢に戦った」
背後で沈んだ声がした。振り返ると、声の主はブルガリア魔法大臣だった。
「ちゃんと話せるんじゃないですか!」ファッジの声が怒っていた。
「それなのに、一日中わたしにパントマイムをやらせて!」
「いやぁ、ヴぉんとにおもしろかったです」
ブルガリア魔法大臣は肩をすくめた。
「さて、アイルランド・チームがマスコットを両脇に、グラウンド一周のウイニング飛行をしている間に、クィディッチ・ワールドカップ優勝杯が貴賓席へと運び込まれます!」
バグマンの声が響いた。突然眩い白い光が射し、は目が眩んだ。貴賓席の中がスタンドの全員に見えるよう魔法の照明が点いたのだ。目を細めて入り口の方を見ると、二人の魔法使いが息を切らしながら巨大な金の優勝杯を運び入れるところだった。大優勝杯はコーネリウス・ファッジに手渡されたが、ファッジは一日中無駄に手話をさせられていたことを根に持って、まだブスッとしていた。
「勇猛果敢な敗者に盛大な拍手を―――ブルガリア!」
バグマンが叫んだ。すると、敗者のブルガリア選手七人が、階段を上がってボックス席へと入ってきた。スタンドの観衆が、賞賛の拍手を送った。
ブルガリアの選手はボックス席の座席の間に一列に並び、バグマンが選手の名前を呼び上げると、一人ずつブルガリア魔法大臣と握手し、次にファッジと握手した。列の最後尾がクラムで、まさにボロボロだった。それでも、クラムの名が呼び上げられると、スタジアム中がワッと鼓膜が破れんばかりの大歓声を送った。
それからアイルランド・チームが入ってきた。エイダン・リンチはモランとコノリーに支えられている。二度目の激突で目を回したままらしく、目がウロウロしている。それでも、トロイとクィグリーが優勝杯を高々と掲げ、下の観客席から祝福の声が轟き渡ると、うれしそうにニッコリした。
いよいよアイルランド・チームがボックス席を出て、箒に乗り、もう一度ウイニング飛行を始めると――エイダン・リンチはコノリーの箒の後ろに乗り、コノリーの腰にしっかりしがみついてまたボーっと曖昧に笑っていた――バグマンは杖を自分の喉に向け、「クワイエタス!静まれ!」と唱えた。
「この試合は、これから何年も語り草だろうな」
しゃがれた声でバグマンが言った。
「実に予想外の展開だった。実に・・・・・いや、もっと長い試合にならなかったのは残念だ・・・・・ああ、そうか・・・・・そう、君たちに借りが・・・・・いくらかな?」
フレッドとジョージが自分たちの座席の背を跨いで、ルード・バグマンの前に立っていた。顔中でニッコリ笑い、手を突き出して。

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クイディッチ・ワールドカップがやっと幕を閉じました。