Miniature Krum ミニ・クラム
朝日が初々しく昇り、霧も晴れ、今はあたり一面に広がったテント村が見渡せた。四人は周りを見るのがおもしろくて、ゆっくり進んだ。他のキャンパーも次々と起きだしていた。最初にゴソゴソするのは、小さな子供のいる家族だ。大きなピラミッド型のテントの前で、まだ二歳にもなっていない小さな男の子が、しゃがんで、うれしそうに杖で草地のナメクジを突っついていた。ナメクジは、ゆっくりとサラミ・ソーセージぐらいに膨れ上がった。四人が男の子のすぐそばまで来ると、テントから母親が飛び出してきた。
「ケビン、何度言ったらわかるの?いけません。パパの――杖に――さわっちゃ――きゃあ!」
母親が巨大ナメクジを踏みつけ、ナメクジが破裂した。母親の叱る声に混じって、小さな男の子の泣き叫ぶ声が、静かな空気を伝って四人を追いかけてきた。
「ママがナメクジをつぶしちゃったぁ!つぶしちゃったぁ!」
は思わず、昔、自分がどんな子供だったかをシリウスから聞かされたときのことを思い出した。自分も相当な悪戯っ子だったらしい。
そこから少し歩くと、ケビンよりちょっと年上のオチビ魔女が二人、おもちゃの箒に乗っているのが見えた。つま先が露を含んだ草草をかすめる程度までしか上がらない箒だ。魔法省の役人が一人、早速それを見つけて、ハリー、ロン、、ハーマイオニーの脇を急いで通り過ぎながら、困惑した口調で呟いた。
「こんな明るい中で!親は朝寝坊を決め込んでいるんだ。きっと――」
あちこちのテントから、大人の魔法使いや魔女が顔を覗かせ、朝餉の支度に取り掛かっている。なにやらコソコソしているかと思うと、杖で火を熾したり、マッチを擦りながら、こんなことで絶対に火がつくものかと怪訝な顔をしている者もいた。三人のアフリカ魔法使いが、全員白い長いローブを着て、ウサギのようなものを鮮やかな紫の炎で炙りながら、まじめな会話をしていた。かと思えば、中年のアメリカ魔女たちが、テントとテントの間にピカピカ光る横断幕を張り渡し、その下に座り込んで楽しそうに噂話にふけっていた。
「あれっ――僕の目がおかしいのかな。それとも何もかも緑になっちゃったのかな?」ロンが言った。
ロンの目のせいではなかった。四人は、三つ葉のクローバーでびっしりと覆われたテントの群れに足を踏み入れていた。まるで、変った形の小山がニョッキリと地上に生えだしたかのようだった。テントの入り口が開いているところからは、住人がニコニコしているのが見えた。
「ハリー!ロン!!ハーマイオニー!」
同じグリフィンドールの四年生、シェーマス・フィネガンが、ハリーとロン、、ハーマイオニーを呼んだ。やはり三つ葉のクローバーで覆われたテントの前に座っている。そばにいる黄土色の髪をした女性はきっと母親だろう。それに親友の、同じくグリフィンドール生のディーン・トーマスも一緒だった。
「この飾り付け、どうだい?」
シェーマスはニッコリした。
「魔法省は気に入らないみたいなんだ」
「あら、国の紋章を出して何が悪いって言うの?」
フィネガン夫人が口を挟んだ。
「ブルガリアなんか、あちらさんのテントに何をぶら下げているか見てごらんよ。あなたたちは、もちろん、アイルランドを応援するんでしょう?」
夫人はハリー、ロン、、ハーマイオニーを、キラリと見ながら聞いた。
フィネガン夫人に、ちゃんとアイルランドを応援するからと約束して、四人はまた歩き始めた。もっともロンは、「あの連中に取り囲まれてちゃ、ほかになんとも言えないよな?」と言った。
「ブルガリア側のテントに、何がいっぱいぶら下がっているのかしら」
ハーマイオニーが言った。
「見に行ってみましょ」
は大きなキャンプ群を指差した。そこには赤、緑、白のブルガリア国旗が翩翻と翻っていた。
こちらのテントには植物こそ飾り付けられてはいなかったが、どのテントにもまったく同じポスターがベタベタ張られていた。真っ黒なげじげじ眉の、無愛想な顔のポスターだ。もちろん顔は動いていたが、ただ瞬きして顔をしかめるだけだった。
「クラムだ」ロンがそっと言った。
「だれ?」
クィディッチにあまり興味がないはロンに問いかけた。
「クラムだよ!ビクトール・クラム。ブルガリアのシーカーの!」
「とっても気難しそう」
ハーマイオニーは四人に向かって瞬きしたり睨んだりしている大勢のクラムの顔を見回しながら言った。
「とっても気難しそうだって?」
ロンは目をグリグリさせた。
「顔がどうだって関係ないだろ?すっげぇんだから。それにまだほんとに若いんだ。十八かそこらだよ。天才なんだから。まあ、今晩、見たらわかるよ」
キャンプ場の隅にある水道には、もう、何人かが並んでいた。ハリー、ロン、、ハーマイオニーも列に加わった。そのすぐ前で、男が二人、大論争をしていた。一人は年寄りの魔法使いで、花模様の長いネグリジェを着ている。もう一人はまちがいなく魔法省の役人だ。細縞のズボンを差し出し、困り果てて泣きそうな声をあげている。
「アーチー、とにかくこれを履いてくれ。聞き分けてくれよ。そんな格好で歩いたらダメだ。門番のマグルがもう疑いはじめてる――」
「わしゃ、マグルの店でこれを買ったんだ」
年寄り魔法使いが頑固に言い張った。
「マグルが着るものじゃろ」
「それはマグルの女性が着るものだよ。アーチー。男のじゃない。男はこっちを着るんだ」
魔法省の役人は、細縞のズボンをヒラヒラ振った。
「わしゃ、そんなものは着んぞ」
アーチーじいさんが腹立だしげに言った。
「わしゃ、大事なところに爽やかな風が通るのがいいんじゃ。ほっとけ」
これを聞いて、ハーマイオニーはクスクス笑いが止まらなくなり、苦しそうに列を抜けた。戻ってきたときには、アーチーは水を汲み終わって、どこかに行ってしまったあとだった。
あちこちでまた顔見知りに出会った。ホグワーツの生徒やその家族たちだ。ハリーたちの寮のクィディッチ・チームのキャプテンだったオリバー・ウッドもいた。ウッドは、卒業したばかりだったが、自分のテントに四人を引っ張って行き両親にハリーを紹介したあと、プロチームのパルドミア・ユナイテッドと二軍入りの契約を交わしたばかりだと、興奮して告げた。
次にであったのは、ハッフルパフの四年生、アーニー・マクラミアン。それから間もなく、チョウ・チャンに出会った。とてもかわいい子で、レイブンクローのシーカーでもある。チョウはハリーに微笑みかけて手を振り、ハリーも手を振り返したが、水をどっさり撥ねこぼして洋服の前を濡らしてしまった。はそれを見て、なんだか腹立たしくなって、そっぽを向いた。
「あの子たち、だれだと思う?」
ハリーがそう尋ねる声が聞こえて、はチラリと目を向けた。そこにはいままで会った事がない同じ年頃の子供たちの一大集団がいた。
「ホグワーツの生徒、じゃないよね?」
「どっか外国の学校の生徒だと思うな」ロンが答えた。
「学校がほかにもあるってことは知ってるよ。ほかの学校の生徒に会ったことはないけど。ビルはブラジルの学校にペンパルがいたな・・・・・もう何年も前のことだけど・・・・・それでビルは学校同士の交換訪問に行きたかったんだけど、家じゃお金が出せなくて。ビルが行かないって書いたら、ペンパルがすごく腹を立てて、帽子に呪いをかけて送ってよこしたんだ。お陰でビルの耳が萎びちゃってさ」
はビルに悪いと思ったが少し笑ってしまった。ロンが面白おかしく言うからいけないのだ。
「遅かったなあ」
四人がやっとウィーズリー家のテントに戻ると、ジョージが言った。
「いろんな人に会ったんだ」
水を降ろしながらロンが言った。
「まだ火を熾してないのか?」
「親父がマッチと遊んでてね」フレッドが言った。
ウィーズリーおじさんは火をつける作業がうまくいかなかったらしい。しかし、努力が足りなかったわけではない。折れたマッチが、おじさんの回りにぐるりと散らばっていた。しかも、おじさんはわが人生最高のとき、という顔をしていた。ジェームズは絶対にマッチの使い方を知っているはずなのに、傍らで、おじさんがマッチと戯れているのを楽しげに見つめている。
「うわっ!」
おじさんは、マッチを擦って火をつけたものの、驚いてすぐ取り落とした。
「ウィーズリーおじさん、こっちに来てくださいな」
ハーマイオニーがやさしくそう言うと、マッチ箱をおじさんの手から取り、正しい使い方を教え始めた。
やっと火がついた。しかし、料理ができるようになるには、それから少なくとも一時間はかかった。それでも、見物するものには事欠かなかった。ウィーズリー家のテントは、いわば競技場への大通りに面しているらしく、魔法省の役人が気ぜわしく行きかった。通りがかりにみんながおじさんやジェームズに丁寧に挨拶した。仕事を辞めても、ジェームズは何故かみんなに敬意を払われているようだった。多分、それはジェームズの人柄の所為だろうとは思った。おじさんは、ひっきりなしに解説した。自分の子供立ちは魔法省のことをいやというほど知っているので、いまさら関心はなく、主にハリーと、ハーマイオニーのための解説だった。いくら両親が魔法省に勤めていたとは言え、ハリーもも両親から魔法省の話を聞く機会はあまりなかったのだ。
「いまのはカスバート・モックリッジ。小鬼連絡質の室長だ・・・・・いまやってくるのがギルバート・ウィンプル。実験呪文委員会のメンバーだ。あの角が生えてからもうずいぶんたつな・・・・・やあ、アーニー・・・・・アーノルド・ピーズグッドだ。『忘却術士』――ほら、『魔法事故リセット部隊』の隊員だ・・・・・そしてあれがボードとクローカー・・・・・『無言者』だ・・・・・」
「え?なんですか?」
「神秘部に属している。極秘事項だ。いったいあの部門は何をやっているのやら・・・・・」
ついに火の準備が整った。卵とソーセージを料理しはじめたとたん、ビル、チャーリー、パーシーが森のほうからゆっくりと歩いてきた。
「パパ、ただいま『姿現わし』しました」パーシーが大声で言った。
「ああ、ちょうどよかった。昼食だ!」
卵とソーセージの皿が半分ほど空になったとき、ウィーズリーおじさんが急に立ち上がってニコニコと手を振った。大股で近づいてくる魔法使いがいた。
「これは、これは!」おじさんが言った。
「時の人!ルード!」

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やっと全員そろいましたね!