「ハリー」
土曜日の朝、ウィーズリー家にハリーとが旅立つ前日、なかなかハリーが起きてこず、はジェームズと一緒にハリーの部屋に向かった。
「ハリー、入るよ」
ジェームズは部屋のドアを開け、二人は足を踏み入れた。どうやらハリーは起きているようだったが、何か、様子がおかしい。おでこを押さえ、ベッドに座り込んで何かを考え込んでいる。ジェームズは異変に気づくとに向き直り、小さな声でシリウスとルーピンを呼んでくるように言った。そして、がドアに向かうのと一緒に、彼はハリーのわきに座って、ハリーが落ち着くのを待った。
「パパ、リーマス、ジェームズが呼んでる。一緒に来て」
厨房に着くと、はそう言って、二人をハリーの部屋まで連れてきた。
「どうした?」シリウスが近寄った。
が悪夢から目覚めたときのような緊張感が、三人の大人たちにはあった。はルーピンの影に隠れるようにしながら、ハリーをじっと見つめていた。
「傷が痛んだんだ。でも、この間痛んだときは、ヴォルデモートがホグワーツにいたからだった。でも、今僕の身近にいるはずなんてない」
ハリーは独り言のようにきっぱりとそう言うと、自分の隣にいるジェームズにもう大丈夫だと伝えた。しかし、大人たちは心配そうな表情だった。
「しかし、ハリー――」ルーピンが何かを言いかけたが、その後の言葉は出てこなかった。
「僕なら大丈夫だから」
ハリーはそう言って、着替えるために四人を自分の部屋から追い出した。
「何か、心配だね」
ジェームズがシリウスと一緒に、とルーピンの前を歩きながら呟いた。
「あまり良い気はしないな」ルーピンもの隣で、ジェームズの呟きに答えた。
「」
シリウスが突然、を振り返って見た。
「明日からのワールドカップ、気をつけて行くんだぞ」
には大人たちが一体、何を、どれだけ心配しているのか全く予想がつかなかったが、とりあえず頷いておくことにした。
「いらっしゃい、」
日曜日の夕方、煙突飛行粉でウィーズリー家に来たは、暖かい歓迎を受け、近くにいた見知らぬ赤毛の一人に助け起こされた。もう一人、は知らない赤毛がいたが、二人ともすぐに誰だか察しがついた。ビルとチャーリー、ウィーズリー家の長男と次男だ。助け起こしてくれた方はビルで、背が高く、髪を伸ばしてポニーテールにしていた。片耳に牙のようなイヤリングをぶら下げていた。服装は、ロックコンサートに行っても場違いの感じがしないだろう。ただし、ブーツは牛革ではなく、ドラゴン皮なのに気づいた。
がビルと握手を交わした後、ハリーがすぐ暖炉から出てきた。ビルはハリーを助け起こしにから離れ、暖炉の前に行ってしまった。なんだか、はハリーが羨ましくなった。
「やあ、、調子はどうだい?」
白木のテーブルに座っていたチャーリーは立ち上がると、に大きな手を差し出した。が握手すると、タコや水ぶくれが手に触れた。ルーマニアでドラゴンの仕事をしているチャーリーは双子の兄弟と同じような体つきで、ひょろりと背の高いパーシーやロンに比べると背が低く、がっしりしていた。人のよさそうな大振りの顔は雨風に鍛えられ、顔中ソバカスだらけで、それがまるっで日焼けのように見えた。両腕は筋骨隆々で、片腕に大きなテカテカした火傷の痕があった。
「さあ、夕食にしましょう。ここじゃ十二人はとても入りきらないわ――庭で食べることにしましょう」
ウィーズリーおばさんはそう言って、テキパキと指示をだしていった。ハリーももウィーズリーおばさんに少し休んでたら、と言われたが、手伝う気満々だった。ビルとチャーリーはさっさと庭に出て行ってしまっていた。フレッドとジョージもそのあとを面白そうについていった。
「それじゃあ、お嬢さんたち、お皿を外に持っていってくれる?そこのお二人さん、ナイフとフォークをお願い」
はハーマイオニーとジニーと運ぶべきお皿を三等分に分けて庭に向かった。勝手口から裏庭に出ると、がにまたのクルックシャンクスが飛び出してきた。瓶洗いブラシのような尻尾をピンと立て、足の生えた泥んこのジャガイモのようなものを追いかけている――庭小人だ。
身の丈せいぜい三十センチの庭小人は、ゴツゴツした小さな足をパタパタさせて庭を疾走し、ドアのそばに散らかっていたゴム長靴にヘッドスライディングした。クルックシャンクスがゴム長靴に前脚を一本突っ込み、捕まえようと引っかくのを、庭小人が中でゲタゲタ笑っている声が聞こえた。一方家の前のほうからは、何かがぶつかる大きな音が聞こえてきた。前庭に回ると、騒ぎの正体がわかった。ビルとチャーリーが二人とも杖をかまえ、使い古したテーブルを二つ、芝生の上に高々と飛ばし、お互いにぶつけて落としっこをしていた。フレッドとジョージは応援し、ジニーは笑い、ハーマイオニーはおもしろいやら、心配やら、複雑な顔で、生垣のそばでハラハラしている。は、やはりビルとチャーリーはフレッドとジョージの兄なのだと感じて、一人クスリと笑った。たった今来た、ハリーとロンは何事かという顔をしている。
ビルのテーブルがものすごい音でぶちかましをかけ、チャーリーのテーブルの脚を一本もぎ取った。上のほうからカタカタと音がして、みんなが見上げると、パーシーの頭が三階の窓から突き出していた。
「静かにしてくれないか?」パーシーが怒鳴った。
「ごめんよ、パース」ビルがニヤッとした。「鍋底はどうなったい?」
「最悪だよ」
パーシーは気難しい顔でそう言うと、窓をバタンと閉めた。ビルとチャーリーはクスクス笑いながら、テーブルを二つ並べて安全に芝生に降ろし、ビルが杖を一振りして、もげた脚を元に戻し、どこからともなくテーブルクロスを取り出した。
「パーシーはどうしたの?」はロンに近寄って、そう聞いた。
「魔法省極秘の仕事をしているって。『国際魔法協力部』の報告書さ。大鍋の厚さを標準化しようとしてるんだ」
「パーシーは、それじゃ、仕事が楽しいんだね?」ハリーが言った。
「楽しいかだって?」ロンは憂鬱そうに三階の窓を見上げた。
「パパに帰れとでも言われなきゃ、パーシーは家に帰らないと思うな。ほとんど病気だね。パーシーのボスのことには触れるなよ。
クラウチ氏によれば・・・・・クラウチさんに僕が申し上げたように・・・・・クラウチ氏の意見では・・・・・クラウチさんが僕におっしゃるには・・・・・きっとこの二人、近いうち婚約発表するぜ」
ロンのその言葉に、は思わず噴出した。パーシーが仕事熱心なのは今に始まったことではない。学生のときからそうだった。
「ハリー、、あなたたちの方はどうだったの?」
いつの間にかハーマイオニーが三人のそばに立っていて、誰も四人に注意を向けていないのを確認すると、そう聞いた。
「楽しかったわ――パパもリーマスも元気よ」
「ルーピンが君の家にいるの?」ロンが声をひそめて、に問いかけた。
「えぇ。彼、私の名付け親だったから――」
「
まさか!」三人はの言葉に驚いて、大声を上げた。いっせいに、庭にいた全員の目が四人に注いだ。
「本当よ。嘘だと思うなら、明日、ジェームズに聞いてみたらいいじゃない」
がちょっと脹れてみせたので、慌てて三人は謝った。
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