Birthday 誕生日
夏休みももう半分が過ぎようとしていた。ハリーの誕生日にはリリーやが腕を奮ってたくさんのご馳走を作り、そのほかの人間はハリーが少しでも楽しめるように、家を飾り付けた。もちろんもその一人だった。といっても、は未成年で魔法が使えないので、あまりする仕事はなかった。しかしそんなとき、はふと疑問を抱いたのだ。
「ねえ、ジェームズ」
はジェームズが厨房の床を魔法で綺麗にしているのを、邪魔しないようにそっと話し掛けた。
「なんだい?」ジェームズは手を休めてに向き直った。
「みんな、仕事、行かないの?」
はずっと気にかかっていた。たちが帰ってきてからジェームズもリリーもも出掛けていない。もちろん買い物は別だったが、それを除けは三人はずっと家にいた。
「ああ、そのことか。三人とも辞めたよ」
ジェームズの言葉を理解するのに、はしばらくかかった。
辞めた?
「うん、辞めた」
ジェームズはの驚いた顔が面白いのかクスクスと笑った。
「どうせ仕事はあまり興味なかったし、なにかと事件に巻き込まれる君たちが心配だったしね」
「でも・・・・・」
「お金のことなら心配いらない。シリウスほどじゃないけど、働かなくても生活できるくらいのお金はあるさ」
の心配を読み取ったようにジェームズが言った。
「ジェームズってすごいね」は心からそう思った。彼と知り合えて本当によかった――。
「ありがとう、」ジェームズが微笑んだ。
そんなこんなでハリーの誕生日は始まって、賑やかに幕を閉じた。
その少し後、今度は自身の誕生日だった。はあまり誕生日に執着はなかったが、祝われる身はまんざらでもなかった。
「誕生日おめでとう、
朝起きて厨房に行くとすでにジェームズとシリウスは起きていて、笑顔でを迎えた。
「ありがとう――リーマスは?」
キョロキョロ辺りを見回すと、いつも早起きなリーマスがまだいなかった。
「満月が近いから・・・・・」ジェームズがちょっと悲しげに言った。彼らにとっても友達が辛い思いをしているのに、自分たちには何も出来ないことが悔しいに違いない。
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても」
そのとき、明るい声でそう言いながらルーピンがと一緒に入ってきた。
「誕生日おめでとう、
「ありがとう」
がニッコリ笑うと、ルーピンもにニッコリと微笑んでみせた。
「プレゼントはの部屋にあるよ」
「僕のもあるからね!」
ルーピンとが楽しげに談笑していると、ジェームズが突然割り込んだ。
「知ってるよ、ジェームズ」がクスクスと笑った。そのとき、欠伸をしながらハリーが厨房に入ってきた。
「お――おめでとう、
「欠伸をしながら言われても嬉しくないわ」がちょっとむくれてみせると、ハリーは笑って祝いの言葉を言い直した。
「ハリー、
とリリーが一通の手紙を持ってきた。
「ロンから手紙よ」
「見せて!」
ハリーとは我先にと、の手にある手紙に急いだ。ハリーがから手紙を受け取ると、封を切った。

ハリー、、元気?二人とも誕生日おめでとう。プレゼント届いたよね。
ところで、二人はワールドカップに行く?パパがもしかしたら良い席が取れるかもしれないから二人の家族の分まで取ってくれるって。どうする?
なるべく返事は早めにくれよ。じゃあな。

ロン

「ワールドカップですって!」が嬉しそうに言った。
「父さん、行ってもかまわない?」ハリーがうきうきとジェームズを見ると、リリーの顔が少しだけ険しくなった。
「ご迷惑じゃないかしら」
「母さん、一生に一度、あるかないかなんだよ?」
ハリーが辛抱強くそう言うと、をチラリと見た。
「心配なの――なんか嫌な予感がする」
は心配そうな母親ににっこり笑って見せると、「大丈夫」と一言言った。
「でも――」
「それなら僕も一緒に行こう」
の肩をポンと叩いて、ジェームズが言った。
「僕もワールドカップは見たかったしね」
はまだ不安げだったが、シリウスに促されて、渋々と頷いた。
「リーマスもリリーもも行かないのかい?」ジェームズが問い掛けた。
「私は遠慮するわ。結果だけ知ればそれで良いから」
「私も、行かないわ」
リリーとが言った。
「わたしは満月の直後だからね・・・・・行きたいが、多分、無理だろう」リーマスが答えると、ジェームズは「そうか」と短く言った。
「ねえ、じゃあ私たち、行ってもいいの?」が恐る恐る聞くと、リリーが苦笑いしながら頷いた。
「やった!」
ハリーとはハイタッチすると、駆け足で部屋に向かった。ワールドカップに行けるのだ。
「ロンに感謝しなくちゃね」
ハリーの部屋で、二人は一枚の羊皮紙に向かい、が言った。
「ロンにも感謝しなくちゃいけないけど、ウィーズリーおじさんにも感謝しなくちゃ」
ハリーは律儀にそう訂正すると、ワールドカップに行くという返事を書いた手紙を折り畳み、ヘドウィグの脚にくくりつけた。
「なるべく早く、ロンのところへ届けてくれ」
ヘドウィグは威厳たっぷりにホーと鳴くと、愛情を込めてハリーの指を噛み、柔らかいシュッという羽音をさせて大きな翼を広げ、開け放った窓から高々と飛び立っていった。
「楽しみだ」
「えぇ、そうね」
二人は今や見えなくなりつつあるヘドウィグの姿を見送りながら言葉を交わした。
「ねぇ、ハリー」
ヘドウィグの姿が見えなくなると、はハリーのベッドに腰掛けて彼を見上げた。
「ママは何が心配なのかしら――嫌な予感って何?」
「それはわからないけど・・・・・」ハリーは窓の外に目をやり、口元が緩んだ。
「でも、外は明るい夏の日で、ワールドカップを見に行けるし、もうすぐみんなにまた会える。いまは何かを心配しろというほうが無理だ――たとえ、ヴォルデモート卿のことでもね」

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心配性な母親たちです。