Dirty house 汚い家
は昼食を食べると部屋にこもった。みんなの前で手紙を広げるのはなんだか愚かなような気がしたのだ。そして、はゆっくりと手紙の封を切った。案の定、セドリック・ディゴリーからだ。

やあ、。元気かい?
今、君がどういうふうに過ごしているのかわからないけど、楽しく夏休みを過ごしていてほしい。
今年、クィディッチのワールドカップがあるのは知ってる?僕の父さんはチケットを買う気満々のようだから、僕は行くことになると思う。もワールドカップに行けるといいのだけれど。
それで、夏休みは暇かな?もし暇なら僕とダイアゴン横丁でも散策しないかい?の方もいろいろあるだろうから、無理しなくていいからさ。
それじゃあ返事待ってるよ。
セドリック

は手紙を読み終えるとすぐに行動に移し、シリウスを探しに部屋を飛び出した。厨房を覗いてみたが、誰もいない。はシリウスの寝室に向かった。
「パパ?」
シリウスの寝室がある廊下はなんだか不気味で、は進もうか躊躇した。しかし、セドリックに早く返事を書きたい気持ちは強くて、はゆっくりと足を進めた。
廊下は一昨年と比べものにならないほど埃っぽく、なんだか闇の生き物が好みそうな廊下だと思った。そして、の予想は大当りで、いきなり頭の上からの頭と同じくらいの大きさの蜘蛛が降って来て、の頭に乗っかった。はその出来事に、当然ながら悲鳴を上げた。蜘蛛の脚が、自分の顔にかかり、糸が、の髪の毛とくっつく。すると、当然のようにシリウスの寝室から、シリウスとルーピンが飛び出してきて、の頭にいる蜘蛛を一目見るなり、杖を振って退治してしまった。そして、ルーピンはに駆け寄ると、の頭にくっついていた蜘蛛の糸を綺麗に取り払った。
「大丈夫かい?」
「うん・・・・・ありがとう」はあまりの手際の良さに、ちょっと驚いた。まるで、蜘蛛がいると予想していたかのようだった。
「でも、あの、なんで、ここら辺ってこんなに――えっと・・・・・――汚いの?」
がそう言うと、シリウスが苦笑しながら答えてくれた。
「一年間、誰も住んでいなかったらこうなった。クリーチャーは掃除もなにもしなかったらしい。お前たちの部屋や厨房はひとまず綺麗にしたんだが、他のところまで手が回らなくてな・・・・・最初に注意するべきだったが、忘れていた。客間とかには絶対に行くな。何がいるかわからないから・・・・・」
はシリウスの言葉が脅しではない、と思って素直に頷いた。
「バックビークは大丈夫なの?」ふと、はシリウスとバックビークがこの家に隠れているのを思い出して、そう聞いた。
「バックビークは大丈夫だ――・・・・・多分」
「パパ!」
が怒った顔をすると、シリウスは笑いながら「冗談だ」と言った。
「それで、何の用だったんだい?シリウスに用事があったんじゃないのかい?」ルーピンに優しく問いかけられて、は当初の目的を思い出した。
「遊びに行こうって誘われたの。行ってもいい?」
「ハリーにか?」
シリウスはなんだか不思議そうな顔をした。ハリーと出かけるときなら、いつも朝になって今日は出かけると言うはずなのに、今日は違う。
「ううん、別の人」はシリウスの前であまりセドリックの名前を言いたくなかった。言ったらなんだか、からかわれそうな気がしたのだ。
「だれだ?」
しかし、案の定、シリウスは鋭くに聞いた。はしばらく考えたが、観念してセドリックの名前を言うことにした。
「セドリック・ディゴリー」
「誰だ、それ?」
ああ、そうかとは納得した。シリウスが疑問に思うのも無理はない。この家で、セドリックの名前は一度も出ていない。しかし、ルーピンだけはホグワーツで教えていたこともあり、セドリックの名前を聞くとクスクスと笑い始めた。
「ハッフルパフ生でね、クィディッチのキャプテンでシーカーなんだ。いい子だよ。勉強もよく出来たし」
ルーピンがそう褒めてくれたので、はちょっと安心した。悪い印象をもたれるより、良い印象を持たれた方が断然良い。
「ねえ、いいでしょう?」
は恐る恐るシリウスの顔を覗き込んだ。傍らで、ルーピンは何が面白いのか、ずっと笑っている。
「ねえ、リーマスも笑ってないで、一緒にお願いしてよ!」はウンともスンとも言わないシリウスをもどかしく思い、ずっと笑ってばかりいるルーピンにちょっと腹が立って、そう言った。
「大丈夫だよ、。名付け親として、わたしが許してあげるから」
そのルーピンの発言に、シリウスは唖然としたし、は舞い上がった。
「本当?ありがとう、リーマス!大好きよ!」
は嬉しさのあまりルーピンに抱きつき、そして返事を出すために部屋に戻った。
「おい、リーマス、勝手なこと言うなよ」
「可愛いをいつまで独り占めしておく気だい?」
ふくれっ面のシリウスと、ご機嫌なルーピンはまた寝室に引き上げた。

その二日後、セドリックから返事が来た。今週の土曜日に出かけませんか、と書いてある。がカレンダーを見るとあと二日後。急いで返事を出した。「もちろん、大丈夫です」
一方、ポッター家との母親のはそのことを知らなかった。も話さなかったし、四人もそんなことがあったなんて夢にも思っていなかった。それに、ハリーはやっと両親からホグズミードに行くための許可証にサインをもらい有頂天だった。そんなハリーの気分をぶち壊しにしたくなかったのだ。は先学期、セドリックの話をハリーとしたとき、彼が不機嫌になったのを忘れたわけではなかった。
そんなこんなで、セドリックと出かける日の前日、一応とリリーには話しておこうと思って、は自分の部屋にとリリーを呼んだ。二人は何故呼ばれたのか薄々気づいているようだった。
「明日、セドリック・ディゴリーっていう人とダイアゴン横丁に行くの」
「デートね!」リリーがすぐさま反応した。
「違うわよ」が赤くなって否定したが、効き目はない。
「でも、二人きりでしょう?ならデートよ」も悪乗りして、そう言った。は経験豊富なこの二人には、太刀打ちできないと諦めた。
「おまけに、ホグワーツから帰ってきたときにつけていたブレスレット、彼からの贈り物でしょう?」
の言葉に、はカッと真っ赤になった。
「へえ、それでバラの蕾・・・・・よかったわね、。恋が実って。バラの蕾の花言葉って愛の告白よ」
リリーがに言った。はリリーに改めて言われると、なんだか恥ずかしかった。一年生のとき、初めて会ってから、は彼がかっこいいと思っていた。ブラック家なのに恐れずに接してくれた彼、一人寂しそうにしていると必ず慰めてくれた彼、そして、自分のことをとても心配してくれた彼――。
「それじゃあ、明日はとっても可愛くしなくちゃね!」
目の前の二人がどんなことを企んでいるかも知らず、はセドリックに思いを馳せていた。

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セドリックからの手紙に舞い上がってしまいますね。