ハリーは主のいなくなった椅子に座り、ふさぎこんで床を見つめていた。そんなハリーに優しくダンブルドアが話しかけている。一方、はジェームズを見上げて、話しかけた。
「ルーピン先生は一度もジェームズを見なかったわ」
ジェームズはその理由を分かっているのか、ただ笑うだけで、返事はしてくれなかった。
「懐かしいね、何もかもが」
「どういう意味?」
ジェームズの呟きにが反応すると、ジェームズはいずれ分かる、との頭を撫でた。
「、家に帰るときは覚悟を決めておいた方がいい。リリーももきっと恐いから」
は悩んだ末、ジェームズに反論した。
「でも、今回のって、ジェームズたちが巻き込んだに等しいわ。初め、パパが私を『叫びの屋敷』に連れ込んだのだし、昨日だって、パパがロンを無理やり連れ込んだから、ああなったのよ――だから、ママたちには上手く言っておいてね」
がにこやかにそう言うと、ジェームズは頭を抱えた。この事実に気づいていなかったらしい。
「よし、わかった!」
ポンッと手を叩き、ジェームズがにこにこと笑顔になった。
「すべてシリウスの所為にしよ――」
は思い切りジェームズの脚を踏みつけた。ジェームズは飛び上がって、叫び声を上げた。ハリーもダンブルドアも驚いて、二人を見た。
「、暴力反対だよ・・・・・」ジェームズが恨めしそうにを見た。
「ジェームズ、君は相変わらずじゃの」ダンブルドアがクスクスと笑った。
「いえいえ、そうでもないですよ」ジェームズも痛さに顔をしかめたものの、笑顔でダンブルドアに言った。
「一体、どうしたんだい?」
怒った顔で、ジェームズから離れ、はハリーの許に来た。
「だって、ジェームズが悪いのよ」が膨れてそう言うと、ハリーもそれだけで納得したように、ジェームズに差別したような視線を送った。
「ハリー、君もかい?」ジェームズが哀れそうな声を上げた。
「やれやれ。それなら僕もそろそろ家に帰るかな。潮時みたいだ」
ジェームズは突然、真面目な顔になって、ダンブルドアと握手した。
「くれぐれも気をつけるんじゃ、ジェームズ」
「わかっています、ダンブルドア」
ジェームズはハリーとに手を振ってみせると、部屋を出て行った。しばらく、ダンブルドアは彼の背中を見送っていたが、自分もひっそりと部屋を後にした。残されたはハリーに昨晩の話を強請った。
「僕とハーマイオニーはハーマイオニーの『逆転時計』で――『逆転時計』っていうのは時間を逆戻りさせる道具さ。ハーマイオニーはこれを使って今学期、全部の授業を受けてたんだ――それで、時間を三時間前までもどしたところからスタートした。ロンはまだ起きていなかったし、脚を骨折していたからどっちにしろダメだった。僕らはバックビークを助けた後、シリウスが閉じ込められている塔まで飛んで行って、彼を逃がしたのさ」
ハリーの話はとっても省略されていると感じただったが、これで何故あのときもう一人のハリーを見たのか納得したは何も言わなかった。ただ、ハリーに忠告しようと思っただけだ。
「時間を戻すときの掟として、誰にも見られちゃいけないっていうルールがあったと思うのだけれど、ハリー」
ハリーはいまいちピンとこなかったようで、を見つめていた。
「私、湖で吸魂鬼に襲われたとき、あなたが守護霊を出すのを見たの。湖の向こう岸でね」
サッとハリーの顔が青くなったが、はあまり気にしなかった。
「大丈夫よ。私、そのことをジェームズにしか話してないわ。ジェームズはあなたたちがシリウスを助けたとき、どうやったのか知っているから、気にすることないと思う」
「脅かさないで、」
ハリーがホッと胸をなでおろし、に抗議の声を上げた。
「脅かしていないわ。ただ、忠告しただけよ」がクスリと笑った。
「でも、本当にありがとう。今年、ずっとあなたに助けられてばっかりで・・・・・本当にごめんなさい。迷惑かけてばっかりで・・・・・ありがとう」
は少し迷った後、決意した。彼には言葉で感謝してもしきれない。
「あなたがわたしを信じるって言ってくれたときは、本当に嬉しかった――どうもありがとう」
はハリーの頬に自分の唇を軽く触れさせると、少しばかり駆け足で部屋を出て行った。昔は普通に出来たことが、今はとても恥ずかしい。
どこに行きたい、というわけでもなかったが、は一人になりたくて、ふくろう小屋に向かった。今日はホグズミードに行ける日だったので、人影はなかった。
ふくろう小屋にはヘドウィグがいて、丸い目をに向けた。
「あなたももうすぐ家に帰れるよ」
は腕を突き出して、ヘドウィグが自分の腕に留まると、優しくその羽を撫でた。
「!」
そのとき、いきおいよく誰かが突っ込んできたため、ヘドウィグはびっくりして飛び去ってしまった。振り向くと、セドリック・ディゴリーがハアハアしながら息を整えている。
「ど、どうしたの?」
はびっくりしてセドリックに駆け寄った。
「君を――探して――たんだ」セドリックは途切れとぎれに言った。
「私を?」はオウム返しに聞いた。
「ああ。昨日、君がまた襲われたって聞いて」
「大丈夫よ、セドリック」はにっこり笑った。「怪我はもう治ったわ」
「そうじゃない――」
セドリックは真剣な顔でを真っ正面から見た。その眼差しに、は不謹慎ながらもドキッとした。
「身体の傷はあっという間に治せるけど、心の傷はすぐには治せないだろう?君が落ち込んでるんじゃないかと思って――」
そうか、とは一人納得した。周りの人々はシリウスが娘の自分を襲ったと思い込んでいる。確かにそれが事実ならにはすごい打撃だ。
「だから、少しでも気を紛らわせられればと思って・・・・・」
セドリックが差し出したのはピンクの紙袋だった。
「これ――」はまじまじとセドリックを見た。
「あ、ホグズミードで売ってたものなんだけど・・・・・何が好きなのか、知らなかったから、気に入らないかもしれない――」
「ううん、すごくうれしい!」はセドリックの言葉をさえぎった。紙袋を受け取って、セドリックに笑いかけた。
「ありがとう。心配かけてごめんね」
「いや、元気なら、それで僕はいいから」
セドリックは少し照れながらそう言うと、嬉しそうなを一人残して出て行った。
久しぶりの登場、セドリック。