Rose bud バラの蕾
セドリックからもらったのはブレスレットだった。中心には小さな二枚のバラの葉っぱとその上に何故か、小さなピンクのバラのつぼみがついていた。バラのつぼみはどうやら天然石のようだ。この色からして、「ローズクォーツ」だろう。
「つぼみのバラなの?一体、どういうことかしら」
はちょっと不思議に思いながらも、セドリックがくれたブレスレットを左腕につけて、は談話室に戻った。もうそろそろハリーたちも談話室に戻ってくる時間だ。
学期の最後の日に、試験の結果が発表された。ハリー、ロン、、ハーマイオニーは全科目合格だった。おまけに、は初めての学年トップだ。魔法史や、占い学でさえ、とてもの成績とは思えない点数で、何かの間違いではないか、と疑ったほどだった。ハーマイオニーの成績を少しだが上回っている。ハーマイオニーは少し悔しそうだ。そして、グリフィンドール寮は、おもにクィディッチ優勝戦の目覚しい成績のあかげで、三年連続で寮杯を獲得した。そんなこんなで、学期末の宴会は、グリフィンドール色の真紅と金色の飾りに彩られ、グリフィンドールのテーブルはみんながお祝い気分で、一番賑やかだった。

翌朝、ホグワーツ特急がホームから出発した。
「私、今朝、朝食の前にマクゴナガル先生にお目にかかったの。『マグル学』をやめることしにたわ」
「だって、君、百点満点の試験に三百二十点でパスしたじゃないか!」ロンが言った。
「そうよ」ハーマイオニーがため息をついた。
「でも、また来年、今年みたいになるのには耐えられない。あの『逆転時計』、あれ、私、気が狂いそうだった。返したわ。『マグル学』と『占い学』を落とせば、また普通の時間割りになるの」
「君が僕たちにもそのことを言わなかったなんて、いまだに信じられないよ」ロンがふくれっ面をした。「僕たち、君の友達じゃないか」
「誰にも言わないって約束したの」
ハーマイオニーがきっぱり言った。それからの方を見た。は流れていく窓の外を見て、思いにふけっていた。
「ねえ、、元気を出して!」ハーマイオニーがの肩を抱いた。
「私、元気よ」は急いでハーマイオニーに笑顔を向けた。「ただ、外を見てただけ・・・・・」
「そう、それなら良いのだけれど」ハーマイオニーはあまり信じていないようだ。「それに、この間から気になっていたのだけれど、あなたのそのブレスレット、一体どうしたの?」
ハーマイオニーがそう聞くと、ハリーもロンも興味津々で、のブレスレットを覗き込んだ。
「なんだ、コレ?バラの花じゃなくて、つぼみなの?」ロンが笑った。
「あら、ロン、知らないの?バラのつぼみってね――」
「わー!ハーマイオニー、ダメ!」
は急いでハーマイオニーの口をふさいだ。
「ダメ、ダメ!絶対に言っちゃダメ!」は真っ赤になって、ハーマイオニーに向かって叫んだ。
「わかったわよ、。言わないわ」ハーマイオニーはクスクス笑って、の耳元に自分の口を近づけて、小さな声で聞いた。
「誰からもらったの?」
「セドリック・ディゴリー」も顔が赤いまま、ハーマイオニーの耳元で、彼の名前を囁いた。ハーマイオニーのクスクス笑いがもっと酷くなって、ハリーとロンが知りたそうな視線を二人に痛いほどぶつけた。
「なんだよ?」ロンが不満そうな声を上げた。
は話をそらさなければ、とふと窓の外を見ると、何か小さくて灰色のものが窓ガラスのむこうでピョコピョコ見え隠れしている。良く見ると、ふくろうのようだ。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、でんぐり返っている。
「ねえ、ふくろうがいるんだけど・・・・・窓、開けるからね」
はそう言うが早いが、窓を開け、腕を伸ばしてそれをつかまえた。ふくろうはの膝の上に手紙を落とすと、コンパートメントの中をブンブン飛び回り始めた。任務を果たして、誇らしく、うれしくてたまらない様子だ。ヘドウィグが気に入らない様子で、嘴をカチカチ鳴らし、威厳を示した。クルックシャンクスは椅子に座りなおし、大きな黄色い目でふくろうを追っていた。それに気づいたロンが、ふくろうをサッとつかんで、危険な目から遠ざけた。
は手紙を取り上げた。ハリーと宛だった。
「ハリー、私たち宛よ」はハリーに手紙を見せた。「読み上げるわね」
は封を破り、中身を見た。
「パパたちからよ!」
「えーっ!」ハリーもロンもハーマイオニーも興奮した。「早く読んで!」

 ハリー、、元気か?
 君たちが駅に着く前に届きますよう。そうしなければ、意味がないからね。バックビークもわたしも無事だ。もう安全なところにいる。

「多分、もう家に帰れたのよ!ジェームズがリリーとママを説得するって言ってたから」が満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、誤解は解けたんだね」ハリーも嬉しそうに笑った。

 今はそれだけ言っておこう。この手紙が別の人の手に渡ることも考えてね。このフクロウが信頼できるかどうか、少し心配なところがあるが、しかし、これ以上のが見つからなかったし、このフクロウは熱心にこの仕事をやりたがったのでね。
 もう何人かのマグルにホグワーツから離れた場所で、わたしの姿を目撃させたから、城の警戒はもうすぐ解かれるはずだ。
 短い間しかハリーと会っていないので、ついぞ話す機会がなかったことがある。ファイアボルトを贈ったのはわたしとジェームズだ。がもう話してしまったかもしれないが――。

、君、知ってたの?」ハリーが目を丸くしてに問いかけた。
「えぇ。だって、パパたちと密会していたから。呪いなんかかけられていないことも知っていたわ」
がちょっと咎めるような視線をハーマイオニーに送ると、ハーマイオニーはバツが悪いのか、目をそらしてしまった。はまた手紙を読み始めた。

クルックシャンクスがわたしにかわって、注文をふくろう事務所に届けてくれた。ハリーの名前で注文したが、金貨はわたしの金庫から出すよう業者に指示した。君たちには今年、多大な迷惑をかけた。その代償だと思ってほしい。
 去年、ハリーがおじさんの家を出たあの夜に、ハリーを怖がらせてしまったことも許してくれたまえ。安否を確かめたかっただけだが、わたしの姿はハリーを驚かせてしまったことだろう。
 それと、よかったら、君たちの友達のロンがこのフクロウを飼ってくれたまえ。ネズミがいなくなったのはわたしの所為だし。
                                            シリウス

ロンは目を丸くした。チビフクロウはまだ興奮してホーホー鳴いている。
「こいつを飼うって?」
ロンは何か迷っているようだった。ちょっとの間、フクロウをしげしげと見ていたが、それから、驚くハリーと、そしてハーマイオニーの目の前で、ロンはフクロウをクルックシャンクスの方に突き出し、臭いをかがせた。
「どう思う?」ロンが猫に聞いた。「まちがいなくフクロウなの?」
クルックシャンクスが満足げにゴロゴロと喉を鳴らした。
「僕にはそれで十分な答えさ」ロンがうれしそうに言った。「こいつは僕のものだ」
キングズ・クロク駅までずっと、四人は今年の冒険について語り合った。四人が9と4分の3番線のホームから柵を通って反対側に戻ってくると、そこにはもっとうれしいことが待ち受けていた。ジェームズ、リリー、がそこにはいた。
「ママ!」
はカートをほっぽり出して、に勢い良く抱きついた。懐かしいあの匂い。も優しくを抱きしめた。
「おかえり、
「ただいま、ママ」
ずっとに抱きついていたかっただったが、ハリーが自分を呼んでいた。自分のカートは自分で押すように言っている。
「ごめんね、ハリー」
が駆け足で戻ると、ハリーもロンもハーマイオニーも笑ってを迎え入れた。
「よかったわね、」ハーマイオニーが言った。
「うん!」
「夏休みはワールド・カップだぜ!」ロンが別れ際、そう言った。
「また手紙書くわ!今年はちゃんと受け取ってよね」ハーマイオニーは二人に手を振りながら、別れを告げた。
「行こう、
「もちろん」
ハリーとは二人並んでジェームズ、リリー、そしての元に集まった。やっと一年が終わった。そう思うと、はなんだか、悲しいとも思えたし、嬉しくも思えた。次に、ここに来るときは楽しい夏休みを過ごして、新学期に胸を膨らませているだろう。
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バラの蕾の意味は四巻で明らかにします^^