「私は、君の名付け親なんだ」
はその言葉を理解するのに数秒かかった。
「先生が、私の名付け親?」
重々しくルーピンが頷く一方で、は顔をほころばせた。
「ああ、なんて言ったらいいんだろう!」
は本当に嬉しそうに二人を見比べた。ルーピンは怪訝な顔をして、ジェームズは必死にクスクス笑いをこらえていた。
「嬉しいって素直に言ったらいいと思うよ、」
ジェームズが助け舟を出した。
「あ、うん、そうだね。とっても嬉しい!」
がとっても嬉しそうな顔をして自分を見つめるので、今度はルーピンは本当に驚いた顔をした。
「リーマス、まだ分からないのかい?は君が好きだし、君が名付け親でとても嬉しいんだよ。ね?」
ジェームズの言葉に、は勢い良く頷いた。
「でも・・・・・わたしは狼人間だ」ルーピンは事実を素直に受け入れることが出来なかった。
「そんなの気にしない!狼人間じゃないジェームズより、狼人間のルーピン先生の方が、私は好きですよ」
のその言葉にジェームズはちょっと傷ついた様子で、を恨めしそうに見た。
「たとえ話よ、ジェームズ。ジェームズも大好きだから」
が笑顔を向けると、ジェームズはコロッと気分を変えて、満面の笑みを浮かべた。
「ね、リーマス。はとっても良い子なんだよ」
ルーピンはじっとを見ると、やっと事実を受け入れられたのか、「あぁ」と呟いて笑顔になった。
「ジェームズ」
はちょっとした良い案を思いついてジェームズを呼んだ。
「先生とも一緒に住みたい!」
突拍子もないの言葉にジェームズは大笑いしたし、ルーピンは目を丸くした。
「ねえ、いいでしょう?」
「リーマスが良いと言ったらね」
ジェームズはおもしろがるようにそういうと、ルーピンを見た。
「、だけどわたしは――」
「狼人間。もう何十回も聞いたわ。それに、狼人間だということを理由に上げるなら、先生はもっと不利になるよ」
は一気にまくし立てて、ルーピンの返事を待った。
「どうしてだい?」ルーピンはやっとのことでそう聞いた。
「パパとジェームズは先生のために『動物もどき』になったんでしょう?それなら狼人間の先生のためにこれからも満月の度に犬と牡鹿でいなくちゃ!」
それを聞くと、ジェームズが笑い声を上げた。
「リーマス、の方が一枚上手だったみたいだね。君の負けだよ、観念して一緒に住んだらどうだい?」
しかし、それでもルーピンは頷かなかった。
「、住むとなればお金も必要なんだ。わたしは――」
「お金のことなら大丈夫よ。パパはアルファードおじいちゃんの遺産をもらったの。かなりの額だって言ってたわ」が口を挟むと、ルーピンは首を振った。どうしても住みたくないらしい。
「リーマス、単刀直入に聞くよ。君はシリウスの家で僕らと一緒に住みたいかい?住みたくないかい?」ジェームズはにこにこ笑いながらそう聞いた。
「それは住みたいよ。だけど――」
「なら大丈夫だ」
ジェームズはルーピンの話を最後まで聞かずにそう言った。
「君が住みたいなら、シリウスは喜んで迎え入れるよ。も希望するなら尚更だ――あいつはに甘いからね」
ルーピンは何かを言おうと口を開いたがそこから出たのはため息だった。
「君は相変わらずだ」ルーピンが言った。
「君もだよ」ジェームズはにこやかにそう言い返した。
「わたしは朝食を食べてくるよ。、君はここで彼と一緒に食べた方がいい。学校中が昨日のことを話題にしているから」
ルーピンはそう言って、机の上にトーストを出してくれた。マーマレード付きだ。
バタンとドアが閉まり、はジェームズと二人取り残された。ジェームズがトーストに手を出すのを見て、つられても手を出した。
「失敗しちゃったかな」がしょんぼり言った。
「わからないな」ジェームズが答えた。
二人はルーピンが帰ってくるまで他愛ない話をして過ごした。そして、は今年の夏、クィディッチのワールドカップがあることを初めて知った。
突然、ドアがバタンと開き、ルーピンが帰ってきた。蒼白な顔をしている。ジェームズがルーピンに駆け寄った。
「何があった?」
ルーピンはジェームズと目を合わせようとしなかったが、ついには折れて弱々しくジェームズを見て言った。
「狼人間だと言うことが知れ渡った」
「何故?」ジェームズが鋭く聞いた。
「スネイプが・・・・・話してしまった」
「あの野郎!」
ジェームズがすごい剣幕で部屋を出て行こうとすると、ルーピンが彼を引き止めた。
「やめてくれ、ジェームズ。スネイプが正しいんだ。昨晩、わたしは野放しだった。もしかしたら生徒に噛み付いていたかもしれないんだ!」
ルーピンの悲痛な叫びが、には苦しかった。
「わたしは辞表を書かなければ」
「先生!」
は思わず彼のローブをにぎりしめていた。
「先生、やっぱり家に来て!一緒に住んで下さい!先生は今までの『闇の魔術に対する防衛術』の先生の中で、一番良い先生だわ!私、まだ先生に教わりたいことがたくさんあるの!私の近くにいて!」
「」ルーピンは優しく彼女の頭を撫でた。
「わたしは君のような生徒を持てて、とても嬉しいよ。だが、わたしは行かなくては」
「誰もホグワーツを出ていくことを止めてない!」
はルーピンをにらみつけた。
「私、先生が出ていっちゃうのは仕方ないと思った。だから、出て行くことは止めてないわ。その代わりに家に住んでまだ教えていないことを教えてほしいの。そう頼んでるだけよ」
「しかし・・・・・」ルーピンは首を振った。
「駄目だ、」
「どうして!」は泣きそうになった。どうして自分は無気力なのだろう。シリウスの無実を証明できなければ、ルーピンを説得することもできない。
「止めるんだ、」ジェームズはルーピンのローブにしがみつくをはがしとり、優しく包み込んだ。はジェームズの腕の中で、ある決心をした。
「先生、『忍びの地図』を貸して下さい」
忍びの地図でどうしましょうか。