「ねえ、ジェームズ、どういうこと?なんでパパは助かるの?ダンブルドアは何がしたいの?」
ダンブルドアがいなくなると、は直ぐさまジェームズを質問攻めにした。しかし、ジェームズは不快に思う様子もなく、クスクスと笑いながらの興奮が収まるのを待っていた。
「ダンブルドアはね、シリウスを助ける方法を見つけたんだよ。でも、僕にもその方法はわからない。だけど、助けるのはハリーとあの女の子――ハーマイオニーだっけ?――だと思うよ。僕らはここにいて、これからリーマスが帰ってくるまでここにいる。シリウスを助けることはできないね?」
ジェームズの話には頷いた。
「もちろん、リーマスは今頃、森の中で駆け回っているから不可能だ。そして、ピーターを持っていた男の子――ロンだよね――は足を骨折して動けない。残るはあの二人しかいないっていうわけさ」
ジェームズは話し終えると、手近にあった椅子に腰掛けた。はジェームズの前の席に座って、机を挟んでジェームズと向かい合った。
「あのね。私、吸魂鬼に襲われたとき、向こう岸にハリーを見たような気がするの。ううん、絶対あれはハリーだった。だって向こう岸にいたハリーの守護霊が吸魂鬼を追い払ってくれたんだもん。でも、私と同じ岸側にもハリーはいたの。吸魂鬼にキスされそうになってた――うーん、でも、ハリーが同じ場所に二人も存在するわけない。そうでしょう?私、幻覚を見たのかも・・・・・」
ジェームズは何も言わずにただ微笑んで、一人悩むを見ていた。ただ、すべてを見抜いたような目だった。
「そういえば、」
しばらくの沈黙後、ジェームズが口を開いた。
「もしかして、君は僕たちが吸魂鬼に襲われたとき、僕の口にチョコレートを突っ込まなかったかい?」
は恐る恐る頷いた。なんだかジェームズが怒りそうな予感がしたのだ。
「やっぱりだった」
しかし、ジェームズは意に反して笑顔になった。
「怒らないの?」
「助けてくれたのに?」
ジェームズがの顔を覗き込んでクスクス笑った。
「でも、よくあのとき持っていたね、チョコレート」ジェームズがふと思い出したように言った。
「うん・・・・・ルーピン先生がクリスマスプレゼントにくれたわ。ハーマイオニーと同室で、先生は私との関係がバレないようにって言ってたから、急いでバッグに突っ込んだの。でも、後々チョコレートが溶けちゃわないか心配になって、ローブに入れ替えたのよ。それでずーっと忘れてた――私、先生に謝らなきゃ」
がポツンと呟くと、ジェームズが優しく「どうして?」と聞いた。
「だって、だって・・・・・私、先生からせっかくもらったのに、一口も食べなかった・・・・・先生、怒るわ」
はすっかり沈み込んでしまった。それを見て、ジェームズは何故か懐かしい匂いがした――心優しいあのの仕草ととても良く似ている。
「大丈夫だよ、」ジェームズはの頭を撫でた。
「リーマスはそんな男じゃない。でも、が気にするようなら、君の誕生日にクリスマスプレゼントの倍くらいのチョコレートでも贈ってくるよ」
「まさか!」
「本当さ」
ジェームズとはお互いを見てクスクス笑った。はジェームズと話しているうちにだんだんと落ち着いてきた。きっとシリウスは助かる、そう思えてくる。
「ジェームズはルーピン先生と友達なんでしょう?どうして今まで家に招いたりしなかったの?」突然、がそう聞くと、ジェームズが少し悩んだ。
「これは僕の口から言っていいのかわからないから、あまりきちんとは答えられない。だけど、の知らないところで僕らは繋がっていた。文通はしていたよ。だけど、さっきリーマスも言った通り、シリウスが追われ始めたあの日から、ぷっつり手紙は途絶えた。当然だけどね」
ジェームズが懐かしむように目を閉じた。きっと彼らの学生時代は楽しかったことだろう。ジェームズの楽しげな顔を見ているとなんだか羨ましくなってくる。彼らは今でも友達なのだ――自分たちもそうなれるかな。
ジェームズは突然立ち上がって、教室を物色し始めた。いろんな想い出が詰まっているのだろうか。は目でジェームズを追っているうちに、思わず欠伸が出た。彼はそれには気づかずに、ぐるっと教室を一回りして、やっとの状態に気がついた。
「無防備だね、君も」
遠くでジェームズのそんな声が聞こえたが、が目を開けることはなかった。今夜はとてもいろんなことがありすぎて、心身ともに疲れきっていた。
机に突っ伏して眠っているに微笑みをもらしながら、ジェームズは彼女に自分のローブをかぶせてやった。そして、ルーピンが来るまで、久しぶりに彼女の寝顔でも見ていようと、向かい側に座ってじっと彼女の顔を見つめていた。
「別にわたしの部屋に入ってくれてもよかったのに」
「いやあ、なんだか悪い気がしてね」
「もうすぐ朝食だけど、君はここで食べていくかい?」
「そうだね、そうしよう。でも、その前に紅茶でも一杯飲みたいねえ、ムーニー」
「そういうところは遠慮しないんだね、プロングス」
遠くの方で今度はジェームズとルーピンの声が聞こえる。ルーピンが帰ってきたということは、もう夜は明けたのか。はまだ寝ていたかったが、足元が沈むのを感じてうっすらと目を開けた。
「おはよう、」
ジェームズがベッドのの足元に腰掛けて、こっちを見ている。
「おはよう・・・・・」はまだ寝ぼけた頭でそう返事した。すると、ジェームズが叫んだ。
「リーマス、の分の紅茶も追加だ!」
「はいはい」
向こうでルーピンのクスクス笑う声が聞こえる。
「――あれ?」は今更ながら、ここはどこだと上半身を起こしてあたりを見回した。ずいぶん見覚えがある部屋だ。
「リーマスの私室だよ。君が寝てからリーマスが帰ってきた。あまりに気持ち良さそうだったから、そのままリーマスのベッドに寝かしておいたのさ」
それを聞いてなんだか申し訳ない気持ちにもなったが、それよりはもっと重大な心配事を思い出した。
「パパは?パパ!どうなったの?助かった?」
はジェームズに掴みかかりそうな勢いで問い詰めた。ジェームズは大笑いしているし、紅茶を運んできたルーピンもクスクス笑いっぱなしだ。
「は元気だね――もちろん、あいつは助かった。詳細はハリーから聞くといいよ。今日の昼頃退院だ」
の顔がぱっと明るくなって、ジェームズに思わず抱きついた。
「よかった!」
しかし、そう思ったのもつかの間、気づいたときにはの背中にジェームズの腕が絡みついていた。
「ジェームズ、もう離してよ!」が怒ったが、ジェームズに効き目はない。それ以上に彼はを無視してルーピンを見ていた。
「リーマス、羨ましいかい?」
「に今にも嫌われそうだね、君は」
ルーピンの声にはどこか恐怖の響きがあった。
「残念だけど、君のルーピン先生がお怒りだから、僕は退散しよう」
パッとジェームズから手放されて、今まで離れようと必死に後ろに力を入れていたは勢い良くベッドに倒れこんだ。
「わっ」
「大丈夫かい、?」
ルーピンがを心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫です」はにっこり笑って起き上がった。これ以上ジェームズに遊ばれないうちに起きた方が良さそうだ。
三人は椅子に座って入れたての紅茶を飲み始めた。
「パパは家に帰ってくる?」
はふと疑問を口にした。ここから逃げおおせ、どこへ行くつもりなのだろうか。
「君が帰ってくるころには家にいるよ。今日、リリーとにすべてを話して誤解を解いたあと、シリウスを家に連れ込む手筈さ」
「ルーピン先生は?」
「――それはどういう意味だい?」
ルーピンはカップを置くと、をまじまじと見た。
「だって、先生、パパとジェームズの友達でしょう?家には泊まらないの?」
の純粋な気持ちに、ジェームズは苦笑した。彼は一筋縄でいくような男ではない。
「それに、ずっと気になっていたの。先生は私の何?」
ルーピンの顔色がサッと変わったが、はそれでも問いかけた。ジェームズは微笑みを浮かべてルーピンを見つめている。
「私は君の父親の友達・・・・・ただ、それだけだ」
「違うだろう、ムーニー」
ジェームズは微笑んでいるのに、どこか怒ったようにも見えた。
「リーマス、ちゃんと彼女に君の口から話すんだ。僕たちも逃亡中、彼女にその質問をされたけど、君の気持ちを取って答えなかった。でも、もう良いはずだ。君が彼女を拒む理由はもうないだろう?」
ルーピンは少し小刻みに震えると、細長い指を組んで、目を閉じた。何かを考えているようにも見える。緊張した沈黙が流れた。
「私は――」
ルーピンが再び口を開いたとき、の体もカチコチだった。
今度はルーピン先生寄りv多分・・・・・笑